ファッション
連載 サステナビリティって何?専門家が答えます。

サステナビリティって何? 専門家が答えます。番外編 サステナブルファッションの最先端教育の現場、ロンドン

 サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――といわれる一方で、具体的に何をどうしたらいいのかわからないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞いてその解決策を探る。本特集では、旬のデザイナーを生み続けているロンドンのファッション教育にも目を向けた。なぜなら、サステナビリティが必須になる今、次のデザインの潮流が見えると考えたからだ。

 名門セント・マーチン美術大学(CENTRAL SAINT MARTINS)からは、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)やアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)や、「クロエ(CHLOE)」「セリーヌ(CELINE)」を人気ブランドに押し上げたフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)、クリストファー・ケイン(Christopher Kane)らが、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション(London College of Fashion)からは、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)らが輩出している。多くの時代の寵児を生んできたロンドンの教育現場で今何が起きているのか。

マテリアルフューチャーズ学科と
バイオデザイン学科って何?

 セント・マーチン美術大学のMAコース(修士課程)にマテリアルフューチャーズという学科がある。多くの有力企業が新しいアイデアを探しに訪れ、修了生はトップ企業に就職している。

 有力企業が注目するのは、同学科がサステナビリティを念頭に置いた素材作りに取り組んでいるからだ。服ができるまでの環境負荷を数値化した場合、素材がその6~7割を占めるといわれており、サステナブルな素材開発は今最もホットな話題になっている。

 2019年に修了した学生の作品には、植物由来のスパンコールやイカの脚の吸盤にある歯から抽出したタンパク質を培養して作ったプリーツ用ののり(90度でアイロンをかければプリーツが完全に取れて生地がフラットになるため再利用しやすい。イカは殺さずに作れる)など、ユニークな研究成果が並ぶ。

 同学科では、さまざまなアプローチでサステナブルな素材を研究しているが、そんな中でも特に学生の人気を集めているのがバイオデザインだ。同大学ではこの9月からバイオデザインに特化した学科が新たにスタートした。それぞれの主任教授のインタビューは連載で追って紹介するが、非常に興味深い内容なので乞うご期待だ。

教育だけではない
若手のサポートシステム

 教育はもちろん重要だが、さらに発表の場としても、若手サポートに手厚いロンドン・ファッション・ウイークがある。ファッション・ウイーク以外でも卒業作品や修了作品を発表する場があり、メディアや企業が注目している点も強みだ。

 前述のマテリアルフューチャーズ学科は企業とも取り組んでおり(バイオデザイン学科も同様)、研究成果が認められ、「ナイキ(NIKE)」「アディダス(ADIDAS)」「プーマ(PUMA)」からラブコールが送られた学生もいたという。大学が最新技術を生む場所になり、有力企業が在学中からその技術開発を注視する――大学と企業が密につながっている点も、ロンドンのファッション教育が“旬”であり続けている理由だろう。

デザインプロセスを再考しながら
クリエイティブとは何かを研究

 8月にゴールドスミス大学(GOLDSMITHS)の副学長に就任したフランシス・コーナー(Frances Corner)教授にも会いに行った。コーナー教授は、直近ではロンドン・カレッジ・オブ・ファッションの学部長を務めており、ロンドンファッションを語る上で欠かせない人物だ。「より幅広い学科があるところで異なる視点を取り入れることが重要だった」とコーナー教授は言う。ゴールドスミスには、神経科学部や心理学部と共同で、デザインプロセスを見直しながらクリエイティビティーとは何かを研究している教授がいるという。学部を超えて研究が行われており、それをカリキュラムに取り込もうというのだ。「ゴールドスミスは、人間とは何か、そして社会の中における人間のあり方を追究している点が興味深い」と話す。

 ゴールドスミスは、セント・マーチンやカレッジ・オブ・ファッションと比べると、より理論に強くアカデミックな大学だ。ダミアン・ハースト(Damien Hirst)ら7人の卒業生がターナー賞を受賞するなど現代美術でも知られるが、実は政治学や社会学、心理学やメディア研究などでもよく知られるファッションデザイナーでは、マリー・クワント(Mary Quant)やマーガレット・ハウエル(Margaret Howell)がいる。

企業との取り組みと
新カリキュラムの導入

 セント・マーチンとゴールドスミス、それぞれの特徴を生かしたアプローチで、今、必要とされる教育が行われており、ロンドンのファッション教育の厚みを感じた。

 デザイナーはサステナビリティの鍵を握る。素材選びや生産工程ばかりではなく、売り方や捨て方までをデザインすることができるからだ。今、ロンドンでは、環境負荷が低い革新的な素材開発と、デザインプロセス自体の見直しが着々と行われている。

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