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20年で売り上げは17倍 “マジックソープ”の「ドクターブロナー」が語る思想、認証、透明性

PROFILE: マイケル・ブロナー/ドクターブロナー社長

マイケル・ブロナー/ドクターブロナー社長
PROFILE: 1975年生まれ、ロサンゼルス出身。創業者エマニュエル・ブロナーの孫に当たる、5代目の石けん職人。ブラウン大学卒業後、世界各地を旅し、日本の大阪で3年間英語教師として活動した経験を持つ。弟のデイビッドとともに「ドクターブロナー」の海外展開を推進し、日本や韓国を含む国際市場の成長を支えてきた。慈善活動家、社会活動家としても知られ、フェアトレード、オーガニック基準、動物福祉、海洋保護などの社会課題にも積極的に取り組む

“マジックソープ”の名で知られる米国発のオーガニックボディーケアブランド「ドクターブロナー(DR.BRONNER'S)」は、1948年の創業以来、ソープを通じて平和や社会、環境に対するメッセージを発信してきた。本国のアメリカではヘルスフードストアを起点に支持を広げ、現在は「ターゲット(TARGET)」「ウォルマート(WALMART)」「アマゾン(AMAZON)」「コストコ(COSTCO)」など、マス市場に販路を広げている。

販路が広がるほど、創業以来の思想をどう伝えるかが問われる。広告に大きく頼らず、口コミを起点に成長してきた同社は、商品作りや企業運営、認証、情報開示を通じてブランドの考え方を示してきた。コロナ禍以降6年ぶりに来日したマイケル・ブロナー社長に、ブランドの現在地とマス市場で思想を伝える難しさ、信頼を築くための透明性について聞いた。

WWD:米国ではヘルスフードストアからマス市場に販路を広げてきた。ブランドの成長をどう見ているか。

マイケル・ブロナー社長(以下、マイケル):われわれの成長は米国社会の変化とともにある。2000年前後からヘルスフード系の小売店が市場に広がるにつれ、“マジックソープ”を代表とする「ドクターブロナー」の商品も浸透していった。08年頃からは、ヘルス系やオーガニック系に限らず、「ターゲット」のような一般的なスーパーにも進出した。近年は「ウォルマート」や「アマゾン」、「コストコ」などにも展開し、オーガニックに関心の高い消費者だけでなく、マスの消費者にも裾野を広げている。こうした販路拡大を背景に、米国における売上高は2005年の1330万ドル(21億4130万円)から2025年には2億2700万ドル(365億4700万円)へと拡大し、過去20年間で約17倍に成長した。

私が00年に社長を引き継いだ当時は小さな組織だった。兄弟と母とともに小さなオフィスで1台のコンピューターを共有しながら働いていた。当時は1人が何役も担い、カスタマーサービス、商品開発、ファイナンス、ITなど、さまざまな業務を行っていた。成長するにつれて各分野の専門家が加わり、組織としてシステム化されていったが、今でも家族のようなあり方は大切にしている。

WWD:広告に大きく頼らず成長してきた背景には何があったのか。

マイケル:われわれにとってマーケティングとは広告枠を買って掲載することではない。人と人の直接のコミュニケーションを大切にしており、消費者がどう受け取り、どう感じて買ってくれるかに集中している。成長を支えてくれたのは口コミだ。最初は小さなオーガニック系の家族経営の商店から取り扱いが始まり、「これはすごくいい」という声が広がった。その広がりが、市場におけるサステナビリティ意識の高まりと合致し、さらに拡大していった。

アメリカの市場は大きく変わってきているが、自分たちの根幹にあるポリシーは変えていない。商品自体も設立当初から大きく変わっていない。大切なのは、そのポリシーを守りながらどのように知ってもらうかという仕組みづくりである。

WWD:「ドクターブロナー」にとってソープはどのような役割を担ってきたのか。

マイケル:最も重要なの商品が良いものであること。祖父が平和について話していたころ、人々に聞いてもらうためにソープを渡していた。しかし、人々はソープを持って帰るだけで話を聞いてくれなかった。そこで、祖父はメッセージをボトルに載せるようになった。最初から、ソープ、メッセージ、アクティビズム、サステナビリティは一緒だった。それは今も変わっていない。

商品を通じて、環境に良いこと、オーガニックであること、フェアトレードであること、生分解性があることなどを知ってもらう機会になる。必ずしも、最初にメッセージを知ってから買ってもらうという順番である必要はない。

マス市場で問われるメッセージの届け方

WWD:「ウォルマート」のようなマス市場への進出には迷いもあったのか。

マイケル:「ウォルマート」で販売を始める際には、社内でも迷いがあった。大量に仕入れて大量に売る小売でブランドとして正しいメッセージが伝わるかどうかを心配していた。ただし、実際に販売してみると、商品を購入することで、消費者は知らないうちに世界を良くするための活動に参加している形になると気づいた。当社はフェアトレードやチャリティーなどの活動を行っており、消費者が商品を購入することで、その活動の一部を支えることになる。それを知ってもらえれば、購入者にとっても満足感につながると考えている。ただ、販売する側として1つのチャネルだけに依存しすぎないことも重要だと考えている。

WWD:商品を通じて思想を伝えるために、企業運営では何を大切にしているのか。

マイケル:われわれの会社は世界で良いことをするためにビジネスをしている。そのための1つの方法として、従業員にとって良い環境をつくること、サプライヤーにとって良い関係を築くこと、環境に配慮すること、そしてチャリティーに多くのお金を使うことがある。

原材料はオーガニックで、原材料を生産している農場から仕入れる際には、安く買いたたくのではなく、通常の金額に上乗せして支払う取り組みをしている。また、売り上げ1ドルごとに5セントを寄付している。これを可能にしている理由の1つが社長や役員の給与をフルタイム正社員の中で最も低い給与の5倍以内に抑えていることだ。その分をチャリティーや寄付に回すことができている。

WWD:環境面では、リサイクルやリフィルにどう取り組んでいるのか。

マイケル:アメリカでは、大きなゴミ箱の回収場所に何でも入れれば、誰かが魔法のように分別してリサイクルしてくれると思っている人も多い。しかし、実際にはそうではない。分別を行う業者や仕組みについても知ってもらう必要がある。

当社では、通常のプラスチックボトルに100%リサイクルプラスチックを使用している。それ以外にも、店頭に詰め替えステーションを設けている。一度ボトルを購入した消費者は、使い切った後に自宅からボトルを持参し、リフィルステーションで中身を詰め替えて持ち帰ることができる。ボトルは壊れるまで使うことができる。

リフィルステーションのタンクも使い捨てではない。空になったら当社に戻し、洗浄して再びソープを入れるサイクルにしている。プラスチックをいかに少なくするかという取り組みをリサイクルやリフィルを通じて行っている。

信頼に必要なのは透明性

WWD:サステナブルやエシカルを掲げるブランドが増える中で、消費者から信頼を得るために重要なことは何か。

マイケル:われわれは常に一歩ずつ取り組みを進めてきた。03年にはオーガニック認証を取得し、07年からはフェアトレードに力を入れている。農場の人たちの雇用だけでなく、農法についても一緒に学んでいる。さらに、農場で働く人たちの家族や地域社会にも影響があるため、コミュニティーへの取り組みにも力を入れている。ここ数年は、リジェネラティブ・オーガニックにも取り組む。オーガニック、フェアトレード、アニマルウェルフェアなど、厳しい審査を含む認証の仕組みに関わっている。

信頼してもらうために大切なのは透明性だ。公式サイトでは、取り組みや売り上げの規模、寄付、仕入れなどについてレポートの形で開示している。われわれは完璧ではない。試行錯誤をしながら、消費者に嘘や偽りなく知ってもらうことを大切にしている。

WWD:25年にBコープ認証を更新しない方針も示した。Bコープは新基準への移行を進め、従来の点数制を廃止するなど制度の見直しも進んでいるが、認証制度とはどのように向き合っているのか。

マイケル:当社は、オーガニック、非遺伝子組み換え、EWG、フェアトレード、リジェネラティブ・オーガニック、クルエルティフリー、ヴィーガン、コーシャなど、複数の認証を取得している。それらをパッケージなどで示すことで、安全性や取り組みを消費者に伝えている。

一方で、認証制度そのものに対する問題意識もある。従来のBコープは、ガバナンス、従業員、コミュニティー、環境、顧客という評価領域を点数化し、総合点で認証が判断される仕組みだった。つまり、ある領域で高い点数を取れば、別の領域に課題があっても、総合点として基準を満たす可能性があった。当社は、総合点だけでなく、各領域で一定以上の水準を求めるべきだと考えてきた。すべての領域がバランスよく引き上げられていく仕組みの方が望ましい。

WWD:25年春には企業の協働体制「パーパス・プレッジ(Purpose Pledge)」の創設メンバーにもなった。

マイケル:「パーパス・プレッジ」は、各企業が3年間の計画を立て、各領域でどのように進歩していくのかを開示する仕組みだ。観点は、ガバナンス、商品品質、透明性、サプライチェーン、賃金、インクルージョン、気候変動への対応、サーキュラリティーやゼロウェイスト、知識共有などがある。こうした課題は1社だけで解決できるものではない。複数の企業が共に取り組み、課題や解決策を共有していくことが重要だ。

多くの企業は、良い理念や倫理を持って始まっても、大企業に買収されることで目的を失ってしまうことがある。大企業が小さな企業を買収し、自社の見え方を良くしたり、利益を得たりすることはある。しかし、その過程で本来のミッションが失われる場合もある。われわれはただ、お金を稼ぐためだけに事業をしているわけではない。企業として利益を得て、それをどのように還元するかを大切にしている。

WWD:これらの活動を通して、消費者に何を伝えたいのか。

マイケル:私の希望は、人々が希望を持つことだ。一般市民は、自分には力がないと感じ、何をしてよいか分からないことが多い。しかし、一人の力が小さくても、それが多くの人に広がれば大きな力になる。人々が小さな習慣を変えることでも、大きな変化につながる。自分たちの声を使い、世界のために声を上げることができる。自分のお金を使って、良い活動をしている企業を支援することもできる。

われわれは、その第一歩の力を知ってもらうための活動を続けていく。まず知ってもらい、そこから一緒に進んでいく。そして、多くの人が希望を持って明日に向かって進んでいけるようにしたい。

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