マリア・グラツィア・キウリとピエールパオロ・ピッチョーリ「ヴァレンティノ」クリエイティブ・ディレクター。ともにローマのインスティテュート・エウロペオ・ディ・デザイン卒業後、「フェンディ(FENDI)」で再び出会いアクセサリーを担当。1999年から「ヴァレンティノ」のアクセサリーを担当し、2008年から現職
伝統的なブランドをモダンに変貌させた2人
ニューヨークでのWWD CEOサミット開催に際し、「ヴァレンティ(VALENTINO)」のクリエイティブ・ディレクターを務める2人、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)とピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)がローマから来訪し、WWDエグゼクティブ・エディター、ブリジット・フォレイ(Bridget Foley)とてい談した。伝統あるブランドを、トレンドセッター的ブランドに進化させた2人のコラボレーションは、果たして“平和的”に行われているのだろうか?
キウリとピッチョーリは、ラグジュアリー・コングロマリットが日々悪戦苦闘している難題を見事にクリアし、伝統的ブランドをモダンに変貌させた。しかも、創業者のヴァレンティノ・ガラヴァーニ(Valentino Garavani)がブランドにとどまり、積極的にビジネスに関わることはないものの、まだまだファッションシーンには登場するという状況においてだ。
クリエイティブ・ディレクターに指名されたとき、2人はすでに「ヴァレンティノ」内部の人間だった。2人は同ブランドのアクセサリー・デザイナーをすでに10年務めており、「ヴァレンティノ」の歴史を知り抜いていた。さらに2人は口をそろえて、「ローマにいれば分かるが、私たちは文字通り『ヴァレンティノ』と共に育った。なぜなら、『ヴァレンティノ』はローマで最も名高いファッションブランドなのだから」と語る。
ガラヴァーニ自身はサポーターとしてブランドに残り、彼らのほとんどのショーに出席している。彼がコレクションについてアイデアなどを提供することはないが、キウリとピッチョーリはショーの前にコレクションをガラヴァーニに見せ、ショーが終わると毎回、彼とランチに行く。
2人がクリエイティブ・ディレクターに就任したとき、ピッチョーリはガラヴァーニからこうアドバイスされたという。「全身ブラックのデザインは避けるように(ピッチョーリ自身は全身ブラックに装うことが多い)」。そして、キウリには「自分のためにデザインしてはいけない」と諭したという。
ファッションで最も大切なのは"感性"
「ファッションで最も大切なのは“感性”だ」とピッチョーリはいう。「私たちの仕事は今という時代における“美の概念”を世に送り出すこと。そして現代で大事なことは個性と美、そしていうまでもなく感性だ。本当に必要なのは服ではない。感性なんだ。コレクション制作にあたって、私たちはまず、コレクションで伝えたいメッセージにフォーカスする。ある意味、映画を作っているようなものだよ。ショーを見終わった後、心に夢を抱いて帰ってもらいたいんだ。それこそファッションだ」。
「ヴァレンティノ」の伝統への2人のアプローチについて、ピッチョーリは、「同じ風景をモチーフにしながら、新しい絵を描くこと」と表現する。「絵はがきみたいな感じだよ。美しくて、目新しいわけではない。でも、個人の目を通した時に、それはパーソナルなものになる。私たちはその絵を、より奥行きがあって、もっと優雅で、もっと個性的なものにしたいんだ」。
ピッチョーリは繰り返し、彼らのクリエイティブ・プロセスとショーのアイデアを“映画と同じよう”と表現した。映画製作と同じように、彼らのストーリーを一コマ一コマ作っていき“、完璧”にまで持っていくのだと。
キウリは「『ヴァレンティノ』の価値は、クチュール文化」と言い切った。「この文化感はクラフツマンシップやクオリティーと密接に結びついている。さらにイタリア語のように、私たちの歴史に根付いた伝統よ。ローマにいると、それをまざまざと感じるわ」とキウリ。「私たちは、デザイナーという職業はアーティスティックなものであり、人間味のあるものだと考えている。それがブランドを特別なものにしていると思う」。
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社会問題もファッションに昇華
「ヴァレンティノ」2016年春夏コレクションから
“人間味”といえば、2人が発表した2016年春夏コレクションは、「移民」という世界的問題に大きく影響されたものだった。キウリとピッチョーリは、アフリカのトライバリズム(部族主義)にフォーカスし、それを「ヴァレンティノ」のクラシカルなロマンチシズムと交錯させた。結果は素晴らしかった。最新トピックを取り上げているが、政治的ではない。問題の性質上、政治的メッセージになりそうな課題を、見事に純粋なファッションへと昇華させ、大絶賛を得た。
文化と政治においてファッションが果たすべき役割を問うと、キウリは、「イタリアでは、異文化に対して偏見を持たないことが、自分たちのビッグチャンスにつながると感じている。国や地域が違っても、ファッションにできることはたくさんあると思う。私たちは世界中旅をするけれど、世界にはあまり旅をしない人々の方が多い。ファッションを通して異なるカルチャーを紹介できれば、人々は違う視点を知り、お互いを知るための手立てを得ることができる」。
「ヴァレンティノ」の売上高の大黒柱であるアクセサリーについて、「私たちは、(アクセサリーは)ブランドの価値を表現する“モノ”でなければならないと信じている」。このカテゴリーではもちろん、“ロックスタッズ”コレクションや“カモフラージュ”スニーカーを発表し、卓越した手腕を発揮している。
聴衆からの質問コーナーで、彼らがスタッズモチーフやカモフラージュを取り入れたとき、「(スタッズやカモフラージュは)すでに、国中どこでも見かけるものだった。なのに『ヴァレンティノ』ではヒット商品になった。なぜなのか?」という質問がでた。
「確かに危険な賭けだった」とピッチョーリ。「でも私たちは、パンクな要素を滑らかな光沢を放つブルジョワ的なものに取り込むことが好きなんだ。あるシンボルを、違う意味で使うのは楽しい。すでに知っているものの見方を変えていく過程は実に面白いよ。“ロックスタッズ”は、パンクシューズでもあり、ブルジョワシューズでもある。つまり異なるカルチャーが新しいバランスを見つけたんだよ」。
キウリとピッチョーリはすでに20年以上、クリエイティブなパートナーとしてやってきている。彼らの制作プロセスは、まさにコラボレーションだという。「アイデアを思いついたら、それについて考えて、ムードボードを作るの」とキウリ。「毎日、そのボードを練り上げていって、違うアイデアを掘り起こす」とピッチョーリ。「そして最後には、同じビジョンを持つ2人が作り上げた作品になるんだ」。
喧嘩したりはするのだろうか?
「当然でしょ」とキウリ。「おとぎ話じゃないんだから、“めでたしめでたし”というわけにはいかないのよ」。
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