ファッション

「ルメール」がパリ旗艦店を拡大移転 デザイナー2人に聞く、新店への想いと空間づくりへのこだわり

 「ルメール(LEMAIRE)」はこのほど、パリ3区のマレ地区・エルゼヴィル通り1番地(1 rue Elzévir, 75003 Paris)に新たな旗艦店をオープンした。それに伴い、2007年から北マレのポワトゥー通りに構えていたショップは閉店。本社やアクセサリー専門店を構えるヴォージュ広場にもより近く、店舗面積340平方メートルと広くなった新たな空間には、メンズとウィメンズのウエアからバッグ、レザーグッズ、シューズ、ジュエリーなどのアクセサリーまでを幅広くそろえる。また店内では、シーズンごとのコレクションに関連したアート作品の展示も定期的に開催予定。こだわりが詰まった内装とともに、「ルメール」の世界観を多面的に表現する。ブランドを手掛けるクリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)とサラ・リン・トラン(Sarah-Linh Tran)に、新店に込めた想いを聞いた。

 今回移転を決めたのは、提案するアイテムの幅が広がり、既存の店舗では手狭になったことが大きい。ルメールは「ポワトゥー通りのショップは、『ルメール』にとって始まりの場所でもあったから、閉店するのは残念だった」と振り返りながらも、「ブランドは発展し、アクセサリーも成功を収めているので、より大きなスペースが必要になった。新たな店舗も素敵で満足している。訪れる人を暖かく迎え入れてくれるような空間だ」と話す。そして、「全てのコレクションをそろえる十分なスペースを設けることに加え、重要だったのは顧客体験の質を高めること。ブランドに深く関わる新たな販売チームも作り、店内にはプライベートスタイリングを行うスペースを設けた。コレクションに関連する展示も行い、時と共に進化していくような店になっている」とトランが続ける。5月には、23年春夏から2シーズン続けてコラボレーションしているパプアニューギニア出身でインドネシア在住アーティスト、ノヴィアディ・アンカサプラ(Noviadi Angkasapura)の作品展を開く予定だという。

 店舗デザインには、「実生活の中で着られること」を念頭に置いた控えめなデザインと絶妙な色合いや風合いが特徴的な「ルメール」のコレクションに通じる理念や価値観を反映。外部の建築家を入れず、社内のチームで手掛けた。外観は、ポワトゥー通りの店同様の黒いファサード。一方、店内は白やサンドなどの淡い色を基調とし、ガラス張りの天井や窓から差し込む自然光と柔らかな照明、そして天然素材を生かした明るくナチュラルな雰囲気が印象的だ。その構成要素の一つひとつからは、モノ作りへのこだわりが感じられる。床に敷き詰められているのは、モロッコで伝統的な職人技を駆使して手作業で作られたタイル。個体差があるタイルの絶妙なグラデーションとスペースによって異なる並べ方が、空間にリズムを生み出している。そこにアクセントを加えるのは、フィリピンでアバカ(マニラ麻)という天然繊維を織って生み出されたラグ。レザーグッズやシューズ、ジュエリーは、スペイン・バルセロナ郊外にある工業デザイナーのサビエル・マニョーサ(Xavier Manosa)による家族経営のアトリエ「アパラトゥ(Apparatu)」で製作された、陶器製の什器の上にディスプレーされている。また、イタリア人家具デザイナーのエンツォ・マリ(Enzo Mari)が出版した家具作りのマニュアル「アウトプロジェッタツィオーネ?(Autoprogettazione?)」に基づき、イタリア・ローマの職人が仕上げた素朴な雰囲気の木製椅子や全身鏡も随所に見られる。そんな内装は「全てフレキシブルで、展示などの用途やシーズンによって配置を変えられるようになっている」という。

 そして、ルメールは「新たな旗艦店で表現したかったのは、アートや自然から映画、伝統、現代まで私たちが抱く幅広い興味や関心。ブランドが成長する中で、『ルメール』の世界をより明確に示す必要性も感じていた」とコメント。「Eコマースやデジタルはもちろん大事だが、私たちにとってラグジュアリーとは人間同士の関係に深くつながっているもの。服に触れたり、袖を通したり、スタッフと話し合ったりという旗艦店でのリアルな体験は極めて重要だ。(ぜいたくさ)を見せびらかしたり、あっと驚かせたりするようなものではなく、居心地が良く高揚感をもたらすような真のラグジュアリーな体験ができることを大切にしている」と説明する。また同店は今後出店する際のデザインのベースにもなるという。「現在、期間限定店舗(南青山のスクワット/ルメール)を構えている東京や韓国で旗艦店出店に向けたプロジェクトを進めているし、中国への関心も高まっている。この旗艦店は、マイルストーンになる」。

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