ファッション

“デザイナー不在”の異色ブランド「カルネボレンテ」 セックスポジティブな世の中を目指して

 パリ発の「カルネボレンテ(CARNE BOLLENTE)」は、セックスをモチーフにした刺しゅうTシャツがソーシャルメディアを中心に話題になっているブランドだ。「アンダーカバー(UNDERCOVER)」「アニエスベー(AGNES B.)」とのコラボレーションも行い、東京の街で見かけることも増えた。

 同ブランドは、セックスやセクシュアリティーは恥ずかしいものではなく、健康で楽しいものだというマインド“セックスポジティブ”を体現している。ブランドにはデザイナーがおらず、パリを拠点にした多国籍の3人で構成する。創業から廃棄ゼロを継続するなど、異色ブランドの全貌を、チームの1人である日本人の遠藤聖に聞いた。

WWD:チーム3人の出会いとバックグラウンドは?

遠藤聖(以下、遠藤):ハンガリー出身フランス国籍のイラストレーターのアゴストン・パリンコ(Agoston Palinko)と、フランス出身のアートディレクターのテオドール・ファメリ(Theodore Famery)の2人はフランスの国立の美術大学に一緒に通っていた友人でした。そして、アゴストンは日本に交換留学していて、僕はグラインダー(Grindr、デートアプリ)で彼と知り合い、友達になったんです(笑)。自分は財閥系商社のサラリーマンを辞めた後、セレクトショップのバイヤーを経て、もっとファッションをやりたいと思い、フランスに飛んでブランドをローンチしたんです。

WWD:それぞれの役割は?コレクション発表まで3人でどうこなしているのか?

遠藤:役割を明確に決めてはいませんが、コンセプト作りや、ビジネス面、PRは自分が主に担当しています。商社マンとバイヤーの経験が生きているのかもしれませんね。ただ、コレクションのテーマは3人で決めます。イラストはアゴストンが担当し、自分がファッションのディレクションをします。それらをテオドールが取りまとめるといった流れで進めています。

WWD:なぜデザイナーがいないのか?

遠藤:いわゆるファッションデザイナーと呼べる人はこの中にいません。自分以外の2人もイラストやグラフィックデザインを学んでいましたし、誰もパターンを引けません。服作りにはもちろん真剣に向き合ってはいますが、これでデザイナーを名乗るのはファッションデザイナーさんに申し訳ないというか(笑)。

 「カルネボレンテ」がデザインしているのは、コンセプトだと考えています。たまたま表現のアウトプットがファッションなだけで、日本の文化祭のクラスTシャツを作るカルチャーに近いかもしれません。

WWD:なぜ“セックスポジティブ”を刺しゅうで表現しているのか?

遠藤:タブーとされているからこそ、性にオープンなことが当たり前になる社会にしたい。その考えにメンバー全員が一致しました。まずはそういった会話のきっかけになるアイテムを作りたかったんです。

 そこで、セックスをモチーフにし、ワンポイント刺しゅうのTシャツが最初に作ったアイテムでした。イラストではなく、刺しゅうを使うことで、他ブランドとの差別化ができるかなと考えたので。ブランドをローンチした2015年当時は、セルフィーブーム最盛期。インスタグラムで自撮りをアップした際に、胸元のワンポイントに見えるという効果を狙ったんです。自分たちの周りの人に着てもらうことからスタートし、今もPRはギフティングが中心です。

WWD:現在の販路や展開している国と地域は?

遠藤:卸売りがメインで、25~30カ国のショップに卸しています。卸先の約6割はヨーロッパで、最近は日本でも取り扱いがどんどんと増えています。オンラインでは、「エッセンス(SSENSE)」などでも取り扱っています。ヨーロッパと北米での知名度は高くなる一方で、日本を含むアジア地域ではまだ“フランスのセックスの刺しゅうのブランド”と知られているかどうかで、これからもっと頑張りたいです。

WWD:セクシュアルなデザインで販路に困ることは?

遠藤:ありますね。ヨーロッパと比べ、日本はセクシュアルすぎるかどうかを基準ににアイテムを選別するショップも多いです。一昔前に、女性蔑視的なセクシュアルなモチーフのアイテムを販売して批判されたセレクトショップもあるので、セクシュアルなもの全てをNGにしているケースもあります。

 日本と比べてもっと厳しいのはアメリカです。中絶禁止の議論など保守的な考えがまた強まっているのもあるんでしょうね。特に全国展開しているようなストアだと、ニューヨークやロサンゼルスなどに加え、さらに保守的な地域も考慮しなければいけないので。また中東など、国によっては通関もできないので、輸出が難しい場合もあります。

WWD:工場への発注の際にトラブルはなかった?

遠藤:アイテムは主にポルトガルで製造しているのですが、保守的なカトリックが多い国なので、最初に発注するときは緊張しました。嫌な思いさせたくないなと。でも実際に刺しゅうの工場を訪れてみると、みんなちょっとニコニコ、クスクスしながらこっちを見ていたんです。工場長に聞いたら、「次はどんな変なのが来るかな」とみんな楽しそうに仕事をしているって言われました。半分茶化されてるのかもしれないけど、うれしそうで良かったです(笑)。

WWD:サステナビリティにも取り組んでいる?

遠藤:2015年の創業から廃棄はゼロで、1枚も捨てたことがありません。自分が意外とデータが得意で、販売計画や在庫の持ち方などはすごく気にしています。チャリティーイベントで安く販売や寄付するなどして、無駄にならないようにしています。デザインから販売へのリードタイムが長いため、追加で発注などはせず、基本は1回のみ。

 また、サプライチェーンもほとんどヨーロッパに集約していて、ポルトガルのテキスタイル産業が盛んな地域ギマランイスで主に製造しています。現地のサプライヤーから素材を調達し、工場で生産した後に直接輸送しています。

WWD:ブランドとしてこれから挑戦したいことは?

遠藤:ファッションという枠組みから飛び出してみたい。例えば、オフラインでリアルなコミュニケーションが取れるイベントやスペースとか。クィアコミュニティーやセックスポジティビティーに関連するセーフスペースを作りたいです。

 それと、フェムテックブランドとのコラボにも興味がすごくあるし、次世代の若いアーティストを支援したいという気持ちもあります。自分たちも、ブランドとのコラボなど周りの人に支援してもらったので、それを還元したいんです。

 この先、世界にセックスポジティビティが広がれば「カルネボレンテ」の“特別感”もなくなり、アイテムが売れなくなるかもしれません。でも、それがブランドのゴールでもあるんです。