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D2Cはただの直販ではない タクラムの佐々木康裕ディレクターに聞く“その本質”とは?

 ここ数年でトレンドワードとなった “D2C(Direct to Consumer)”。かつてはスタートアップ企業が手掛けるD2Cブランドが多かったが、最近は大手企業もD2Cブランドをスタートさせるなど、大きな広がりを見せている。その一方でD2C=直販=中抜き構造(中間マージンを省く)と捉えている人もいるが、それはD2Cの一面でしかない。ではD2Cの本質とは何か。今回、ビジネス書「D2C 『世界観』と『テクノロジー』で勝つブランド戦略 」(NewsPicksパブリッシング)を1月に出版したタクラムの佐々木康裕ディレクターに話を聞いた。

WWD:まず佐々木さんが考えるD2Cの定義を教えてください。

佐々木康裕(以下、佐々木):D2Cはメーカー業であるとともに、メディア業でもあり、テック業でもあるのが特徴です。いかにデジタルを駆使して顧客とコミュニケーションを取り、エンゲージメントを高めていくかが重要で、単なる“中抜きのメーカー業”ではないということは理解しておいた方がいいですね。

WWD:最近は日本でも多くのD2Cブランドが誕生してきました。一方でただのトレンドではないかといった意見もありますが?

佐々木:そうは思いません。これからはD2Cという考え方がブランドを運営する上で基本原則になっていくと思っています。D2Cは、「デジタルでお客さまと直接つながって、意見を聞いて、求める以上のものを作る」というのが根本的な考え方です。これまでの「物を売るのがゴール」ではなく、開封体験、実際の使用方法、アフターケアなど購入後のストーリーまでを考えてお客さまと向き合うことが大切なのです。そういう考え方を持たないブランドが、中抜きのビジネスモデルだけをまねしてD2Cブランドというのは、本質的なところではD2Cとは言えない。

WWD:D2Cの強みは顧客データを収集できるという部分にあるといわれていますが、それは伝統的なブランドでもやっているのでは?

佐々木:D2Cの場合は毎日多くのフィードバックが得られるので、それをもとにすぐに改良できるのが強みです。ある意味でソフトウェア型の考え方で、製品も大きな部分は変えていなくても、細かい部分などはかなりの頻度でアップデートしているんです。そこがIT企業に近い部分で、伝統的なブランドだと時間がかかってなかなかできない。また購入動機や購入層などを知ることができるのでプロモーションに活用できたりしますし、SNS広告でも「どんな写真で、どんな時間帯、どんな内容の投稿が支持されているのか」も分かるので、データに基づいてしっかりとマーケティングができます。

WWD:日本では「GU」などはかなり顧客データを活用していますが?

佐々木:そういう意味では「GU」や「ユニクロ」はかなりD2Cに近い考え方のブランドだと思います。

WWD:少しうがった見方をすると、D2Cブランドは物のよさよりもデジタルマーケティング力で差がつくのではと思うのですが?

佐々木:「この時間に、こういう投稿をすると伸びる」みたいなことが分かるので、それをハックするだけで実際に数字が上がってしまうという現象は起きています。ただそれは他のブランドもすぐにまねするので、長続きはしない。もともとD2CブランドはSNSを使って安いコストで高いエンゲージメントを獲得して顧客化していくという流れが一般的でしたが、最近はSNSの広告費が高騰し、そうしたデジタルだけでの戦略では長続きしなくなってきています。そのため、今はD2Cでもリアル店舗を持つことが重要になってきていて、店舗に来た人を顧客にするという流れになっています。だからこそ品質がよくないと売れないし、生き残っていけないんです。

WWD:海外ではD2Cのユニコーン化(企業価値評価額が10億ドル以上で、未上場ベンチャー企業)が話題となっていますが、一方で「過大評価なのでは」という意見もあります。

佐々木:たしかにアメリカでは投資家から注目が集まって大量の資金が集まっている分、過大評価されているD2C企業もいくつかは存在すると思います。まだまだブームとして取り上げられることも多いので、それが落ち着いたらきちんとした評価になるのではないかと思います。ただ、だからといってD2Cというビジネスモデルが有効であることには変わりはありません。

D2Cはビジネスモデルであるとともにステージでもある

WWD:佐々木さんの著書では「D2Cブランドはある程度の規模になったら、従来のマスブランド的なアプローチになる」という趣旨のことを書いていましたが、そうするとこれまでのマスブランドと変わらなくなるのでは?

佐々木:D2Cはビジネスモデルであるとともに、ある意味では “早期に顧客を獲得して売り上げを伸ばしていく”というステージの名前でもあると思います。一定の規模、日本だと20~30億円ほどまでくると、さらなる成長を目指して店舗展開やテレビCM、小売りへの卸しといったマスへのアプローチが必要になってきます。直営店を増やして多店舗化していくことが成長にもつながっていきます。海外ではD2Cスタートアップでも将来的にどう小売りへ卸していくか、その戦略がないと投資が受けられないという話も聞きます。そのためスタートアップ企業はD2Cというステージからいかに早く抜け出して、マスブランドへ成長していくかも考えなくてはなりません。

WWD:そうなると既存ブランドと同じようになってしまい、お客さまが離れていくのではないですか?

佐々木:「知る人ぞ知る」みたいなニッチなブランドが好きな人は離れていくかもしれませんが、基本的にD2Cというのは“世界観”と“お客さまとのコミュニケーション”を大事にしているので、ブランドに対してのエンゲージメントが高く、規模が大きくなったから離れるというのは少ないのではないでしょうか。ただそれによって今までよりも質が下がるなどがあるともちろんお客さまは離れていくと思いますが。

WWD:もともと直販でやっていたものを卸すとなると、その分利益率も悪くなるのでは?

佐々木:D2Cブランドにとってはそれがすごくジレンマいなっています。アメリカでは、顧客データを共有するかわりに、流通側に渡すマージンをすごく低くするなどといった特殊な契約を結んでいるブランドもあると聞きます。あとはスケールメリットで、1個あたりの利益は減っても、数は売れるので全体としての利益は上がるという考え方ですね。

WWD:D2Cというとスタートアップ企業が行うビジネスというイメージでしたが、最近は大手企業でもやり始めています。

佐々木:たしかにナイキ(NIKE)やP&G、ウォルマート(WALMART)など大手企業もD2Cをやり始めていますね。それはD2Cというのが早期に顧客を獲得でき、かつ密度の高い顧客エンゲージメントを獲得できるビジネスモデルだからで、大手でもスタートアップでも変わらないと思います。ただ大手の場合だと、自社でD2Cブランドを立ち上げる以外にも、買収や提携といった選択肢もあります。

WWD:アップル(APPLE)は究極のD2Cだといわれていますが、どう思われますか?

佐々木:まさにそうですね。あの規模であれほど高い利益率はすごい。基本的には直営店か、かなり管理されたショップインショップでどこでも世界観が統一されている。さすがとしか言えないですね。

WWD:日本で注目しているD2Cブランドはどこですか?

佐々木:オーダースーツのD2Cブランド「ファブリック トウキョウ(FABRIC TOKYO)」です。代表の森(雄一郎)さんのD2Cビジネスへの解像度の高さ、資金調達額、規模感などは日本ではずば抜けているなと思います。「ファブリック トウキョウ」が成功すれば、D2Cのビジネスモデルがさらに注目されるので、とても期待しています。

WWD:日本でもさらにD2Cブランドは増えていくと思いますか?

佐々木:そうですね。先ほども言ったように、D2Cはブランドを始めるハードルを下げつつ、早期に顧客を獲得できるビジネスモデルなので、今後2~3年で今の何倍ものスタートアップが生まれると思います。