ファッション業界きってのバイク好きとして知られる長野剛識が手がける「セヴシグ(SEVESKIG)」は、2026-27秋冬コレクションで「ホンダ(HONDA)」とのコラボレーションを発表した。2012年のブランド設立時に「ホンダ」と偶然出合い、今では所有する6台のうち5台が同社のバイクだという“ホンダ党”の長野デザイナーにとって、本企画は念願にして必然の取り組みと言えるだろう。モーターサイクルとファッションの距離が縮まりつつある中、機能美とファッション性を横断しながらバイクカルチャーの文脈をいかに日常へと落とし込んだのか。実現の裏側やモーターサイクルシーンへの想いなど話を聞いた。
モーターサイクルカルチャーを拡張する可能性
ーーまずは、長野さんとバイクの出合いからお伺いできればと思います。
長野剛識(以下、長野):小さい頃からバイクに惹かれていたわけではなく、独立して「セヴシグ」を立ち上げるとき、足があった方がいいと思ったのがきっかけでした。20代の頃から東京で暮らしているのですが、移動は基本的に電車で済んでしまうので、車もバイクも必要としていなかったんですよ。ただ、大きくて思い荷物などを電車で持ち運ぶわけにはいかず、何かと小回りが利くバイクの免許を取ることにしました。なので、バイクに乗り始めたのは30歳ごろと、ライダーの中では遅い方なんです。
ーーそして、初めて購入したバイクが「ホンダ」だったそうですね。
長野:モトクロスのような形のバイクが好きで、赤いフレームのモデルを探していたところ、たまたま友達に紹介してもらったバイク屋のオーナーさんが乗っていたのが、「ホンダ」の本格派オフロードスポーツモデルCRM250Rでした。それを譲っていただいたので、「ホンダ」との出会いは偶然なんです。その後、メカメカしくてエンジンがカッコいい大型に乗りたくて、水冷V型2気筒エンジンを縦置きに搭載した「ホンダ」のツアラーモデルGL500を手に入れたりしていたら、いつの間にか6台のバイクを所有していて、そのうちの5台が「ホンダ」の旧車です。
ーーその中でコラボはどのように実現したのでしょうか?
長野:ずっと「ホンダ」とのコラボの憧れはあったのですが、なかなかタイミングが合わず。それでも去年、思い切って僕の方から話を持ち込んだみたところ、PRのトップの方が「セヴシグ」を知ってくださっていて、「一緒にやりましょう」と言っていただけたんです。ブランドとしての親和性や、モーターサイクルカルチャーをファッションに拡張する可能性も含めて、共感していただけたと思っています。
ーー提案時点で、具体的なアイテムの構想はあったのでしょうか?
長野:レザーを使用したアイテムはもちろん、フーディーの上に羽織るだけでライディングができるようなアイテムなどを作ろうと思っていましたね。というのも、“バイカーあるある”のひとつに“ダウンを着たら負け”というのがあるので、ライディングを考慮した防寒性と耐久性、動きやすさを加味したパターンかつ、バイクを降りてそのまま街に繰り出せるファッション性の両立を提案したところ、おもしろがっていただけたんです。
あと、僕は東京から四国までの往復2000kmを走るようなロングツーリングが好きなのですが、やっぱり疲れるんですよ。だから、そういった長距離のライディングにも対応できるようなリカバリーウエアは、初期から考えていました。とはいえ、コラボコレクションはライダー専用というわけではなく、彼らのことを考えつつ一般の方々が日常的に着られるように作っています。
ーーそれでは、全12型のコラボコレクションの中から、いくつかアイテムを紹介していただけますか?
長野:このバイカージャケットは、長袖ブルゾンとベストに分解できる3WAYで、デタッチャブル仕様により可動域も広くなっています。それと、ドングリの帽子を主成分とする鞣し技術を採用したサステナブルな作りです。バイカーパンツも同様の工程で仕上げ、横から見ると“くの字”に曲がっているシルエットは、ライディング時の自然な脚の曲がり方に合わせているからですね。あと、僕のようなカフェレーサー(注:1960年代のイギリスを起源としたバイクのスタイルの一種)は前傾姿勢でライディングするので、腰の部分が露出して寒くならないように少し長めに設計しました。
長野:グローブは、定番のX-レイ グローブのデザインがベースで、一般的には指の部分がストレートですが、初めから少し曲がった形にすることで、レバーを握る動きを支える仕組みです。親指の付け根は、ロングツーリングだと痛めやすい箇所なので切り返しのデザインにして、指のエッジ部分にはシールドやサングラスに付いた雨の雫や曇りを拭き取れる素材を取り入れました。少しでも使いづらいと、気が散ったり対応が遅れて事故につながりかねないので、特にこだわりましたね。
長野:「セヴシグ」は、従来とは異なる角度からグラフィックを生み出す手段のひとつとして、少し前からAIを活用していて、このTシャツのデザインがまさにそれ。僕が所有している「ホンダ」のバイクがモチーフで、世界的にも珍しい6気筒を搭載した“The Magnificent Six(壮麗なる6気筒)”の異名を持つCBXを落とし込んでいます。別のデザインにもAIを使用していて、1970年代に「ホンダ」のブートレグスタイルのTシャツがあったら可愛いだろうな、と思って作りました。
ーー今回、コラボコレクションの発表にあたり、パリで映像を制作されていましたね。
長野:パリコレ期間中は、いつも日本では難しい絵を撮っているのですが、今回は「ホンダ」とのコラボもあったので、せっかくだしバイクを登場させる映像を残したいと思ったんです。2026-27年秋冬コレクションの全体のテーマが“≠(ノットイコール)”なので、パリの街並みを背景に、DJが日本の1980年代のシティポップをプレイし、モデルたちが踊っているところにバイクに跨った僕が入ってくる、という少しハレーションが起きているような内容に仕立てることで、異なるカルチャーが交差する違和感そのものを表現しました。
ーー改めて、「ホンダ」とのコラボを振り返っていかがですか?
長野:“バイクカルチャーを若者に広めたい”という思いから「セヴシグ」と協業してくださったそうで、こちらの構想に対して積極的に協力していただき感謝しかないです。実は、今回のコラボだけではない長期的な取り組みとして話を進めさせていただいています。バイクを一緒に作るプロジェクトも上がっていて、友達のアーティストにグラフィックを提供してもらいラッピングしたり、イラストレーターにライブペインティングをしてもらうイベントなどを検討中です。というのも、「セヴシグ」としてランウエイでの表現は全うした感があり、別の見せ方を模索しているので、徐々に実験的なイベントを増やしていこうと思っています。
それから、とことんモーターサイクルシーンに参入したいと考えていますね。モーターサイクルの要素を街着に落とし込むブランドはありますが、「セヴシグ」はその逆。難燃素材などを開発しているので、そういった「セヴシグ」らしさを活かして二輪の最高峰レース「モトGP(ロードレース世界選手権)」や日本最大のオートバイレース「8耐(鈴鹿8時間耐久ロードレース)」などのレーシングスーツを作りたいです。あとは、レース会場にいるメカニック(注:マシンの組立や修理などを担うスタッフ)の方々をはじめとしたチームウエアのデザインですね。安全面の観点から無駄な装飾は避けるべきなので、どうしても野暮ったかったりするのですが、そこをデザインの力で魅力的にすることができれば、若い世代がモーターサイクルを好きになるきっかけにもなるな、と。モーターサイクルとファッションの関係性は、まだ発展途上です。その可能性を広げること自体が、「セヴシグ」の役割のひとつだと思いますね。