サステナビリティ
連載 エディターズレター:SUSTAINABILITY 第44回

サステナビリティ推進担当という「戦略職」の皆さんへ

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この4月、アパレル・小売業界のサステナビリティ推進室に新たに配属された方の中には、期待と同時に戸惑いを感じている方も多いでしょう。今日は主に、その方々へエールを送りたいと思います。

まずお伝えしたいのは、その役割が「戦略職」であるということです。特に、非上場の中小企業でたった1人、あるいは数人でサステナに向き合う皆さんのもとには、「よくわからない」「そこまで重要?」という温度のまま返ってくる社内外の反応があるかもしれません。リソースも予算も限られている現実のなかで、孤独感さえ感じることがあるかもしれません。ですが、その立場には、今この時代だからこそ担える極めて戦略的な価値があります。

国際金融市場が変えた、企業価値の定義

いま、世界の企業評価の軸が確実に変わっています。売上高や営業利益といった財務情報だけでは測れない「企業の持続可能性」が、投資判断や調達、パートナーシップの前提になりつつあります。TCFD(気候関連財務情報開示)、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)による基準統合、EUのCSRD(企業持続可能性報告指令)といった国際的な開示基準が次々と登場し、日本でもSSBJ(サステナビリティ開示基準)が今年3月に公表されました。段階的に適用が進むこの基準は、2027年には時価総額5000億円以上の企業すべてに、非財務情報の開示を義務づける方向です。もちろん、上場企業への適用ではありますが、バリューチェーン全体の開示が前提になる以上、その波は必ず中小企業にも届きます。

「あなたのスコープ1は誰かのスコープ3」だけでは届かない理由

「あなたのスコープ1(直接排出)は誰かのスコープ3(間接排出)だから」という言い方がよくされます。本当にその通り!けれどこの説明だけでは、社内にはピンとこない空気がある。それもまた事実です。GHG排出量の把握が自社の経営課題にどうつながるのか、短期の収益にどう影響するのかが見えづらい今、目の前の利益や納期対応、人材不足への対処が優先されるのは当然です。環境のために、地球のために――という話が善意に届いても、行動の優先順位にはなかなかならない。そこに向き合うことが、推進室に課された現実です。

サステナビリティを「資産」として伝える戦略的アプローチ

では、どうすればよいのか。先を走る企業の取り組みや、動き出した中小企業を取材していると共通点が見えてきます。それは、サステナビリティを「経営資源」として語り直していること。つまり、コストではなく、将来の売り上げや信頼、採用力、調達力に直結する要素として伝えているのです。
具体的には、
① 顧客から「選ばれる理由」になる
サステナ対応は「選ばれる理由」になる。リサイクル素材や公正な労働環境、トレーサブルな生産体制は、商品に“意味”と“信頼”を加える要素です。価格競争から抜け出し、価値で選ばれるブランドになるために必要な資産です。
② 取り引き継続・新規受注の「前提条件」となる
上場企業のスコープ3対応が進むなか、未対応企業が調達対象から除外される例も現実に出てきています。“まだ来ていない要請”は、いずれ“来る要請”です。早めに対応すれば、むしろ信頼を得て取り引きを拡大するチャンスになります。
③サステナは「採用と定着」の武器になる
Z世代・ミレニアル世代は企業の価値観に共感するかどうかで就職・離職を決める傾向にあります。サステナの取り組みは、採用広告のキャッチコピーではなく、実態として語られる時代になりました。

推進室の役割は「通訳」であり「橋渡し」

私はサステナビリティ担当の仕事は「通訳」に近いと思っています。推進担当者の仕事は、サステナビリティの専門用語をそのまま社内に伝えることではありません。重要なのは、「経営にとってなぜ必要か」「売り上げや信頼にどう関係するか」を相手の立場となり、相手の言葉で通訳し、翻訳し、共通言語にすることです。

また非上場であれば、むしろ柔軟に動ける強みを活かして積極的に価値を示す役割もあります。自社の取り組みを見える化し、ステークホルダーとの信頼を築くことは、経営資産そのものになります。

非上場・中小企業にとって、サステナビリティはたしかに簡単ではないテーマです。リソースの制約、即効性の薄さ、社内の温度差――いずれも現実です。それでも、推進室が動かなければ、変化は起こりません。サステナビリティは一過性のトレンドではありません。今、動くことが3年後、5年後の信頼をつくります。サステナビリティ推進室の仕事は企業の未来を支える極めて戦略的なポジションです。小さなひとつひとつの発信が、誰かの納得を生み、会社全体の変化を導いていきます。一緒に頑張りましょう!

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