ファッション

UA栗野氏×トレンド予測の第一人者が語る「南半球の誇り」  それは“新しい世界を理解するためのレシピ“

 日本服飾文化振興財団は今年11月、南半球のクリエイティビティに焦点を当てた本「プラウド サウス(PROUD SOUTH)」の編集を手がけたひとり、リー・エデルコート(Lidewij Edelkoort)の来日に合わせ、栗野宏文ユナイテッドアローズ上級顧問とのトークセッションを開催した。同書は南半球、つまりアフリカや南米、南アジア、東南アジアなどのアートやファッション、写真といったクリエイティビティを紹介する内容で、424ページにおよぶ写真とエッセイで構成されている。なぜ今、南半球なのか?2人からはファッション産業を刺激し、覚醒させる言葉が次々と飛び出した。

 1950年オランダ生まれのエデルコートは、トレンド予測の第一人者として知られ、テキスタイル見本市「プルミエール・ヴィジョン(PREMIERE VISION)」でのインスタレーションなどが有名だ。今も数々のグローバル企業に向けてトレンド分析やデザインコンサルティングを行っている。彼女が示す“トレンド”とは短視ではなく、歴史や社会情勢を踏まえて数シーズン先に消費者が何を求めるかを示すものである。

 エデルコートが同ブックに収めた写真、そこに映るファッションや人物はエネルギッシュだ。カラフルでまっすぐで、明るく、自信に満ちている。「彼らから新しいイニシアチブを感じたし、写真の力を改めて発見し、幸せだった」とエデルコートは制作過程を振り返る。企画からリサーチ、写真家探しには1年半以上の時間を費やしたという。写真家たちはいずれも“南半球”にルーツを持つ人たちで、いわゆる有名人ではない。「まず考える時間を十分にとり、そしてリサーチをした。写真家を見つけるのはとても大変だった。ネットを通じて探し、人づてで連絡をとり、説明をして。で、返事がこなかったりして(笑)」。

“ファッションはもう生き残れない”とまで発言してしまった

 このトークイベントでもっとも時間が割かれたのは「北半球の住人が南半球のクリエイションを扱うことの意味と意義」だった。15世紀の大航海時代以降、ざっくり言えば、北半球の国が宗主国で南半球の国が植民地という関係が長く続いた。冒頭にエデルコートが「白人である私が南半球を扱っていいのか、という自問があったから彼らにもそれは質問をしました。そして概ねOKでした」と話したのもそういった歴史的背景を念頭に置いてのことだ。聞き手である栗野上級顧問を含む聴衆の大多数を占める日本人もまた、「帝国側」だった意識が少なからずあるからか、その言葉は会場に緊張感と熱を生んだ。

 同書は「まずは南半球の人たちのために作った」とエデルコオートは言う。「世界はゆっくりとしか変わってゆかない。新しい世代が出てきてもまた逆流したりする。ポスト・コロニアリズム、ポストポスト・コロニアリズム、ポストポストポスト・コロニアリズムといった感じで100年かけて変ってゆくだろう。今は始まりのときだと思う」。

 エデルコートが南半球のファッションや写真に惹かれたのは、西欧型のファッションシステムの価値基準とは異なる表現がそこに見つかるから。そこから自身も活力を得たい、そんな思いがあったようだ。「『プラウド サウス』の写真を見たあるジャーナリストが“ファッションをやっている人が撮ったのではないみたい”と発言するのを聞き、やはりここにこそ新しいコアがあると確信した」。

 彼女は数年前に「アンチ・ファッション・マニフェスト」という本を書き、現状のファッション産業のシステムに厳しい指摘を投げかけている。「今のファッションビジネスはコピーとマーケティングだらけで自分自身を苦しめている。本の中では“ファッションはもう生き残れない”とまで発言してしまった」。栗野も「ファッションシステムやマーケティング、ソーシャルメディアの存在は均整をうながし、ファッションを殺してきた。今の北半球のファッションには常にオールドファッションの影を感じる」と厳しい。「たとえば、新しく知ったアフリカのデザイナーたちを理解しようとする際も“あの人はパリのファッションウィークに出ているね。エスタブリッシュだね”と既存のシステムの中で理解し、安心感を得ようとしがちだ。南から北へ、ではなく、南は南の中でまわっている。僕らはすでに世界のファッションのリーダーではないことを理解しないといけない」。

とはいえ、僕らはまだファッションを愛し、考えている

 「とはいえ、僕らはまだファッションを愛していて、それについて考えている。南半球のクリエイターたちの誇り『プラウド サウス』は僕らが新しい世界を理解するためのレシピなのかもしれない」と栗野。「これまで多くのことを学んできたが、僕らは北と聞くと寒い場所とイメージする。だけどブラジルに行けば北は暖かく南は寒い。場所が変われば地図の中心地も変わリ、アフリカでは当然アフリカがセンターで日本はとても遠い。そんなことから改めて見方を変えたい」。

 新しいレシピのキーワードは、エデルコートがあげる「Emancipation=解放」だろう。「南半球では、私たちとは全然違うものごとの決め方に感動します。色に対する解釈もそう。ベージュがベーシック、と言う固定観念は南半球の色使いから解放される。ジェンダーなどについても同じことが言えます。視点を変える、意識を変える時代に来ています。大事なことはオリジン、根っこです。自分の根っこをきちんと表現することはアバンギャルで素晴らしいこと。希望を持てることだと思う」。

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