エイチ・ツー・オー リテイリング(以下、H2O)の2025年3月期連結業績は、総額売上高が前期比8%増の1兆1596億円、営業利益が同33%増の348億円、純利益が同59%増の348億円と、いずれも過去最高となった。成長をけん引したのは、阪急阪神百貨店が運営する百貨店事業だ。
阪急阪神百貨店の単体決算は、総額売上高が前期比10.0%増の6356億円、営業利益が同42.7%増の282億円。阪急本店、博多阪急、神戸阪急といった都心店の業績が好調だったほか、粗利益率の改善や費用抑制により営業利益率が改善した。なかでも阪急本店は、売上高が同16.3%増の3653億円と過去最高を記録した。
グループ全体の免税売上高は500億円増の1298億円に達するなど、やはりけん引役となったのはインバウンドだ。だが、ここに来て踊り場が訪れている。第1四半期(24年4〜6月)は円安と値上げ前の駆け込み需要でインバウンド売上が急伸したものの、第4四半期(25年1〜3月)は前年同期比7%増にとどまり、明らかな減速傾向が出てきた。
阪急本店も今期は減収予想
H2Oの26年3月期連結業績予想は、総額売上高が前期比0.7%増の1兆1680億円、営業利益が同13.9%減の300億円、純利益が同48.3%減の180億円。特別利益の反動やインバウンドの目減りを織り込んだ結果、減益予想となった。免税売上高は同15%減の1100億円を見込み、特に上期(4〜9月)は前年同期比22%減と、大幅な落ち込みを想定する。
これまで勢いよく売り上げを伸ばしてきた阪急本店も、売上高は前期比4.3%減の3495億円を予想する。改装による一部の売場閉鎖により43億円程度のマイナスを見込むものの、やはりインバウンドの一服感が大きいとみる。決算会見に登壇したH2Oの荒木直也社長は、「足元では大きな変調は出ていないが、中国人の購買行動の変化が潜在的なリスクになる」と述べた。
MDとCRMの両軸でVIPに照準
こうした状況に対応し、インバウンド戦略を「一過性のツーリスト頼み」から「リピート前提のビジネス」へと大きく転換する。阪急本店は「グローバルデパートメントストア」を標榜し、大規模なリモデルを進める。とりわけ海外VIPに対応するMDの高度化が大きな柱で、ラグジュアリーブランドの旗艦店やハイエンドジュエリー・時計の拡充に加え、高級カフェ・レストラン、アート・家具などの上質な品ぞろえと接客環境を整える。
さらにVIPとつながるCRMのハブになるのが、阪急うめだ本店13階に新設する「体験型VIPサロン」だ。2026年3月期中の本格稼働を予定し、海外VIP専任のスタッフも配置する。10階・5階・6階にもVIPルームを拡充し、フロア横断型で接遇体制を構築する。あわせて、昨年子会社化した中国・寧波阪急を“海外顧客とのタッチポイント”と位置づけ、阪急本店との連携を強化。寧波阪急のVIP顧客が阪急本店に来店した際には、同等のサービスを提供する体制を整備する。
商品と空間、CRMによるサービスの上質化を進め、免税の収益源を「観光客」から「VIP」へ比重を移す。一連の取り組み効果により、H2O全体として、31年3月期に免税売上高を2000億円まで引き上げる目標を掲げる。海外VIPの会員数は現在の3.9万人から9万人に、免税売上高に占めるVIP比率は現在の30%から50%へと高める方針だ。