ファッション

喪服には「ドルチェ&ガッバーナ」という選択

 「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」2019年春夏コレクションは、151組170人のモデルが登場し、始まりから終わりまで約25分かかる長いショーだった。同ブランドの最近の傾向として、モデルの大半はプロではないということがある。今季はテーマである“DNA”を伝えるべく、家族で歩くグループが目立っていた。代表的なのが女優のイザベラ・ロッセリーニ(Isabella Rossellini)で、親子3世代で手をつないで登場した。彼女は映画監督である故ロベルト・ロッセリーニ(Roberto Rossellini)と女優の故イングリッド・バーグマン(Ingrid Bergman)の娘。元映画館という会場にふさわしいキャスティングだ。

 また、ショーの冒頭を飾ったのはイタリアの大女優、モニカ・ベルッチ(Monica Bellucci)だった。続いてエヴァ・ハーツィゴヴァ(Eva Herzigova)、カーラ・ブルーニ(Carla Bruni)、ヘレナ・クリステンセン(Helena Christensen)など90年代を代表するスーパーモデルたちが次々と登場した。イタリア女性を代表してのモニカ、そして往年のスーパーモデルたちはまさに同ブランドのDNAと言える存在だ。日本からは女優・モデルの三吉彩花が登場。金糸を織り込んだ華やかなジャケットとパンツのスタイルを着こなした。

 イタリアンオペラをバックに続くモデルたちのウオーキングも見どころだが、最も印象的だったのはショーが始まってから最初の2分間だった。真っ暗だったこともあり、写真が残っていないのが残念だが、この2分間に登場した約100人のモデルは全員黒の服を身に着け、ベールをかぶり、ランタンを手に持っていた。教会の鐘の音が響く中、明かりを落としたランウエイを等間隔で厳かに歩く様子は、そうとは明示/されていないものの、葬儀の参列者に見える。葬儀を形容するのに適切ではないかもしれないが、とても美しい、優しいシーンであった。黒のシチリアンレースで仕立てた膝丈のドレスは、「ドルチェ&ガッバーナ」のDNAや家族愛というメッセージを伝えるのにふさわしかった。

 以前、おしゃれな年上の女性から「喪服なら『ドルチェ&ガッバーナ』がおススメ」と聞き、驚いたことがある。体のラインを強調する、セクシーな服のイメージがある「ドルチェ&ガッバーナ」を日本の葬儀の場で着る勇気は当時の私にはなかった。でも今ならわかる。イタリアのテーラーリングに裏打ちされた服は着る人をそっと包み込み、美しく見せてくれる。

 「ドルチェ&ガッバーナ」に限らず、イタリアブランドの多くは、家族や故郷を大切にする国民性とそして人生をポジティブに楽しむ“ドルチェ ヴィータ”の姿勢が服作りに反映されている。そして、恥じらうことなく装うのは自分のためであると同時に、他者のためであることを教えてくれることが多い。

 大切な人を喪った時に必要なのは、その悲しみを包み、哀悼の意を示す服だろう。だが同時に、大切な人との別れに際しなるべく美しい自分でいることは、その人への敬意や愛情を表すことともなると思う。今季の「ドルチェ&ガッバーナ」のショーの始まりの2分間には、そんなことを考えさせられた。不景気だろうとなんだろうと、やはりイタリアのファッションは豊かで美しい。

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