ファッション

動画コマースの新潮流“触れる動画”、ファッション通販に新たな可能性

 ファッション業界でも拡大しつつある動画コマース。中でも「ティグ(TIG)」は、“触れる動画”テクノロジーとして注目を集める技術の1つだ。同技術は、動画内の対象物に情報を“ティグ付け”することで、視聴中に気になったモノ・コトの検索や購入を動画内で完結させる。2018年3月のローンチ以降、アパレル企業をはじめ導入企業数を増やしているほか、NTTドコモとライブ配信用の「ティグ ライブ」を共同開発したり、女性向け動画メディア「Cチャンネル(C CHANNEL)」とサービスを連携したりと、事業の拡大も行っている。“触れる動画”はファッションのネット通販に、どのような可能性をもたらすのか。「TIG」を開発・提供するパロニムの小林道生代表に話を聞いた。

WWD:パロニムを創業するまでは何をしていた?

小林道生パロニム代表(以下、小林):もともとは、ソフトバンクで映像伝送路の運用を8年ほど担当していました。その後、12年に会社を設立し、アドテクノロジーやデジタルマーケティング、ECなど、ウェブ周りのことを一通り経験していたのですが、その会社の新規事業として“触れる動画”の技術である「ティグ」を立ち上げました。16年にTIGの事業をスピンアウトさせる形で、パロニムを設立しました。

WWD:「ティグ」のアイデアは、いつ頃思いついたのか?

小林:ソフトバンクが08年に、iPhoneの独占販売を発表したころから何となくは考えていました。発表後に、社内で「コレ(iPhone)が世の中をどう変えていくインフラになるのか考えろ」と言われ、新規事業3000本ノックのような企画が実施されました。そこで僕は今の「ティグ」のベースとなる、動画に直感的にタッチするだけで情報を引き出せる、というアイデアを提案しました。でも、結局「アイデアはいいが、どう商圏を作るのかが分かりづらい」と言われ、2次面接で落とされてしまって。ビジネスとしての“出口”の部分を学ばないとなと考え、ウェブ上のビジネスの指標などを学ぶという目的も込めて12年に会社を立ち上げたんです。

WWD:“触れる動画”は通常の動画と比べ、どの程度の効果が出る?

小林:2~3分の動画の中に10カ所ほど“ティグ付け”はした方がいいといったノウハウなどもありますが、平均的に視聴完了率は大きく上昇しています。90%を超えるケースもある。また、“ティグ付け”先のサイトへ飛ぶ確率も約50%と、高い数値になっています。サイトへのコンバージョンと視聴完了率はよほどの失敗がない限り、かなり高い数字を出せるはずです。また、現状はサンプル数が少ないのですが、購買のコンバージョンも高いです。とある広告用の動画では、同じ内容で“ティグ付け”した動画とそうでない動画とで2倍以上の購買コンバージョンの違いが出ています。

「ノース・フェイス」の導入で
アパレル企業の利用が加速

WWD:現在、どのような企業が「ティグ」を導入している?

小林:アパレルや自治体、エンタメ、メディアなどさまざまな企業が導入しています。特にアパレルは、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」の導入以降、一気に加速し、現在は60~70社ほどの導入企業数のうち4割以上を占めています。

WWD:「ティグ」はアパレル企業にどのような使われ方をしている?

小林:動画の“ティグ付け”のほか、「ティグ」が持つ複数の機能のうち、動画内で「どちらの道に進む?」といったストーリー分岐が起きる「ティグ ブランチビデオ」やカタログなどの静止画に“ティグ付け”を行う「ティグ マガジン」をメインに使っていただくことが多いです。また、今後はライブ機能がけん引役となって、アパレルや化粧品の企業、さらにはインフルエンサーの方にまで加速していくと考えています。

WWD:ライブ配信中もリアルタイムで“ティグ付け”を行えるのか?

小林:現状は動画に専用のCMSで“ティグ付け”をする形ですが、今後はスマホやタブレットにRFIDリーダーを接続することで、商品のRFIDタグを読み取り、既存の在庫情報などからデータを引き継いで即時“ティグ付け”をする形できるよう、開発を進めています。もしRFIDを導入していない企業であれば、バーコードやQRコードのリーダーで代替できるようにするつもりです。

WWD:ローンチしてから2年が経ったが、手応えは?

小林:悪い点と良い点があります。悪い点としては、SaaS型のサービスとしての成長の見込みが圧倒的に甘かったということです。当初の考えでは、YoutubeやAdobeのように、営業をかけなくてもユーザーが能動的にサービスを探し、契約してくれるようになるのでは、と考えていましたが、現実は厳しかった。“触れる動画”への反応は好評なのですが、使い方の模範例が分かりづらいことが大きな要因だと考えています。一方で良かったのは、想定以上に大手や有名企業・ブランドの利用数が多かったこと。NTTドコモさんの5Gコンテンツを通じてジャニーズの方に使っていただいたり、海外でロッテさんやヒュンダイさんに利用していただいたり。今年度の上期にも、超大手のコンテンツプラットフォームへの実装も決まっているので、さらに加速できればと思っています。

WWD:今後、導入を進めていきたい企業や領域などはあるか?

小林:小売り領域は、引き続き伸ばしたい分野の1つです。また、「ティグ」の良さは、調べようのないものを直感的、かつすぐに知ることができる点にあるので、ハウツー系や企業内での教材など、広義の意味での教育領域にも注力していきたいですね。既に東京理科大学と共同研究で、研修などのティグ動画化を行っていますが、習熟度がとても高い。動画のどの部分に、いつ触ったのかをヒートマップで分析することも可能なので、より効果的な教育ができると考えています。

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