ファッション

新型ウイルスの影響でスウォッチ グループが展示会中止 過剰反応か?それとも自己防衛か?

 訪日外国人客減による免税売上高ダウンなど、日本のファッションビジネスにも深刻な影響を与えている新型コロナウイルスだが、時計業界も打撃を受けた。世界最大の時計企業であるスウォッチ グループ(SWATCH GROUP)が、3月4~6日の会期でスイス・チューリッヒで開催予定だった新作展示会「タイム・トゥ・ムーブ(TIME TO MOVE)2020」の中止を決めたのだ。同展示会では「ブレゲ(BREGUET)」「ハリー・ウィンストン(HARRY WINSTON)」「ブランパン(BLANCPAIN)」「ジャケ・ドロー(JAQUET DROZ)」「グラスヒュッテ・オリジナル(GLASHUETTE ORIGINAL)」「オメガ(OMEGA)」の同グループ上位6ブランドを世界中の時計バイヤーやプレス関係者に披露する予定だった。

 開催までちょうど1カ月というタイミングでの決定に、時計バイヤーやプレス関係者からは困惑の声が上がった。「この状況では仕方ない」という反応の一方で、「過剰反応では?」という疑問や不満の声もある。ただ、過剰反応か否かは医学の専門家でも判断できない状況であり、来場者やスイス国内の安全を優先した決断なのだろう。

 今回の展示会中止で、SARS(重症急性呼吸器症候群)の渦中にあった03年4月に開催された世界最大の時計・宝飾見本市「バーゼル・ワールド(BASEL WORLD)」を思い出したベテラン関係者も多いかもしれない。香港、中国、シンガポール、ベトナムの時計関連企業による展示は、そもそもバーゼルから離れたチューリヒの別会場で開催予定だったが、スイス連邦保健局の命令により開催わずか2日前に中止が決定された。それどころか見本市会場や空港でアジア人を見ると、露骨に距離を取ったり、中には罵倒してくる人もいた。見本市の主催者は多額の損害を受けたとして保健局を提訴したが、棄却された。

 スウォッチ グループは高額な出展料や旧態依然とした運営体制への不満から、19年に「バーゼル・ワールド」への出展を中止した。この決定は、“バーゼルとジュネーブ、2大見本市を舞台に新作を発表する”という、1989年から30年以上続いてきた時計業界の慣例を大きく揺るがし、見本市自体の意味や価値を問い直すきっかけとなった。日本のセイコーウオッチやカシオ計算機も「バーゼル・ワールド2020」への出展を中止した。

※もう一つは「ウオッチ&ワンダー ジュネーブ(WATCHES & WONDERS GENEVA)」(旧S.I.H.H.)

 そんなスウォッチ グループが19年から独自開催するのが「タイム・トゥ・ムーブ」だ。しかし結果は、同グループにとっても時計業界にとっても残念なものだった。新作発表の場が分散したことで情報も分散し、紙媒体は大型の時計特集を企画することが難しくなった。「スウォッチ グループが発信できた情報量は、前年の約6割にとどまる」と語る時計関係者もいるほどだ。

 4月25日から行われる「ウオッチ&ワンダー ジュネーブ」と、それに続けて30日から開催される「バーゼル・ワールド2020」も、ウイルスの拡大次第では大きな影響を受けるだろう。場合によっては、日本を含めたアジアからの出展・来場禁止や、見本市自体の中止が検討されてもおかしくない。ただし現時点の情報を総合すると新型コロナウイルスによる致死率は2〜3%で、「感染力は強いが致死率は低く、致死率が10%を超えるSARSやMERS(中東呼吸器症候群)のような対策は不要では?」という専門家も出始めている。もちろん楽観はできないが、時計業界のためにも一刻も早い収束を願う。

【エディターズ・チェック】
3日間かけてジュネーブ、ジュウ渓谷、ビエンヌ、ラ・ショー・ド・フォンの各ブランドの本社や特設会場を巡り、工場見学や新作発表を体験したプレス向けの「タイム・トゥ・ムーブ2019」に対して、「タイム・トゥ・ムーブ2020」はチューリヒの2つのビルでプレゼンテーションを行う昨年のバイヤー展にならうスタイルだった。イベントが開催された場合、国内移動の感覚でチューリヒに来られるヨーロッパからの参加者はともかく、6ブランドだけのために多大な負担を強いられる極東からの参加者からは不満や批判が起きたかもしれない。「ロンジン(LONGINES)」「ラドー(RADO)」「ハミルトン(HAMILTON)」「ティソ(TISSOT)」など、スウォッチ グループ傘下の比較的手頃なブランドは国や地域ごとに展示会やイベントを行っており、今回の中止を契機に同グループには新作発表の方法を世界規模で再考してほしい。

渋谷ヤスヒト/オフィス・ノマド代表:1962年、埼玉県生まれ。大学卒業後、徳間書店に入社。文芸編集部を経て、「グッズプレス」編集部に配属。表紙撮影で出合った「ブライトリング」の“コスモノート”を購入したことをきっかけに時計にはまり、95年からスイス2大時計フェアや時計ファクトリーの取材を開始。2002年に同社を退社し、「エスクァイア日本版」の編集者などを経てオフィス・ノマドを設立。時計ジャーナリスト、モノジャーナリスト、編集者としての顔を持つ。趣味は料理 

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