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ファストリ、サステナビリティ担当トップに聞くトレーサビリティー戦略【服作りはたどる・見せるが新常識】

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ファーストリテイリングは、厳選したサプライヤーとまるで自社工場を運営するかのように理想のサプライチェーン構築に取り組む。2021年には100名規模のプロジェクトチームを結成し、確実なトレーサビリティーの実現に向けて体制を強化中だ。新田幸弘ファーストリテイリンググループ執行役員(サステナビリティ担当)に、戦略について詳しく聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2023年8月7&14日号からの抜粋で、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)

WWD:トレーサビリティー戦略について教えてほしい。

新田幸弘ファーストリテイリンググループ執行役員(サステナビリティ担当)(以下、新田執行役員):現在は、取扱量が多いコットンに焦点を当てている。まずは、紡績工場を起点に原産国までを把握できる仕組みを作った。さらに、紡績よりも上流の工程において環境や人権への負の影響がないことを客観的に担保するために、第三者認証を活用している。将来的には、全ての素材で全工程を追跡する。

WWD:具体的なタイムラインは?

新田執行役員:数年以内をめどに、なるべく早く実現したい。今のところ、おおむね計画通りの進捗だ。「ユニクロ(UNIQLO)」が先行しているが、全グループブランドが同じ基準に達するのはもう少し時間がかかるだろう。当社は2030年度までに全使用素材の約50%をリサイクル素材などに切り替える方針だ。だからバージン素材の議論ばかりしていても仕方ない。リサイクルの工程をどうさかのぼっていくかも検討事項だ。

WWD:17年には業界で企業秘密とされてきた縫製工場の開示に踏み切った。理由は?

新田執行役員:私たちが掲げる“LifeWear”は、信頼できるサプライチェーンを通して初めてお客さまに安心して届けられるからだ。当社と取引のある縫製工場の数は400弱。素材、生地、紡績も厳選したサプライヤーと組んでいる。間口を狭めることで、品質やコストも管理がしやすくなるし、監査の範囲も絞れる。ちょうど先日動物系素材の原産地に視察に行った。地球環境や人権、動物愛護などの観点はもちろんだが、よい品質のモノづくりを連携して行い、農家の収入を上げ、最終的にはその地域全体に貢献する視点もとても大事だと思った。理想論に聞こえるかもしれないが、それでも全方向に働きかけないとお客さま、社会からの信頼は得られない。リスク回避の目的だけでなく、もっとアグレッシブに取り組んでいこうというのがわれわれの方針だ。

商品の全工程を透明化する新システムを導入

WWD:直近では、全工程を把握するためのシステムを導入した。具体的にどのような体制で取り組んでいる?

新田執行役員:もともと工場名や立地、生産数量などの情報をシステム上で管理していた。これに加えて、紡績工場や原材料の原産国など、上流工程の情報を含む商品ごとの商流を一元的に管理できるようにした。確実なトレーサビリティーには、データの記録と記録を確かめる体制が必要だ。予定された産地の素材で実際に生産されたのかといった実績の確認や、トレーサビリティー監査、労働環境監査の結果もシステム上で管理を始めた。

WWD:トレースしたデータはどのように活用する?

新田執行役員:一つはサプライヤーの選別だ。繰り返しになるが、なぜ透明化しているかというと、お客さまに良い品質の商品を提供するサプライチェーンの改善ためだ。監査で深刻なリスクがあれば、当然サプライヤーも替えていく。ただすぐ取引停止するわけではなく、まずは改善を促す。ペナルティー、教育、インセンティブが主な方法だが、この中でも特に今は教育活動に力を入れ、工場の中に人権や環境面に取り組める体制を作ってもらうことを重視している。従来は縫製工場および主要素材工場を対象に、当社の行動規範(生産パートナー向けのコードオブコンダクト)に合意・署名してもらう方法だった。しかし、縫製工場に、外注先にも責任を持ってくださいと頼むことはできても、実効性はないのでちょうどこの春から紡績工場にも直接アプローチしている。工場にとって監査は、最初は骨が折れるが、メリットも絶対にある。少しでも良い労働環境を作ることが企業価値につながるし、グローバル企業の取引先の対象にもなる。

WWD:自社工場を運営するかのようにサプライヤーと取り組んでいると。
新田執行役員:柳井(正社長)はいつも、「取引は、結婚するみたいなもんだから」と言っている。要するに、長期的な信頼関係の下で価値観を共有することが大切だということ。既存のサプライヤーも中長期的にはメリット感じてくれているから協力してもらえる。最初は、工場側も「『ユニクロ』の品質にするメリットって何でしょうか?」と思うわけだ。しかし今、やっぱりわれわれと取り組んでよかったと言ってもらえる。縫製産業は途上国の基幹産業だ。現地の雇用を生み出しその国のブランディングに貢献することがすごく大事。

次のチャレンジは、消費者への情報発信

WWD:消費者間ではファッション産業に対する漠然とした不安感が広がっているとも聞く。

新田執行役員:次のチャレンジは、お客さまへの情報発信だ。ただ情報が大量にあっても、信頼が生まれない。どんな情報開示が求められているかお客さまやその市場の声を聞きながら、取り組んでいきたい。今年中をめどに、「ユニクロ」のECサイトで個別商品のページに縫製国の掲載を開始する予定だ。その他の情報についても、お客さまが必要とする情報については随時開示していきたい。実際われわれの取引工場は近代的な工場ばかり。縫製産業が人手不足のなか、労働環境や給与福利厚生も含めて整えていかないと若い人も集まらない。われわれが組んでいるサプライヤーは機械化への投資も進んでいる。消費者が想像するほど、労働集約的な時代ではないと思う。こうした実態を伝えきれていない。アパレル産業に対するイメージを刷新することも業界のリーダーとしての役割だ。そこを伝えていかないと業界に未来がない。

WWD:「安心・安全」を伝えるための課題は?

新田執行役員:定期的に監査をしたり、第三者認証を取得したりしていても実際に小さい問題が発生してないとは言いきれない。だから私たちも直接現場に行くようにしているわけだが、100%安心・安全ですと言い切るのは難しい。それをどう伝えるべきかは悩ましい。まだ着手できていない素材もある。第三者認証に脆弱性があるものは、認証機関と協議したり、専門家を交えたりして一番良い仕組みを模索したい。新たな業界水準が必要であればリードしたいとも思っている。

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