ファッション

会心の「ジバンシィ」や眼福の「ルメール」タイム 2023-24年秋冬メンズコレ取材24時Vol.5

 2023-24年秋冬コレクションサーキットは、メンズからスタート。「WWDJAPAN」は現地で連日ほぼ丸一日取材をし、コレクションの情報はもちろん、現場のリアルな空気感をお伝えします。担当は、前シーズンのメンズと同様に大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリのコンビ。舞台はいよいよパリ・メンズに移り、若手からビッグメゾンまで強豪ぞろいのラインアップが連日続きます。

10:00 「ビアンカ サンダース」

 パリでの取材がスタートしましたが、とにかく寒い。朝と夜は芯から冷える寒さで、終日の取材は体力がかなり削られます。本日は、ロンドン期待の「ビアンカ サンダース(BIANCA SAUNDERS)」からスタート。パリ・メンズでのショーは3回目です。前シーズンは「面白いけど、もっとひねりを利かせないと個性が分かりづらい」という感想でした。すると今シーズンは“PLAYWORK”をテーマに、まさにひねりを効かせたテーラリングがズラリ。華美な装飾やプリントは極力排し、生地をねじったり、プロポーションのバランスを変えたりして、アイテムを本当に“ひねり”ます。今シーズンはジャマイカで“キング・オブ・コメディ”として知られるコメディアンのオリバー・サミュエルズ(Oliver Samuels)出演のショーからヒントを得たクリエイションで、吉本新喜劇のような舞台セットが個人の魅力によって魅力的な世界に変わることを表現したショーなのだとか。生地のバリエーションはあるし、デザインのアプローチは面白いのですが、玄人好みな分かりづらい服でもあります。「ごめんやしておくれやしてごめんやっしゃー」や「おじゃましまんにゃわ」など、あいさつだけで相当数を抱える吉本新喜劇のギャグのように、デザインのバリエーションが増えるとさらに良くなりそうです。

11:00 「アクネ ストゥディオス」

 「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」の展示会場へ向かいました。今季のイメージは“現代の原始人”で、「超男性的なものと超女性的なもののコントラストでコレクションを構築した」とジョニー・ヨハンソン(Jonny Johansson)=クリエイティブ・ディレクターはコメントしています。デニムやジーンズで作ったコルセット風のトップスや、胸下までの超クロップド丈のトップス、レースの下着をチラ見せしたローウエストのバギーで、メンズとウィメンズウエアの境界線を超越します。新作アクセサリーとして、ワックスキャンバスのメッセンジャーバッグや、ウエスタンブーツとフットボールスニーカーを掛け合わせたウェッジヒールのシューズが加わります。コレクションピースはピタピタ&露出系ですが、コマーシャルピースはコンセプチュアルな要素は少なめで、リアルに着られる洋服で構成しました。

11:30 「ルメール」

 「ルメール(LEMAIRE)」のショー会場であるピエール・エ・マリー・キュリー大学に向かうと、オール日陰で、息をするだけで体の芯から冷えるほどの寒さ。こういうときは待ち時間だけでかなり消耗するのですが、さすがは「ルメール」。シートごとにブランケットと湯たんぽを用意する気遣いに、多くのゲストが救われました。ショーがスタートすると、同ブランドらしいブラウントーンのルックをまとったモデルがゲストの前を通り過ぎ、エレベーターのボタンを押して乗り込んでいきます。「うお、そう来たか」。誰かの声が聞こえました。これは一人一人がエレベーターに乗り込んでたら、相当時間がかかるのではないかと。しかし、エレベーターに乗り込んだのはファーストルックのみで、ほかのモデルたちは右から来たり、左から来たり、早足だったり、ゆっくりだったりとバラバラに登場します。

 無機質でただ寒かっただけの空間が、ブラウンやカーキ、深みのあるグリーンという「ルメール」らしいカラーパレットに染まっていく様子はとても美しく、服を凝視するには難しい演出ではあるものの、世界観を伝える手法としてはとてもユニークで好きでした。数あるアイテムの中でも、コートの完成度は特に目を引きました。チェスターやバルマカーン、トレンチなどを、やわらかいものから肉厚なウールまで、多彩なバリエーションで見せます。瞬発的なデザイン勝負のブランドが同じショー演出をしても、きっと散漫に見えてしまうでしょう。シンプルながらムードがある「ルメール」の服だからこそ、日常に近い風景からにじみ出すエレガンスを体感できるいいショーでした。

12:30 「ブルーマーブル」

 「ブルー マーブル(BLUE MARBLE)」は、教会でショーを行いました。2022年LVMHプライズのセミファイナリストであり、23年インターナショナル・ウールマーク・プライズのファイナリストに選出されている、フランス発の新進ブランドです。トラックスーツやフレアジーンズに、ビーズや刺しゅうの装飾をふんだんに施して、今季もストリートウエアがボヘミアン調な仕上がり。ヒッピー風の気楽さと、クオリティの高い装飾が良い意味でミスマッチで、独特の感性が光っています。万人受けはしなくとも、一定の層で熱烈なファンを獲得できそう。好みが細分化されている昨今、ブランドの“個性”は何よりもの強みです。

14:30 「ジバンシィ」

 「ジバンシィ(GIVENCHY)」は、マシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)がクリエイティブ・ディレクター就任後、2回目となるメンズ単独のショーです。前シーズンは、得意のメンズだったはずなのに、賛否両論ある評価を覆すまでには至らない意見も少なくなかったのですが、今シーズンは名誉挽回を果たした会心のコレクション。冒頭にはオートクチュールのアトリエで作った4着のブラックスーツが登場し、シャープなラインの美しさやムードに「これはいいコレクションかも」という直感が働きます。

 前シーズンは、自身が得意とするプロテクティブなストリートウエアに軸足を置いた印象ですが、今回は「ジバンシィ」らしいシェイプのテーラリングにワークウエアを上手くなじませました。素材も面白く、日本のつぎはぎ“ボロ”の技術を用いたデニムや、ウレタンコーティングしたナイロンにはガーメントダイを施したり、ハリスツイードのヘリンボーンのコートにはパープルのエフェクトをあしらったりと、機能をデザインに転換するアプローチが印象的でした。またエレガントなコートのスタイルは秀逸で、トップスと裾から覗くインナー、ショーツ、タイツ、ロングブーツとハイパーミックスなレイヤードでドレスの概念をスタイリングで再構築。同じく、レイヤードを打ち出したカジュアルウエアのパートはもう少し洗練させる伸び代を残しながらも、全体的には自身の強みを生かしてうまくまとめた素晴らしいショーでした。

 会場にはSnow Manのラウールさんが来場し、パリコレを初鑑賞。フォトコールでは大勢の屈強なカメラマンに囲まれながらも「ハーイ」と物怖じせず挨拶し、堂々とポージングしている姿がたくましかったです。

16:00 「オーラリー」

 次は、今季もパリで発表する「オーラリー(AURALEE)」です。3回行われるミニショーの、1回目に私井上が参加しました。岩井良太デザイナーのステージ裏での奮闘ぶりをリポートすべく、ショー開始前に現場入りして取材を敢行。デザイナーによってはピリピリとした空気を漂わせ、声を掛けるタイミングに細心の注意を払わなければならない時もあります。気を引き締めて会場に到着するも、リラックスムードの岩井デザイナーの姿を見てすぐに緊張が解けました。コレクションは、「オーラリー」らしい美しいカラーパレットに、彼の空気感と同じくリラックスして飾り気のないエフォートレスな内容です。毎シーズンほしいと思いながら、まだ手に入れていない「ニューバランス(NEW BALANCE)」とのコラボレーションスニーカーを今季は絶対購入したい!進化したスニーカーの概要やショーの様子、岩井デザイナーへの取材は別記事でリポートをお届けします。スタイリングが秀逸すぎるので。ソックスや袖口など、細かい部分にもぜひ注目してください。

16:00 「ウォルター ヴァン ベイレンドンク」

 前シーズンは大遅刻だった「ウォルター ヴァン ベイレンドンク(WALTER VAN BEIRENDONCK)」先生、今シーズンは信じてます。会場となったパリの歴史的講堂に到着すると入場はすでに開始しており、(お、今回は大丈夫かも)と安心した自分が間違いでした。座って待てども待てどもショーは始まらず、しばらくしてBGMの音量が徐々に小さくなり、ゲストが会話を止めて“いよいよ感”が場内を包んでも、また音量元通りでBGMが復活。この駆け引きいる?40分以上押してようやく場内が暗転すると、フォトグラファーたちからは「オォ」と安堵の声が漏れます。その後は吸盤のようなエアバッグを外付けしたり、ウエアの内側に仕込んで奇天烈なフォームを作ったり、仮面ライダーが敵として現れそうな未来的なコスチュームが続々すぎるぐらい登場します。結局、スケジュールを一つ飛ばすハメになりました。ショーには“私たちには未来を見据える新しい視点が必要だ”というメッセージを込めたそうですが、その未来の時間を奪う段取りも意図的なのでしょうか。

18:30 「LGN ルイ ガブリエル ヌーチ」

 本日の最後は、パリで3回目となるショーを行う「LGN ルイ ガブリエル ヌーチ(LGN LOUIS GABRIEL NOUCHI)」です。昨シーズン、全裸にバスローブを羽織って、股間を手で隠したモデルがランウエイに登場した瞬間を鮮明に記憶しています……。会場に向かう足が重かったものの、今季は全裸はなし。ほっ。着想源となったのは、2000年公開のホラー映画「アメリカン・サイコ (American Psycho)」です。殺人鬼へと化したウォール街の若きエリートの主人公を彷彿とさせる、かっちりとしたスーツセットアップにネクタイ、肩幅広めで威圧感のあるマキシ丈のトレンチコートで強面な男性像を描きました。モデルの顔は血しぶきを浴びたようなメイクが施され、手にはライフルカバーや斧、チェンソーなど凶器を持ち、ホラー映画さながらのショー演出です。そして、演出かどうか定かではないですが、モデルの一人が“STOP EXECUTIONS IN IRAN”と手書きで書いた紙を持ってランウエイを歩きました。イラン女性の権利に関するメッセージです。殺人鬼を想起させるショーの内容だっただけに、強く印象に残るものでした。

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