Photo by Courtesy Photo (c) Fairchild Fashion Media
2006年に「ザ ロウ(THE ROW)」を設立したメアリー=ケイトとアシュリー・オルセン姉妹(28)は今年、CFDAアワードでマーク・ジェイコブスやマイケル・コースを抑え、2度目のウィメンズウエア・デザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。昨年はブランド初のショップをロサンゼルスにオープンし、来年にはニューヨーク出店を控える。テレビドラマの子役出身セレブとして、ブランドのローンチ以前から世界的な知名度があった2人だが、ファッション業界に進出するセレブが多い中、本格的なラグジュアリー・ブランドとしてビジネスを確立したセレブデザイナーは2人以外にいるだろうか。設立10周年を目前に、「ザ ロウ」が年商60億円規模のビジネスに育つまでの道のりを振り返った。
2015-16年秋冬コレクションから
テーラーの聖地として知られるロンドンのサヴィル・ローにちなんで2人が名付けた「ザ ロウ」のビジネスは、1枚のTシャツから始まった。“ラグジュアリーなベーシックアイテム”がもてはやされるようになる前、上質なベーシックウエアの必要性にいち早く目をつけ、“完璧な生地とフィット感の”と2人が表現するTシャツをデザインした。もともとはチャリティーの一環で、2人が個人的に着るために制作しただけだったという。「『自分たちが着たいから』という、そんな単純で純粋な気持ちからスタートしたプロジェクトだったけれど、一歩一歩進んでいくうちに気付いたらここまで来ていた。こんな本格的なビジネスになるなんて想像もしなかった。今思い返せば、自分たちの商品を見せるために頻繁に外に出たり、初対面の人たちに会ったり、なぜあそこまで積極的になれたのかも分からない」とアシュリーは話す。
「ザ ロウ」は現在、世界の37カ国の164店舗に並ぶ。業界筋予測では、ブランドの年間売り上げは5000万ドル(約61億5000万円)だ。昨年5月、「ザ ロウ」は初のショップをロサンゼルスのメルローズ・プレイスで披露した。2店目の旗艦店は来年、ニューヨークのアッパー・イースト・サイドにオープンする。約60人の従業員を抱え、デザインチームは2人を含め7人体制でコレクションを手掛けている。Tシャツから始まったブランドは今、ジャケットやレザーパンツなどのベーシックな品ぞろえで、クラシックやミニマルを土台にボヘミアンな要素を足した充実のコレクションに成長している。商品の大半はアメリカ国内で生産しており、アメリカ市場が売り上げのほとんどを占める。2011年にパリにオフイスを設け、ヨーロッパのビジネスもじっくり育てているところだそうだ。2人は今後、アクセサリーの強化を図るという。現在すでに人気が高いバッグラインに加えシューズを発表する計画を明かし、「シューズの方向性を定めるまでに3年間かかった」とメアリー=ケイト。
次ページ:有名人から新人デザイナーへの転身▶
Photo by Courtesy Photo (c) Fairchild Fashion Media
有名人から新人デザイナーへの転身
2015-16年秋冬コレクションから
経営者兼デザイナーとして真剣にビジネスを拡大していくにあたり、有名セレブとしてのバックグラウンドが障害になったかどうかを問われるとアシュリーは、「もちろん。障害になったのは言うまでもない。それでも私たちは一生懸命働いてきたし、努力の結果、女性のためのすてきな服を作りたいという目標はかなった」と話す。
マス向けのライセンス商品を展開する、数億ドル規模のビジネスを持つデュアルスター・エンターテインメント・グループを所有しながらも、ラグジュアリー市場での経験は皆無だった2人は、若手デザイナーとして下積みの時代はあったようだ。「ラグジュアリーでは作り手と売り手の付き合いや信頼関係が必須」と2人は語った。07年秋冬コレクションをパリでセールスした際、アパートを借りて小規模な受注会を行ったという。「ラックを出して、その場で自分たちの商品を受注するというのは初めての経験だった。やってきたバイヤーたちはラックに並んだ服を見て『じゃあ、一点ずつ説明して』って言うの。終わると『次のシーズンもパリにいるなら、またやりましょう』って。私たちがコレクションの発表を毎シーズン続け、遅れずに納品できるかはもちろん、シーズンを追うごとにクリエイションおよび商品自体が進化するかどうかを試されていたのだと思う」。自信があった商品が予想ほど売れなかったことはあるが、コレクションが失敗に終わったことは一度もないという。
経営者としてのスタンス
「デザインするうえでも計算は怠らない。型数をあらかじめ設定して、それに合わせて商品を完成させていく。予算も頭に置いている」とメアリー=ケイト。「ザ ロウ」はまた、広告キャンペーンをいまだに行ったことがない。「興味がないわけではない。だが、予算についても考えるし、ブランドの顧客層に直接響くのか、誰の目に入るのかといったことを考えなければいけない。ビジネスではお金をかけた分のリターンがあると考えたいけど、広告キャンペーンはそういったことが読めないから踏み出せずにいる」と話す。
これまで、広告戦略なしでブランドを成長させてきた2人だが、セレブの立場を生かしたマーケティングは避けてきた。服のラベルにもタグではなく細いチェーンを採用し、自分たちの名をあえて表に出すようなこともなかった。「口コミだけでビジネスが成長したから分かったの。メアリー=ケイトとアシュリー・オルセン姉妹が手掛ける「ザ ロウ」の2015-16年秋冬コレクションから商品が良ければその背景にあるものが何であっても売れるって」と話す。ダニエラ・ヴィラーレ=バーニーズニューヨークチーフ・オペレイティング・オフィサーは、「『ザ ロウ』は静かに、でも確実に強固なビジネスを築いてきた。国際的に販路を拡大しているのに加え、レザー商品とシューズによってブランドとして新しいレベルに到達するだろう。フレグランスやビューティに進出しても成功すると見ている」とコメントした。
2人はあくまでマイペースだ。無理のないかたちで成長していきたいという。「私たちの会社だから、営業目標やビジネス展開の仕方について指示されることも、プレッシャーをかけられることもない。次のステップに進むためのプレッシャーは全て、私たち自身が生み出すもの」とアシュリー。