ファッション

イタリア服地業界のサステナ先導者に聞く 現在の課題と今日からできること

 イタリアの毛織物メーカー、レダ(REDA)のエルコレ・ボット・ポアーラ(Elcole Botto Poala以下、ポアーラ)社長はイタリア服地業界のキーマンの一人だ。ポアーラ社長は現在、ファッション素材見本市「ミラノ・ウニカ(MILANO UNICA)」の会長を務め、2年前にその経営の舵をサステイナビリティー追求に大きく切った。彼が旗振り役を務めて以来、素材メーカーの多くが具体的な一手を打ち始め、今サステイナビリティーの追求が大きなうねりになっている。

WWD:ファッション業界のサステイナビリティー追求において、さらに“循環型”の重要性が叫ばれるようになった。

ポアーラ社長兼「ミラノ・ウニカ」会長(以下、ポアーラ):確かに循環型は一つの解決策ではある。ただし、答えはただ一つではない。いろんな答えがある。例えば、効果的に生産すること、廃棄物を出さないこと、生産工程で出る廃棄物を再利用すること、生分解性のものを作ること、長く使えるものを作ること、そしてもちろん循環型のプロダクトを作ることなどがある。サステイナビリティー追求において、一つのことだけを見るのではだめだ。

WWD:「ミラノ・ウニカ」会長として今すぐ取り組むべきサステイナブルなアクションは何だと考えるか。

ポアーラ:生産工程で捨てるものを少なくすること。環境への負荷が小さいものを選ぶこと。従業員を教育すること、資源をうまく使うこと。昨日までは生産性を高めることばかりを考えていただろう。でも今日から、環境への負荷を少なくすることを考えること。なぜなら、高品質でクリエイティブな商品を作って適正価格で売り、納期がきちんとしているものが求められていたのが、それに加えて、これからはサステイナブルな商品であることが必要になるから。次の市場で勝つにはそれが必須になる。

WWD:そのために価格は上がる。

ポアーラ:そうなるだろう。環境に敬意を払う商品でなければならないと思う。

WWD:サステイナビリティーとラグジュアリーとは同義という考え方もある。

ポアーラ:ラグジュアリーという言葉は時代遅れだ。今、消費者が望んでいるのは貴重な商品だ。

「ウエルネスの追求は無駄が多い、その問題点に気付いた」

WWD:レダ社はサステイナブル経営で知られるがそもそも何から始めた?

ポアーラ:2000年代に中国に進出したときにいろいろ考えた。というのは、そのときにすでに豊かだった欧米や日本には7億人の消費者がいた。その7億人は無駄が多かった。ウエルネスと共に暮らすことは捨てるものが多いということ。将来は、ここ中国にも同じような消費者が生まれると思った。そうすると7億人が14億人になって、さらに無駄が増える。加えてインドでも同じことが起こるだろう。その時誰かが手を上げ、「ファッションは無駄が多い」と指摘して、「それをやめさせなければ」と言い始める人も出るだろう。だから、指摘される前に始めようと思った。すべてのことをすぐに改善するのは難しいし、その日から15年間、ずっとそのために仕事をしている。今はその予感が正しかったと感じる。

WWD:サステイナビリティー追求の初心者経営者がまず始められることは?

ポアーラ:会社の中で捨てるものをなくすこと。環境認証を取ること。われわれは、2005年にウールメーカーとして初めて環境管理監査制度のEMASを取得したが、2年ごとに改善しているかどうかについてのチェックが入り、年々改善している。

WWD:今、サプライチェーン自体が変わる人工クモの糸と呼ばれる合成タンパク質繊維など、まったく新しい技術が登場している。

ポアーラ:新しいものはどんどん開発され市場に入ってきている。リサイクルのもの、オーガニックのものなどはさまざまにあるが、その商品を作るのに、地球環境にどれだけの負荷があるかは誰もうたっていない。今、市場に出している言葉は、商品がサステイナブルかどうか。でもそれだけでは問題は解決しない。プロセス全てがサステイナブルでなければならない。例えば、プラスチックボトルを糸に変えて、その過程で二酸化炭素をたくさん排出したら、それはサステイナブルか?となる。その環境への負荷を誰も明確にしていない。環境負荷を数値化することが重要であり、そうすれば消費者が選べるようになる。

今は、まだ混乱していて、それぞれがさまざまに取り組んでいるが、おそらく近い将来、政府が規制を設けるはずだ。

WWD:ほかに感じる問題点は?

ポアーラ:ブランドの考え方が間違っていると感じる。彼らはエクスクルーシブであることを望み、サステイナビリティーもエクスクルーシブでありたいと思っているから。でも、サステイナビリティーは包括的なものでありみんなが取り組むべきことだ。サステイナビリティーがマーケティングになっているでしょう?

いろいろ言ったが、今は始まったばかりで楽観的に見なければいけない。何かを始めることが大切だ。

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