ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。今週はあらゆる世代でトレンドの軸となりつつあるヘアカラーの話。(この記事はWWDジャパン2022年7月25日号からの抜粋です)
【賢者が選んだ注目ニュース】
絵の具感覚で狙った色みを表現 新ヘアカラーブランド「エノグ」
「#白髪ぼかし」がバズり 客単価5000円アップ
PROFILE:(たなか・きみこ)前職は経営コンサルティングファームでIT業界の業務改善に携わる。リクルート入社後、ホットペッパービューティーの事業企画を経て、2012年から現職。調査研究員として、「美容センサス」をはじめとした美容サロン利用調査や、美容消費の兆しを発信する。セミナー講演、業界誌・一般誌・テレビなど取材多数。共著に「美容師が知っておきたい50の数字」「美容師が知っておきたい54の真実」(女性モード社)ほか
若年層と大人女性の双方にとってヘアカラーがトレンドの軸となっていることに注目している。昨今は、ショートやボブといった“髪型でトレンドを創る”というよりも、インナーカラーやハイトーンカラーといった“カラーでトレンドを創る”という傾向が顕著だ。特にインナーカラーは10代後半から40代まで、年齢を問わず幅広い世代に受け入れられつつあるトレンドで、これまでにはあまり見られなかった。
ホットペッパービューティーアカデミーが毎年実施している「美容センサス2022年上期〈美容室・理容室編〉」を見てみると、サロンでのカラー利用率は2016年以降右肩上がりに伸びており、22年はカラー利用率が53.7%にまで上る。これと同じ動きをしているのが、1回当たりの利用金額だ。カラー利用率と同様に16年から右肩上がりに伸長し、コロナ禍でも落ち込むことなく22年には7345円と過去最高金額となった。ヘアカラー利用率が上がったことが、ヘアサロンの売り上げアップに大きく貢献していると考えられる。
各年代で高付加価値カラーの需要が高まり単価もアップ
ヘアカラー利用率が上昇している背景としては、若年層のハイトーンカラーブームと、大人女性におけるファッションカラーの一般化があると見ている。まずは若年層の動向に注目したい。前述の調査でヘアカラーの施術内容を聞いたところ、10代後半(15〜19歳)のカラー利用者のうち、4割がブリーチを利用していることが分かった。十数年前だとダメージや髪がかなり明るくなることからブリーチはあまり受け入れられなかったが、最近は一部の美容意識の高い層だけでなく、一般的なおしゃれとして気軽に取り入れられている。これは薬剤の進化に加えて、消費者の価値意識の変化が要因として考えられる。「美容センサス2021年下期〈美容意識・購買行動編〉」で「Z世代が美容に対してお金や時間をかけたい理由」を聞いたところ、コロナ前後で意識が大きく変化していることが明らかになった。異性や周りの目線を気にかけるよりも、「自分のためにきれいになりたい」「自分に自信を持ちたい」といった自分のやりたいことを美容で実現するというモチベーションが高まっているのだ。こういったことからハイトーンカラーは人気を集めている。またサロン利用金額を21年と22年で比較すると、ほかの年代に比べてブリーチ比率の高い10代後半と20代が最も増加している。サロンでしかできない高付加価値カラーの流行が、1回当たりの単価アップに貢献していると言えるだろう。
次に大人女性に目を向けると、30〜40代の女性たちは20代の頃にサロンでカラーをすることが一般化した。19年に実施した「〜令和時代の大人女性〜美容意識・行動調査」で「初めてサロンでカラーを体験した年齢」を聞いたところ、50〜60代は20代後半から30代半ばだったのに対して、30〜40代は20代前後にまで若年齢化していることが分かった。つまり、30〜40代の女性たちは社会人になってすぐ、自身のライフスタイルを形成する過程でヘアカラーを取り入れることが当たり前になった。サロンでのカラーを日常的に、白髪染めではなくファッションカラーを楽しむという意識を持っている世代と言える。現在は白髪に対する対処法はさまざまで、ファッションカラーを組み合わせながら、明るいブラウンやグレーで白髪をなじませるのが人気だ。白髪を生かして(=染めずに)、明るいハイライトを周囲に入れる「白髪ぼかし」など、トレンド感のあるヘアカラーは大人世代からも重視されているのだ。
加えて、サロンでの店販年間購入額も伸び続けている。特にトリートメントの購入が年々増えている。カラーをすれば同時にケアが必要となり、サロンにとってプラスの循環ができている。中には、カラーメニューと店販商品を組み合わせる動きもあるほどだ。
今後もヘアカラー支持は続くだろうし、ますます高まっていくだろう。今、若年層が楽しんでいるハイトーンカラーはセルフで再現することが難しいものだ。若年層の間では特に、トレンド性の高いカラーデザインはサロンでなければできないという意識が定着しつつある。それと同時に、若い頃にヘアカラーに慣れ親しんだ大人世代は、変わらずにヘアカラーを楽しみたいと思っている。日本の美容はカット技術がそもそも高く、差別化はなかなか難しい。そこにカラーが加わり、さらにはトリートメントが加わることで、差別化の要因になっていくだろう。カラーの存在感の高まりが、来店頻度の担保や単価アップにつながり、業界にとって革命的な意味をもつのではないだろうか。