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パリコレで大活躍した電動キックボードは日本でも広がる? 新たな交通手段「ライム」を体験

 日本からパリに来た知人の多くが「電動キックボードがパリでこんなに流行っているなんて!」と驚いたように口にします。街中ではビジネスマンが通勤時の足として使用し、旅行者のカップルは観光名所周辺を走らせたり、10代の若者は風をなびかせ飛ばしていたりと、とにかく利用者が増えています。2019年9月のパリ・ファッション・ウィーク中には、会場から会場へと電動キックボードで移動する業界人の姿も多く見かけました。20年1月のパリ・メンズ・ファッション・ウィークやオートクチュール・ウイーク中は大規模な鉄道ストが予想されるため、移動手段として検討している人も多いのではないでしょうか。

 フランスで17年に導入された電動キックボードのシェアサービスは、パリジャンの交通手段を劇的に変えました。電動キックボードよりも先に普及していた自転車と電動自動車のシェアサービスは滑り出しこそ良かったものの、回収の手間やステーションの管理維持、代替えコストの高額さ(支出は自治体の税金)で批判を浴び、一気に低迷。そこに、電動キックボード事業を展開するアメリカのスタートアップ企業「ライム(LIME)」が登場し、利用者が飛躍的に拡大したのです。その「ライム」は日本市場への参入を2019年に明言し、9月には福岡県で実証実験を行いました。同年11月には自民党議員による電動キックボードの国内導入を話し合う議会が開かれるなど、国も前向きな姿勢を見せています。とはいえ、他国で普及しているからといって交通事情の異なる日本でも同じように広まるとは限りません。今回は筆者が、パリで電動キックボードの需要が高い理由を探るべく、実際に体験してみました。一輪車は得意なのに自転車は上手く乗りこなせない変なバランス感覚の持ち主ですが(笑)、すぐに乗りこなすことができ、パリの街をスイスイと周遊してきました!

渋谷〜新宿の距離を18分で移動

 スタート地点は6区サン・ジェルマン・デ・プレのサン・シュルピス教会。ノートルダム大聖堂に続くパリで2番目に大きな教会で、映画「ダ・ヴィンチ・コード」の舞台になったことでも有名です。ちなみに「ロエベ(LOEWE)」オフィスは教会の目の前にあるビルで、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)がオフィスから見えるサン・シュルピス教会の美しい眺めをインスタグラムによくアップしています。ここから目指すのは百貨店ギャラリー・ラファイエット(GALERIE LAFAYETTE)シャンゼリゼ通り店。グーグルマップで検索すると他の交通手段同様に電動キックボードのルート、所要時間などが表示されます。距離にして3.9km、時速10〜15kmで所要時間は18分でした。およそ渋谷のスクランブル交差点から伊勢丹新宿本店までの距離と同じくらい。かかった費用は4ユーロ(約480円)で、同じルートでタクシーを利用すると約15ユーロ(約1800円)、地下鉄はパリ市内が一律1.9ユーロ(約230円)です。地下鉄の方が料金は安いものの、一度乗り換えを挟んで所要時間約20分に加え、地下道の階段の登り降り(パリはエレベーター・エスカーレーターが東京よりも少ない)を考慮すると電動キックボードの方がかなり楽に感じられました。

 次の目的地は、クリスマスマーケットが出ているヴァンドーム広場。ギャラリー・ラファイエットのシャンゼリゼ通り店から2.3kmの距離を11分で3ユーロ(約360円)でした。東京だと恵比寿駅から表参道駅へと同等の距離で、電車を利用した場合はJR山手線と東京メトロを乗り継いで約10分、304円です。所要時間はほぼ変わりませんが、電動キックボードだと電車の混雑や乗り換えを避けられます。

交通が不安定な海外では活躍

 実際に体験してみて、筆者個人としてはメリットを大きく感じました。パリでは日本のように時間通りに電車はまず来ませんし、予告なく突然途中下車を強制されたりと、思いがけないことが結構あります。それがパリ生活の楽しみの一つだったりもしますが、予定通りに目的地へと行けずいら立つこともしばしば。電動キックボードだと自分のペースで移動できるうえに、たとえ通行止めの道路があってルートを外れたとしても電車ほどの大きな遅れにはなりにくいと思います。また、パリの街は一方通行の道がとても多く渋滞が日常的なので、立ち往生することなくスイスイと進められる電動キックボードの利便性は想像できますよね。ちょうど体験を行なった時期は、フランスの公共交通機関がストライキを起こしている期間だったため電車もバスも完全にストップしており、タクシーを利用すると通常の3〜4倍の価格でした。フランスのストライキ文化や交通、道路事情を考慮して、電動キックボードの需要が高まるのは納得ではないでしょうか。

多発する事故が最大の課題

 電動キックボードはいいことづくめのように見えますが、日常的に利用しているというヘビーユーザーの友人は、デメリットも教えてくれました。「アプリを使って『ライム』を見つけても、本体のバッテリー切れが多く、探し続けてかなり歩いて時間を無駄にしてしまうことが最大の欠点。他社と比べて利用者が多いためか、『ライム』は特にバッテリー切れが多発する」。また、利用後はアプリで本体のロックを掛けて終了を知らせるのですが、スマートフォンのバッテリーが切れた場合はロックが掛けられないため、料金が上がり続けてしまうといった事態も経験したそう。

 さらに、昨今フランスで問題になっているのは多発する事故です。パリで電動キックボードのシェアサービスが開始した当初は、法整備が整っていないため無法状態でした。車や歩行者との事故が多発し、昨年には80歳の老人が電動キックボードにひかれて死亡する事故まで発生しました。これを受けて9月には、歩道を走行した場合最高で135ユーロ(約1万6200円)、時速25km以上で走行すると1500ユーロ(約18万円)の罰金と新たな規制が敷かれたのです。基本は自転車レーンを走行することが義務化され、現在事故件数が減少したのか精査中といったところ。

 日本では原動機付自転車(いわゆる原付)に該当する電動キックボードに対して、前照灯や方向指示器の設置、ヘルメット着用などの法規制について議論がなされています。また、自転車レーンがまだまだ少ない日本では、走行するレーンが歩道か車道かで混乱を招きそうです。日本でのサービスがもしこの先開始されるならば、他国の事故事例を可能な限りたくさん参照して最大限の事故予防に務めてほしいものです。メリットとデメリットを踏まえて、みなさんは日本で電動キックボードを利用したいと思いますか?

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける