
「T.T」は11月6日から12月20日まで、京都2号店である中京区の「T.T 御所南」で、アーティスト・磯谷博史による個展「有時、遠い今」を開催している。10月28日のこけら落とし展に続く、同店2回目の展覧会となる。
1978年生まれの磯谷は、東京藝術大学建築科を卒業後、同大学大学院先端芸術表現科とロンドン大学ゴールドスミス・カレッジで美術を学び、写真や彫刻、ドローイングを横断する制作を続けている。近年は「回復」(カスヤの森現代美術館、2026年)、「プラダ モード」(東京都庭園美術館、23年)、「六本木クロッシング2019:つないでみる」(森美術館)などに出展。21年にはパリのポンピドゥー・センターやサンフランシスコ近代美術館の展覧会にも参加し、両館に作品が収蔵されている。
縄文土器を泥に戻し、現代の粘土と焼き直した「活性」
展示会タイトルの「有時(うじ)」は、道元の『正法眼蔵』の一巻に由来する。本来は「ある時」を意味する言葉だが、道元は「時間はそのまま存在(有)であり、存在するものはすべて時間である」と読み替えた。つまり、時間はただ流れ去るだけのものではないという考え方である。
そのような思考を具現化した本展の中心となる作品が「活性」。約5000年前の縄文土器の破片を泥に戻し、現代の粘土と混ぜ合わせて再び焼成した素焼きの球体だ。縄文の土も現代の粘土も、そもそも何百万年も前から存在する素材である。「現在」「縄文時代」「はるか以前」という3つの時間が、この一つの球体に折り重なっている。
作品は切り出したガラス板の上に配置した。球体の素材がはるかな過去から現在へと続く時間を伝える一方、ガラス板はいま目の前で「見る」という行為そのものに意識を向けさせる。鑑賞者の立つ位置や視線の角度によって、ガラスの輪郭や表面、作品全体の見え方が揺らぐ。キュレーションは金秋雨、会場デザインは周防貴之が手掛けた。
そのほか、土を描画材として作ったドローイング作品なども展示している。
約150年の京町家を改築 衣服を軸に建築、庭、茶を一つ屋根の下に
T.T 御所南は、10月28日にオープンした「T.T」のウィメンズラインの店舗だ。御所南は髙橋が生前から好きだった場所で、約1年かけて探して出合ったのが約150年の歴史を持つ京町家だった。老朽化が進んでいたが、柱や梁、壁など残せるものはできるだけ残し、傷んだ部分は伝統技法で修復した。
衣服を中心に、建築、芸術、器、香り、庭、花、茶を五感で感じる“総合芸術空間”とうたう。入り口の枯山水には髙橋の彫刻「無限塔」を据え、畳縁や襖、照明には、髙橋が探究した衣のドレープを伝統工芸の作り手がそれぞれの技法で写した。奥には、デニムを呉服のようにたとう紙で包み、籠に収めた小間「デニムの間」を設けた。
過去の遺物をよみがえらせ、未来の考古物を発掘する“応用考古学”を掲げた「T.T」創設者の髙橋大雅は、衣服から彫刻、建築、茶の湯へと領域を広げるなかで、常に「時間」を問い続けた。本展は、その遺志ともいえるテーマに、磯谷の作品を通して向き合う試みだ。
■磯谷博史「有時、遠い今」
会期:11月6日〜12月20日
会場:T.T 御所南
住所:京都府京都市中京区富小路通二条下る俵屋町188
時間:11:00〜18:00(最終日は17:00まで)
入場料:無料