香水のセレクトショップであるノーズショップは3月13日、世界最大級のニッチフレグランス見本市「エクサンス(Esxence)」のトレンドセミナーを開催した。同見本市は2009年からミラノで開催されており、今年は世界中から382ブランドが参加。セミナーでは、同見本市を訪れたノーズショップの中森友喜代表と調香師兼フレグランスジャーナリストの稲葉智夫氏が登壇し、見本市の状況や注目のトレンドなどについて語った。
ビジュアルや空間への投資でブランドの世界観を表現
トレンドのキーワードは“温かさ”や“安心感”
中森代表と稲葉氏が挙げる2025年のトレンドの香りは4種類。“モルテンアンバー”は、ソフトなアンバー調の香りで、多くの新作が登場したという。アンバーとはフランス語で琥珀のこと。フレグランスに使用されるアンバーグリスは、マッコウクジラの体内で作られた結石が排出された後に長時間かけて酸化したもので、とても高価なため、それに似た香料“アンブロキサン”が使われることが多い。中森代表は、「アンバーとムスクの組み合わせで人肌のような香りが人気だ」とコメント。
2つ目は“ノスタルジックムスク”。ムスクといえば、動物的香料の代表格でワイルドなイメージだ。稲葉氏は、「ムスクは、肌の香りを増幅するセクシーな香りとしてブームを繰り返してきたが、コロナ禍を機に変化した。セクシーというよりも、コクーンを想起させる清潔感、安心感のあるものが人気だ」と話す。最近増えているインテンスでも、柔らかく長く香るのがムスクの特徴だという。
ここ数年人気のグルマンが進化した“ネオグルマン”もトレンドの一つだ。グルマンは、洋菓子を想起させる甘く美味しい香り。「今年は、抹茶やピスタチオ、エキゾチックフルーツなど多国籍化した香りが登場。また、ココナッツやムスクに近いミルクアコードも人気」と稲葉氏。あらゆる人にとって最も身近な食というテーマで、広がりを見せている。
ウッディ系の“イン・ザ・ボスケージ”も注目だ。“ボスケージ”とは、森や木立のこと。コロナ禍を経てグリーン系の香りの人気が高まり、それが、アーシーな香りに変化しているという。稲葉氏は、「苔やカビなどをアクセントとしてアーシーな香りに足したものが増えている」と話す。
これらトレンドに共通するのは、“温かさ”や“安心感”だ。柔らかく包まれるようなアンバーやムスク、ほっと落ち着く土、美味しい食べ物、いずれも、心の安らぎを与えてくれるような香り。コロナ禍を経て変化する消費者の心理状況を表しているかのようで興味深い。
境目がなくなるニッチとメジャーの市場
日本でも年々盛り上がるニッチフレグランス。ファッションフレグランスとの違いについて稲葉氏は、「ニッチは新しいもの、面白いものと言う発から生まれる」と話す。新しい香料を使用したり、独自の素材ミックスで調香を試みたり、今までにない香りや真似できない香りにこだわるのがニッチの特徴だ。中森代表は、「カウンターカルチャー的なニッチフレグランスは冒険心が旺盛。そこからメジャーな市場へトレンドが広がることもある」と話す。以前は、ニッチとメジャーの市場が分断されていたのが、流行の裾野が広がり境目がなくなってきている。最近は、ニッチブランドでもアンバサダーを起用したマーケティング見られるという。「プロモーションに投資する金額が増え、ニッチを卒業するブランドが出てきている」と同代表。ニッチ市場の盛り上がりの中心にいるのがTikTok世代だ。稲葉氏は、「以前は、20代前半はスニーカーの限定品を買っていたが、今は香水にシフトしている。毎月数万円の香水を買う若者もいる」と話す。ノーズショップによる香水使用率の調査(20~40代、男女300人対象)によると普段香水を使用している20代の女性は約50%と新しい香水ユーザーが市場の伸びを牽引している。中森代表は、「日本は、まだ香りの多様性にかけるので、まだまだ伸び代がある。今後は、イベントなどを開催して消費者と作り手が会える場を作りたい」とコメントしている。