ファッション

「ソウシオオツキ」、2度目の「LVMHプライズ」最終選考入り 2025年度8組の実績をチェック

LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)は、12回目となる2025年度「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE以下、LVMHプライズ)」のファイナリスト8組を発表した。そのうち、16年度ファイナリストにも選出された大月壮士による「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」が再び名を連ねた。ほかには、ロンドンを拠点とする3ブランド、パリで活動する3ブランド、ミラノから1ブランドが選出されている。

なお、セミファイナリスト20組に入っていた村上亮太による「ピリングス(PILLINGS)」は推しくも外れた。最終選考会は9月3日にパリで開催し、当日にグランプリほか各賞が発表される予定だ。審査員には3月にデビューコレクションを発表したばかりの「ジバンシィ(GIVENCHY)」のサラ・バートン(Sarah Burton)=クリエイティブ・ディレクターの参加も決定している。

25年度「LVMHプライズ」のファイナリストのブランド名とデザイナー名、国籍は以下の通り。

「アランポール(ALAINPAUL)」/アラン・ポール、フランス
「オールイン(ALL-IN)」/ベンジャミン・バロン(Benjamin Barron)、アメリカ&ブロール・オーガスト・ヴェスタボ(Bror August Vestbo)、ノルウェー
「フランチェスコ ムラノ(FRANCESCO MURANO)」/フランチェスコ・ムラノ、イタリア
「ソウシオオツキ」/大月壮士、日本
「スティーブ オー スミス(STEVE O SMITH)」/スティーブ・オー・スミス、イギリス
「トル コーカー(TOLU COKER)」/トル・コーカー、イギリス
「トリシジュ(TORISHEJU)」/トリシジュ・ドゥミ(Torisheju Dumi)、イギリス
「ゾマー(ZOMER)」/ダニアル・アイトゥガノフ(Danial Aitouganov)、オランダ

デジタル社会における独自のクラフツマンシップを評価

「LVMHプライズ」設立者であるデルフィーヌ・アルノー(Delphine Arnault)=クリスチャン ディオール クチュール会長兼最高経営責任者は、今年度のファイナリストについて「テーラリングとクラフツマンシップにおける専門知識が際立っている」と評価。「ファッションやラグジュアリーの分野に限らず、テクノロジーやAIがさまざまな業界を再構築していく中で、クリエイターは人間の手と心による熟練の技を称えようと、彼らなりのクラフツマンシップを積極的に取り入れている。安価な方法で再現することは難しいクラフトの希少性やつながり、自己表現といった価値こそが今の時代に響くものであり、彼らはそれを具現化している」。ファイナリストの多くは、ドローイングやダンス、映画、雑誌など、ファッションデザインの領域を超えたさまざまな分野を着想源としている。同氏は、「ソーシャルメディアにより、あらゆるものに手軽にアクセスできるようになったほか、影響をいかに受けたかが可視化されるようになった。また、ブランドは単に服を作るだけでなく、一つの文化を作り出すことが求められている。そうした世界観の構築こそが、今のファッションを刺激的で魅力的なものにしている」とコメントした。

「アランポール」、幼少時代のバレエ経験がデザインの核に

デザイナーのアラン・ポールは、「ヴェトモン(VETEMENTS)」や「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」などで10年間キャリアを積んだ後、2023年に夫のルイス・フィリップ(Luis Philippe)と「アランポール」を共同設立した。フィリップは、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や「ジャックムス(JACQUEMUS)」「アライア(ALAIA)」などでホールセールスを担当していた。

ラグジュアリーブランドなどで実力を培ってきたポールだが、彼のクリエイションの根底には、幼少期に始めたバレエダンサーとしての経験がある。8歳でマルセイユ国立バレエ団に入団し、18歳まで在籍。「この10年間が、今の自分の土台となった」とポールは話す。その後ファッションの道に進み、ケッジ・ビジネススクールでブランドマネジメントを学び、マランゴーニ学院(Istituto Marangoni)でファッションデザインの学位を取得した。「アランポール」は現在世界30の小売店で取り扱いされている。

「オールイン」はファッション誌から始まり、ブランド化

「オールイン」はベンジャミン・バロンがニューヨーク州北部のバード大学で写真を専攻していた学生時代に、ファッション雑誌として立ち上げた。その後、デザイナーのブロール・オーガスト・ヴェスタボと出会い、彼のカスタムピースを使い、ファッションシューティングを始める。これを機に「オールイン」をブランドとしてスタートし、2019年にニューヨークで初のコレクションを発表。その後2人はノルウェーに移住し、ヴェスタボはオスロ国立芸術アカデミー修士号を取得。パリに拠点を移した。

彼らのコレクションは、既存の服を新しい文脈で再解釈することをコンセプトとしている。そのミューズは、ビューティコンテストの元女王や社交界デビューする上流階級の女性、年を重ねたポップスターなど。「コレクションは、1日の中で見せる多様な表情や進化していく存在という女性像を表現している」とバロンは説明する。フットウエアは、リアーナ(Rihanna)やクロエ・セヴィニー(Chloe Sevigny)、カイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)といったセレブリティが着用したことで話題を呼んだ。

「フランチェスコ ムラノ」はビヨンセの衣装制作で話題に

フランチェスコ・ムラノは、ヨーロッパ・デザイン学院 (Istituto Europeo di Design)の卒業を控えていた2019年、歌手のビヨンセ(Beyonce)から「スピリット(Spirit)」のミュージックビデオでの衣装制作を依頼され、一躍注目を集めた。2年後には、ラッパーのカーディ・B(Cardi B)も衣装をオファー。「ムラノ」は当初、オーダーメードでの販売を中心としていたが、セレブリティの衣装制作を機に、ビジネスモデルを開拓した。

洗練されたテーラリングとドレープを生かしたイブニングウエアの融合をベースにする「ムラノ」。印象深いシルエットは、理想的なプロポーションとする古代ギリシャの彫刻にインスパイアしている。20年、「フー・イズ・オン・ネクスト?(Who is on Next?)」のウィメンズ部門で最優秀賞を獲得。24年には、イタリア・ファッション協会が若手デザイナーを支援・育成する助成金プログラム「カメラ・モーダ・ファッション・トラスト(Camera Moda Fashion Trust)」の1人に選ばれた。今年2月に開催された25-26年秋冬ミラノ・ファッション・ウイークでは、初のランウエイショーを披露した。

「ソウシオオツキ」、和洋折衷のスーツで存在感示す

15年にスタートした大月壮士による「ソウシオオツキ」は、80年代の「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」に刺激を受けたオーバーサイズのスーツがカルト的人気になっている。和と洋の紳士服のコードを融合し、シグネチャーであるスーツの裏地には着物の袖を思わせるスリット、ジャケットには道着のような前合わせのディテールを施すなど、独自のメンズウエアを確立している。

大月は1990年千葉県生まれ。文化服装学院メンズウェア科や「ここのがっこう」で学び、15年に自身のメンズウエアブランドを立ち上げた。翌年には「LVMHプライズ」のファイナリストに選出された。昨年のヨーロッパの旅行雑誌「ザ・トラベル・アルマナック(The Travel Almanac)」の表紙には、ラッパーのエイサップ・ロッキー(A$AP ROCKY)が「ソウシオオツキ」のスーツを着用。ブランドのEC売り上げが急上昇するほど、ブランドにとって大きく躍進した。

「スティーブ オー スミス」は「メットガラ」ドレスも経験済み

多くのファッションデザイナーはスケッチを元に服を具現化していくが、スティーブ・オー・スミスが、スケッチからそのまま飛び出してきたような独創的な服作りを特徴としている。アナ・ウインター(Anna Wintor)米「ヴォーグ(VOGUE)」編集長主催の24年「メットガラ(MET GALA)」では、俳優のエディ・レッドメイン(Eddie Redmayne)と妻に、スペシャルピースを提供。白いチュールにアートのような黒いシルエットを重ねたモノトーンのルックは、レッドカーペットで視線を集めた。

スミスは、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ校(CENTRAL SAINT MARTINS MA)」を卒業。ロイヤル・ドローイング・スクールでライフ・ドローイングのクラスを受講しながら、受注生産をベースにブランドを運営している。

「トル コーカー」は多国籍なアイデンティティーを再構築

ロンドンを拠点に活動するトール・コーカーは、ファッションを通して自身のルーツと向き合い、その物語を発信している。カラフルなパターンや、伝統宗教にインスパイアされたシルエット、環境に配慮した素材使いを通じて、ブラック・ディアスポラ(アフリカ系移民の歴史や文化)を再解釈。イギリスとナイジェリア、ヨルバのバックグラウンドを持つ彼女のアイデンティティーこそクリエイションの中枢となっている。

「服はただの衣類ではない。記憶の記録であり、カルチャーの担い手であり、アイデンティティーを表すものである。そして服を身にまとうことは、過去に敬意を払い、現在を受け入れ、未来を形作ることだ」とコーカーは語る。彼女はファッションデザインだけでなく、イラストレーションやドキュメンタリー、ファッション映画の制作にも携わり、「アディダス(ADIDAS)」や「スウォッチ(SWATCH)」「ドクターマーチン(DR.MARTENS)」「イリー カフェ(ILLY CAFFE)」などのブランドのビジュアル作成も手掛けてきた。

「トリシジュ」はデビューショーにナオミ・キャンベルを起用

24年春夏パリ・ファッション・ウイークでショーデビューを果たしたトリシジュ・ドゥミによる「トリシジュ」。ショーでは、モデルにナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)、スタイリングに元「ヴォーグ(VOGUE)」ファッションエディターのガブリエラ・カレファ=ジョンソン(Gabriella Karefa-Johnson)、ヘアにファッションデザイナーでもあるチャーリー・ル・ミンドゥ(Charlie Le Mindu)といった知名度のあるメンバーを起用し、話題になった。

ドゥミはロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ校メンズウエア科で、「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN、当時)」の奨学金プログラム「サラバンド財団(Alexander McQueen-Sarabande Foundation)」の奨学生として在学。その後、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)率いる「セリーヌ(CELINE)」をはじめ、「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」「ジャイルズ・ディーコン(GILES DEACON)」「シブリング(SIBLING)」などで経験を積んだ。

「トリシジュ」は、自身のルーツに根ざしたストーリーやフォークロアをデザインに取り入れ、ブラックカルチャーの表現を広げていくことを目指す。「黒人女性として、自分にしかできない視点をファッションで発信したい」とドゥミ。

「ゾマー」、ファレルによる「ルイ・ヴィトン」を経て独立

ダニアル・アイトゥガノフは、地元オランダのアムステルダム ファッション インスティチュート(AMSTERDAM FASHION INSTITUTE)卒業後、「ルイ・ヴィトン」や「クロエ(CHLOE)」「バーバリー(BURBERRY)」で8年間のキャリアを積んだ。独立前には、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)率いる「ルイ・ヴィトン」のメンズチームに半年ほど在籍していた。その後、スタイリストのイムル・アシャ(Imruh Asha)と「ゾマー」を立ち上げた。

「ゾマー」はシュルレアリスムの要素を取り入れたカラフルで構築的なデザインが特徴。25-26年秋冬パリ・コレクションでは「オポジット・デイ(逆さまの日)」をテーマに、ショーの構成からウエアのデザインまで全てを逆転した構成で展開。モデルが一斉に登場するフィナーレから始まり、ウエアも前後または上下を反転させ、ファッションとアートの概念を面白く巧みに表現した。中でも、ボマージャケット風のコートはバイヤーから高評価を得た。

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