3月10日発売の「特集 ニューヨーク&ロンドンコレクション2025-26年秋冬」では、NYファッション・ウイークの一大トピックとして“パワー・ドレッシング”をピックアップした。ドナルド・トランプ大統領の、女性の権利を抑圧するようなスタンスに対する、デザイナーたちの意思表明とも言えるものだ。
そんなNYファッション・ウイークの中でも、数年前からイット・ブランドとして注目を集めているのがキャサリン・ホルスタイン(Catherine Holstein)が手がける「ケイト(KHAITE)」だ。レザーやテーラードを軸としたパワフルなスタイルに、絶妙なバランスでフェミニンさを加えたデザインが特徴。今季はそのクリエイションの着実な進化とともに、まさにパワー・ドレッシングを感じさせるコレクションだった。
2025-26年秋冬コレクションの会場となったのは、パーク・アベニュー・アーモリー。黄色味がかった円形の高架型のランウエイが設置され、その周囲に座席が配置された。今シーズン、キャサリンは彼女のヒーローでもある故デイヴィッド・リンチへのオマージュをコレクションに込めた。建築家グリフィン・フレイゼンがデザインした黄色いランウェイは、リンチが生涯忘れることがなかった「オズの魔法使い」へのオマージュでもあった。コレクションノートには次のような記述があった。「(中略)時を超えて影響を与え続ける要素が新たな組み合わせによって再構築され、魅惑的な形で蘇る(中略)」。リンチは、今もこれからも、キャサリンに影響を与え続けるのだろう。
強さとしなやかさの融合
ランウェイに登場したのは、時代に縛られない魅力を理解し、再構築したアイテムたち。ファーストルックに現れたルーズシルエットの濃紺デニムをはじめ、レザーのライダースジャケット、パワーショルダーのオーバーサイズジャケットなど、大人のためのリアルクローズがランウェイに次々と登場した。レパード柄のアイテム、スーパーニーハイブーツ、レザーコートなど、パワー・ドレッシングを基軸におきながらも、ブランケットステッチが施されたシルク、ボンディング加工のクレープサテン、トスカーナシアリング、ナイフプリーツのシルクツイルなどが、シルエットに女性らしいしなやかさを添えた。
ニットには実験的アプローチ
多層に重なる時代の美学
今季はニットに実験的なアプローチが加えられ、豊かな表情を見せた。ローゲージのざっくりとしたニット、フリンジ状や着古した風合いに処理したニットドレスは存在感があり、レザーと合わせることで柔と剛のコントラストを生み出した。コルセットはレザー素材の柔らかなフォルムで、フェミニンさを感じさせる。ブランドの象徴であるレザーも、手作業でのエイジングやファーとのコンビネーションで新たな進化を遂げた。一方でチョコレートやトフィーブラウン、鮮やかな赤が織り交ぜられたカラーパレットで、NYらしさも感じさせた。
エドワード朝の荘重なスタイルから60年代のモッズ、80年代のパワーファーまで。多くの時代の美学が凝縮された56ルックは、「ケイト」のネクストステージを予感させるコレクションだった。