ビューティ

仕事が絶えないあの人の、“こうしてきたから、こうなった”香水サブスク展開のセントピック川島匠編

 転職はもちろん、本業を持ちながら第二のキャリアを築くパラレルキャリアや副業も一般化し始め、働き方も多様化しています。だからこそ働き方に関する悩みや課題は、就職を控える学生のみならず、社会人になっても人それぞれに持っているはず。

 そこでこの連載では、他業界から転身して活躍するファッション&ビューティ業界人にインタビュー。今に至るまでの道のりやエピソードの中に、これからの働き方へのヒントがある(?)かもしれません。
連載第12回目に登場するのは、香水のサブスクリプションサービス(定期購入)を展開する「セントピック(SENTPICK)」代表の川島匠さんです。コンサルティングファーム・ボストンコンサルティンググループ(以下、BCG)などを経て、2019年4月から「セントピック」をスタート。外資系コンサルティングから現在に至るキャリア変遷と香水ボトルに乗せて届けたい思いを聞きました。

WWD:まず前職のお話から教えてください。

川島匠(以下、川島):大学卒業後、ATカーニーやBCGなど外資系のコンサルティングファームに勤めていました。飲料や化粧品などいわゆる消費財を扱うクライアントを担当することが多かったですね。2010年ごろ、大きな企業とスタートアップのアライアンスを通して、新規事業の立ち上げを行う機会がありました。その頃はまだ、“ベンチャーと言えばサイバーエージェントかDeNAは聞いたことがあるかな”くらいの時代。初めてベンチャーの方々とご一緒することで、「ゼロから何かを生み出す仕事っていいな」という気持ちが芽生えたように思います。その後、当時国内最大級のスタートアップカンファレンス「IVS(インフィニティベンチャーサミット)」に参加し、今ある悩みや課題を解決する最新のテクノロジーやサービスに圧倒されました。人のためになり、話題になるようなプロダクトを作ってみたい——そんな思いが湧き上がりました。28歳ごろですね。

WWD:香水に関わる事業を始めようと思った実体験はありますか?

川島:社会人2~3年目に遡ります。当時、心を寄せていた女性が付けていた香りが気になりつつも、本人に聞くことができませんでした。その香りが何の香水なのかを探すべく、百貨店のフレグランスフロアに通いました。とはいえ、何百種類も並ぶボトルを試すうちに鼻が効かなくなりますし、香りの説明には「戦いの前の戦士の香り」などと書かれていて……。当時の僕の理解を大きく超えてくるわけです。さらに販売員の方から、付けたてとしばらく経ってからの香りは変わるということを教えてもらい絶望しました(笑)。恋愛感情というエンジンを積んでも、目的の香りを探し当てられないんだと悟りましたね。

WWD :その香りは見つかりましたか?

川島:まだ見つかっていません(笑)。18年1月に独立して、フリーのコンサルタントになりました。そうして、以前よりも少し自分の時間ができたときにこれから自分が本当にやりたいことは何かを突き詰めて考えてみたんです。自分が求めている香りと出合うことの難しさという実体験と、これまでにないプロダクトを生み出したいという気持ちがクロスして香水のサブスクというサービスを思いつきました。18年12月ごろですね。

WWD:サービス開始は翌年の4月ですよね?ものすごいスピード感です。

川島:誰にも先を越されたくない、という一心でした。最初の1カ月で会社の登記から事業計画といった書類、ウェブサイト、香水を入れる小分けボトルの製作交渉や契約などできる限りの準備を進めました。化粧品製造販売業許可免許も取得しています。この免許はコスメの通販サイトでも取得していないことが多いのが実情ですが、少しでもユーザーに安心してサービスを利用してもらうためにも取得しておきたかった。申請のための書類自体は形式的なものですが、都の担当者に事業内容を理解してもらうのが難関でした。「香水を小分けにしたサブスクリプションって何ですか?」といったことから丁寧に説明しましたね。
現在、メンバーは僕とマーケティング担当、薬剤師の資格を持つスタッフの数名です。香水の小分けや発送という作業はOEM(受託製造メーカー)に委託しています。
※市場に対する最終責任を負って化粧品を日本国内市場に出荷・流通させる業者に対する許可

WWD:「セントピック」のサービスについて改めて教えていただけますか?

川島:月額1680円(送料別)から試したい香水を1カ月分(5mL)のサイズで毎月届ける定期便です。約330種(21年1月時点)から気になる香水を選んでいただくのはもちろん、いくつかの質問に答えることでAIが自動でおすすめする“香りのお任せコース”もあります。価格設定に関しては、この価格ならハイブランドを含む良質な香水を提供でき、かつ持続可能な利益率を生み出せるだろうという事業主目線によるところが大きいです。ラインアップは、僕が女性もしくは男性につけて欲しい香りをセレクトしています。

WWD:香水を事業とすることでの壁はありましたか?

川島:当初、あるメーカーさまから「小分けして売るのは便利だけど風情もないだろう」と言われたことがありました。香水は、香りへのこだわりはもちろんボトルデザインや詩的なテキストといったことも含めてブランドの世界観があります。パフューマーだけでなく、ブランドから流通に至るまで、一つ一つの香水に関わる人たちが皆プライドを持っているんですよね。現在は卸を通して購入することがほとんどで、直接ブランドと契約などのやりとりは実現できていません。末端価格で購入したものを小分けで売ること自体は違法なわけではありませんが、メーカーさまからはそういう買い方をして欲しくないという意見も真摯に受け止めています。

香りは自分のワードローブを広げてくれるもの

WWD:「セントピック」以外の香水のベンチャーや香水を解説するユーチューバーなども人気です。こうした香りのサービスの多様化についてどのように感じていますか?

川島:以前から香水の小分け業は存在していましたし、現状の国内の香水市場が盛り上がっているとも思いません。特定の香りを探せて届けてくれるサブスクや、モテ香水などを紹介するユーチューブにアクセスするのは、元々興味があったり香水好きな人だと思うんです。「セントピック」のユーザーの多くは、AIによるお任せコースを選んでいます。月に一回の自分へのご褒美や占いのような感覚で、気軽な気持ちで使ってもらえているのだと考えています。

実際に香水を届けてはいますが、香水という価値提供よりも、“自分のワードローブ”を増やしてもらいたいという思いが強いんです。こうなりたいと思う自分に近づけたり、気づいていない自分のキャラクターを知るヒントを届けられたらと思います。来月にはラインアップを今より100種以上増やす予定ですが、品揃えを増やすことを追い求めているわけではありません。“ラットレース”になってしまいますから。
戦略と聞くと“どう戦うか”や“どう競争を仕掛けるか”を考えてしまいがちですが、本来はそうではなくて。いかに戦いを略すか、つまり、“戦わないで勝つか”を考えるのが戦略だと考えています。価格や品揃えで競争していたら難しい。そうじゃない価値で選ばれるサービスになっていきたいですね。

WWD:そのように常に冷静に状況把握をしたり、ご自身の感度を高めるために意識していることはありますか?

川島:“自分KPI”を作っています。今自分は一人の人間として魅力的なのかどうか、という非常に個人的な指標です(笑)。例えば1週間のうちに後輩から誘われる回数と自分から誘う回数を計測して、前者が高ければまだ自分はイケてるかもなと判断するわけです。一般論ですが、後輩が先輩を誘うことって、年上の人が後輩を誘うことよりもハードルが高い設定だと思うんです。すると、じゃあ誘われる人間になるにはどうしたらいいかを考えます。後輩からすると先輩というのは、説教してくる面倒な存在となることも多い。それでも、僕と話すと何か変わった考え方を得られたり楽しいと思ってもらえるような、求められる人になりたいです。そのための知識のアップデートや振る舞いをできるだけ心がけています。何よりも、異なる世代や世界観を持つ人と話すことで視野を広げたいという気持ちがありますね。

WWD:コンサルから香水事業へと、“畑”が変わったことで変化したことはありますか?

川島:独立して自分で事業を展開する今、いかに“今”を最大化させるかに重きを置くようになりました。前職のコンサルでは、理想の姿を設定し現状を把握して、そのギャップの課題を解決することが基本的な任務です。それを個人の生き方にも求められていましたね。企業にいた時は「5年後にどんな自分になっていたいかをまず決めろ」と言われていたので、それを達成するために半年後、今月、今週は何をしなくてならないかを考えるという合目的主義的なプレッシャーが常にありました。“成長しないことは悪である”という考えが前提にあるんです。でもそれだと定義上、一生幸せにはならないんですよね。「セントピック」でも、やみくもに事業を拡大することよりも“今”をチームと楽しみたい。そして、ユーザーにとっての利便性とメーカーやブランドからの信頼をいただけるような実績を積み重ねていきたいですね。

コロナ禍のニーズにも沿うサービス

WWD:前職での経験が活きていることはありますか?

川島:事業計画の立て方はやはりこれまでのコンサルの経験が役に立っています。顧客獲得コストや継続率といった数字も想定から乖離をしていません。会員数は現在2万数千人でそのうち85%が女性ですが、男性ユーザーも増えています。実は、昨年3月末時点の会員数から倍以上に増えているんです。コロナ禍で外出が減る=香りをまとう機会が減るのでは?と考えていましたが、そうではなくて。「人に会わないからこそ自分の好きな香りを存分に楽しめる」「在宅勤務の気分転換に香水を使っている」「ポスト投函で届けてくれるのは人に接触しなくて安心」といったコメントをツイッターやインスタグラムでいただくことも多いです。“香りは自分のワードローブを広げてくれるもの”という僕らが一番伝えたいメッセージを、ユーザーの皆さんが体現してくれているのかなと思うと、うれしいですね。

WWD:川島さんにとって仕事とは?

川島:労働自体は“食べて生きるため”のものではあるけど、それよりももっと社会市民的な活動でありたいです。それによって満たされる対象が昔は自分一人だったけれども、それが次第に家族や友人、恋人、仲間へと広がって、そして今はユーザーという自分から遠い人にも幸せを届けることが今の僕らの仕事だと考えています。それを1センチでも広げていきたいですね。

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「WWDJAPAN」4月12日号は、眼鏡特集です。旧態依然と言われる眼鏡業界ですが、コロナ禍で眼鏡や眼鏡店は時代に応じたさまざまな変化(フォームチェンジ)を見せています。アパレル業界でスタンダードになっているサステナブルなモノ作りに眼鏡も取り組みはじめ、年間のビジネスの大きな山場である4月は多くの展示会がオンライン商談に挑戦しました。テレワークやオンライン授業が一般化し、向き合う時間が増えたパソコ…

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