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バングラデシュで縫製工場が再稼働

 新型コロナウイルスのパンデミックにより稼働を停止していたバングラデシュの縫製工場が、混乱した状況下で稼働を再開した。しかし、非常時の労働環境や大手ファッションブランドによる未払金の発生、そして「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定(The Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh)」の活動停止時期の期限も差し迫るなど、現状はバングラデシュ人労働者の生命と彼らの生計が天秤にかけられているような危うい状況にある。

 アパレル輸出産業で世界トップの中国に次ぐ規模のバングラデシュでは、現在国内にある3500の工場のうち約1000の工場が新たな規則を設けた上で稼働を再開している。しかしバングラデシュのロックダウン措置は継続中で、公共交通機関は現在も停止している。

 同国内の1150以上の工場では、輸出が予定されていた10億着にも及ぶ注文がキャンセルされた。通常、注文に対する代金が工場側に支払われるのは商品が出荷された後のことで、工場側は材料費を立て替えて生産を行っている。労働者の賃金に加えて原材料の供給業者への支払いもあるため、工場の資金繰りはひっ迫している。

 また、ロックダウン措置により工場への原材料の供給も滞っている。インディテックス(INDITEX)やプライマーク(PRIMARK)など、すでに発注した分の支払いを約束している企業もあるが、小規模小売業者を相手にしている中小の工場の状況は特に厳しい。

 バングラデシュの縫製工場で働く人の多くは地方からの出稼ぎ労働者たちだ。彼らは失業の恐怖や感染リスク、そして雇い主からはっきりとした情報が得られないことに対する不安を抱えている。労働者たちの多くは工場の閉鎖を受けて帰郷していたが、再開の知らせを聞きつけ、ロックダウンによる困難な状況の下でダッカ郊外の工場へと戻ってきた。中には長い道のりを歩いて戻った者もいたが、結局工場は閉鎖されたままであったりと、労働者たちは非常に混乱した状況の中にいる。

 バングラデシュ政府がロックダウンの延長を繰り返したこともあり工場再開の日時は不透明だったが、一部の工場で4月26日に通常の30%の人手で稼働の再開が許可された。なお、工場に呼び戻されたのは近郊に住む労働者のみで、地方からの出稼ぎ労働者はその対象となっていない。

 しかし地方からダッカ郊外に戻ってくる労働者は途切れず、フェリーなどの公共交通機関は非常に混み合っている。労働者に書面での通達は行われておらず、彼らの多くは新型コロナの感染よりも職を失うことへの恐怖を感じているという。また彼らの多くが共同生活を送っていることを考慮すると、まずは労働者の安全と健康を維持することが急務だといえる。人件費の安いバングラデシュでは労働者の立場が弱い。こうした貧困の上に最大限の利益を得ようとしている現状は非常に危険だともいえる。

 また同国の大手工場では、政府が賃金の6割を支払うよう命じたことを受けて、全額の支払いを求める労働者たちが工場外でデモを行った事例も複数ある。

 まずは職場での安全と健康に関する基準を雇い主と労働者の双方で徹底すること、そして新型コロナのリスクに対する認識を深めることが急務だ。さらに、三蜜を避けるための交代制勤務やワークシェアリングも検討するべきだろう。

 しかし労働組合の国際組織であるユニ・グローバル・ユニオン(UNI Global Union)によると、バングラデシュの現状では安全を保証するのは不可能に近いという。工場内でマスク着用や除菌を行ったとしても、中国やインドを上回る人口密度のバングラデシュでは通勤経路が非常に混雑していることが背景にある。

 実際にはルールの徹底やしっかりとした検査は実施されておらず、根拠のない安全基準を設けていてはウイルスの感染拡大が止まらないのではないかと危惧する声もある。

 先週稼働を再開したガジプールの工場では、手指消毒液の使用や時差出勤、床面に立ち位置の印を付けることでソーシャル・ディスタンスを徹底するなどの対策を実施している。工場主によると「感染のリスクは理解しているが、業務に対応しなければならない。バングラデシュの工場は、しっかりとした形をとって業務を再開させるか倒産するかの瀬戸際にある」とコメントした。

 バングラデシュ政府は同国の主要産業でもある縫製業界を守るため、工場労働者の賃金補助として5億8000万ドル(約614億円)相当の支援策を講じた。また、工場に対して賃金を現金払いからテレフォンバンキングに移行するよう命じた。しかしこの政策は補助金制度ではなくローンのような形態となっているため、厳しい状況に変わりはない。

 注文のキャンセルや支払い遅延などの問題は残っているが、世界の小売業界では労働者やサプライヤーを支援する動きも見られる。

 H&Mは全ての国の衣類製造業者に対して、すでに完成した衣服や生産に着手している衣服に関しては、期日に間に合う場合は発注をキャンセルしないとした。また期日内に対応できない場合でも、柔軟な対応で解決策を見出したいとしている。

 世界の大手アパレルブランドは、工場の現状や感染拡大防止策についても十分考慮する必要がある。工場は再開されつつあるが、課題は山積みだ。