「コラボという言葉は使いたくない。それほど個人的なコレクションだから」――井上聡「ザ・イノウエ・ブラザーズ(THE INOUE BROTHERS)」デザイナーは、「ポーター(PORTER)」とのコラボコレクション“エル・アルト”をそう解説する。「『ザ・イノウエ・ブラザーズ』とは何か?」には一切触れずに始まったローンチ記念トークショーには、コラボの舞台・ボリビアへの真っ直ぐな愛と感謝が込められていた。
なぜボリビア? 井上デザイナーの人生を変えた出会い
“エル・アルト”とは、ボリビアの首都・ラパス近郊にある都市のこと。ここは「ザ・イノウエ・ブラザーズ」の始まりの地とも言える。井上デザイナーは「『ザ・イノウエ・ブラザーズ』を立ち上げる前は、デザイナーとして立身出世すべく広告業界に身を置いていた。さまざまなプロジェクトに関わりやりがいを感じていた一方、(利益第一の)資本主義社会の現実に直面することも多くミスマッチを感じていた」と振り返る。そんなジレンマを解消するきっかけになったのが、2006年に友人の誘いで訪れたボリビアの先住民だった。
ボリビアは“南米の最貧国”と呼ばれており、その中でも貧しい生活を送っているのが先住民だ。「過酷な現実と向き合う覚悟で訪れたが、全くの杞憂だった。彼女らは私が出会ってきた誰よりも優しかった。家具も十分にそろわない家で2脚しかない椅子を私と弟に差し出してくれた瞬間、私はこの人たちと一緒にモノ作りをすることを考え始めていた」。「人生が180度変わる出会い」(井上デザイナー)を経て、ソーシャルデザインスタジオ「ザ・イノウエ・ブラザーズ」は誕生した。
ボリビアと日本 職人技の掛け合わせ
このたび発表した「ポーター」と「ザ・イノウエ・ブラザーズ」のコラボコレクションは、全3型でそれぞれ2色展開。「コラボの話が浮上した時からこれしかないと思っていた」という全商品共通の柄は、アンデス伝統の織物“アグアヨ”のオリジナルパターンだ。“アグアヨ”は鮮やかな色使いが特徴で、「標高4000メートルという厳しい環境下でもポジティブにいられるよう考案された」という。井上デザイナーは「現地の職人は、(文化の盗用とみなし)侮辱と捉えられてもおかしくないオリジナルの“アグアヨ”の製作も、(これまで築いてきた関係性があったため)面白いと言って前向きに取り組んでくれた」と感謝の気持ちをにじませる。アンデスの旗も赤や青、緑などさまざまな色を使用しており、カラフルな色使いは彼女たちの誇りそのものだと言える。
「ポーター」の企画担当者は「私たちはバッグを道具と捉えており、耐久性が第一だと考えている。一方、“アグアヨ”は手織り特有の柔らかさがあるため、パワーが大きいバッグのミシンでは生地が破れてしまう。両者の特長を生かすためには、2年間にわたる試行錯誤が必要だった」とコメント。井上デザイナーは「コラボよりパートナーシップという言葉が相応しいほど、『ポーター』にはさまざまな場面で支えてもらった」と返し、人の温かさで成り立ったコラボであることを強調した。
トークショーの最後には、「コレクションの軌跡を残したいという思いのもと撮り始めた」という映像が流れた。商品ではなく職人に焦点を当てた内容で、最後には井上デザイナーが「これだけクオリティーが高いバッグを見たことがなかったのだろう」と予想するほど、コラボ商品を前に目一杯の喜びを見せる女性の姿が映った。彼女の嘘偽りのない笑顔が、モノ作りの楽しさを伝えていた。
ザ・イノウエ・ブラザーズ イン ザ ポーター ギャラリー1
日程:2月17日まで
時間:12:00~20:00
場所:ポーター表参道 ザ ポーター ギャラリー1
住所:東京都渋谷区神宮前5-6-8