PROFILE: 黒川想矢/俳優
映画「怪物」「国宝」などの話題作で存在感を放ってきた俳優・黒川想矢が、日韓合作映画「3ミリの恋」(11月6日公開)で主演を務めた。舞台は、海を隔てて向かい合う佐賀県唐津市と韓国・釜山。釣り好きの高校生タツヒコ(黒川)は、釜山からやってきた留学生ユンスル(キム・ジアン)と出会い、少しずつ惹かれ合っていく。ユンスルはなぜ、留学先に唐津を選んだのか? そこには、日本と韓国を結ぶある一枚の写真が関係していたしかし、ある出来事をきっかけにユンスルが突然帰国。彼女にもう一度会うため、タツヒコは海を越えることを決意する——。
監督・脚本を務めたのは、本作が長編商業映画デビューとなる在日韓国人3世のチョン・ジニュン(全辰隆)。日本と韓国の俳優・スタッフが集結した撮影現場で、黒川は何を感じ、何を学んだのか。言葉の通じない相手との芝居から、自身の演技観、俳優としてのこれからまで、じっくりと話を聞いた。
佐賀弁の高校生役を
演じる上で意識したこと
——まず、脚本を初めて読んだとき、本作にどのような魅力を感じましたか。
黒川想矢(以下、黒川):オファーと同時に脚本をいただいたんです。僕にとって、海外でお芝居をしたり、海外のスタッフやキャストの方々と一緒に映画を作ったりすることはずっと夢だったので、なんだか幻のような感覚でした。ただ、当時の僕にとって韓国は結構遠い存在だったんです。なので、少し不安もありましたが、楽しみだなという気持ちも大きかったです。
——今回演じたタツヒコは、唐津で暮らす釣り好きの高校生です。彼をどのような人物だと捉えて演技に挑んだのでしょうか。
黒川:僕はあまり、役がどういう人なのかを最初から決めて作品に入ることがないんです。演じていく中で「この人はこういうことを感じるんだ」「こういうことを不思議に思うんだ」と、その場で気づくことが多くて。ただ、最初に監督とお話ししたときに、点が目標で線がそこに至る筋道だとすると、タツヒコは先に点を決めてから線を作っていくタイプだと聞いたんです。
僕はどちらかというと、その場で感じたことや経験を一つひとつ積み重ねていくうちに、それが線になっていく感覚が強いので、そこが自分とは違うなと思いました。例えば、タツヒコは「ユンスルに会いに行く」という目標を先に決めてしまうけれど、そのためにどうするかは全然考えていない。僕はどちらかというと、まずやってみて、そこから何かわかっていくことの方が多い気がするんです。
——今回は佐賀弁にも挑戦されていますが、練習は大変ではありませんでしたか?
黒川:助監督に満岡克弥さんという佐賀県出身の方がおられましたし、クラスメイト役の皆さんも現地の高校生だったんです。以前「国宝」に出演させてもらったときにも、長崎弁と関西弁を使ったんですけど、自分では結構うまくできていると思っていたんです。でも現場に入ってみると、感情が出たときに標準語が出てしまうことがあって。
だから今回は単に方言の音を覚えるのではなくて、アドリブでも自然と方言が出てくるようにしたいと思ったんです。それで撮影前から撮影中にかけて、満岡さんたちとずっと方言で話すようにしていました。アドリブのたびに「これは方言でどう言うんですか?」と聞いたりしながら。ただ、初めて自然に方言が出てきたのが釜山での撮影に入ってからだったので、ちょっと遅かったなという気持ちもあります(笑)。でも、僕にはそういう覚え方の方が合っていたんだと思います。
キム・ジアンとの共演
——ユンスル役のキム・ジアンさんとは、撮影前から交流されていたそうですね。
黒川:撮影前に一度、オンラインで顔合わせをしたんです。でも、お互いに相手の言葉を話せなかったので、日本語も韓国語も話せる監督に通訳していただきながら。焼き芋が好きだという話をしたんですけど、それくらいの会話しかできなくて。「大丈夫かな」と思っていました(笑)。撮影前はそれだけでしたね。
——一緒にお芝居をしてみていかがでしたか?
黒川:お互いに相手の言葉がわからないので、セリフを音として覚えて話すことになるんです。だから、ただ言葉だけが飛び交って、気持ちのやり取りができなくなるんじゃないかと心配していました。バレーボールを投げたら野球のボールが返ってくるような、そんな違和感が生まれるんじゃないかと。
でも、ジアンさんは相手のことを感じ取りながらお芝居をされる方だったんです。日本語でお芝居をしていても、言葉だけが飛び交って目と目で会話ができていないことってあると思うんです。でも今回はそういうことがなくて。むしろ言語が違ったからこそ、相手を感じることを、もっと大切にできたのかもしれません。本当に素敵なお芝居をされる方だと思いましたし、僕自身もたくさん刺激を受けながら、お互いに影響し合って演じられたと思います。
——映画ではジアンさんが自然に日本語を話しているので、てっきり日本語が堪能な方なのかと思っていました。日本語のセリフは音として覚えていたんですね。
黒川:びっくりですよね。だからどこで間を取るのかは難しかったです。お互いの気持ちは通じ合っていても、どうしてもズレが生まれてしまうことがあって。まだセリフを言い終わっていないのに、相手のセリフが返ってきてしまうこともあるので、お互いに相手のセリフをしっかり覚えておく必要がありました。
——黒川さんも韓国語でのセリフがありましたが、使い慣れていない言語で感情を表現することに難しさはありませんでしたか。
黒川:きっとジアンさんの方が大変だったと思うんですが、意外と言葉はあまり重要じゃない気がするんです。少なくとも演技に関しては。もちろん、コミュニケーションを取って、仲良くなっていくためには言語が大切なので、もっと勉強したいですし、勉強しなきゃいけないとも思いました。
でも、お芝居をする上で、言語が違うから難しいと感じたことはあまりなかったんです。それが韓国だったからというのもあるかもしれません。アメリカやヨーロッパに行ったら、また変わってくるかもしれない。
チョン監督は日本語も韓国語も話せますし、ソウル大学でスペイン語を専攻されていたんです。いろいろな言語を話せることが本当にかっこいいなと思いますし、監督を見ていると、自分はまだまだ未熟だなと改めて感じます。
唐津と釜山での撮影
——本作では唐津の海や街並みが美しく映し出されています。実際に撮影してみて、どんな魅力を感じましたか。
黒川:唐津ってすごく明るいんですよ。街の雰囲気もそうですし、日が長いらしくて。撮影で朝早くから夜遅くまでいることもあったんですけど、ずっと明るい感じがして、不思議な場所だなと思いました。
それに、海外からいらっしゃっている方も結構いて、釜山からもすごく近いんですよね。何より、人がすごく優しかったです。休みの日に中華料理屋さんのようなお店に行って、冷やし中華を食べていたら、隣に座っていたお客さんや、お店の方とすごく仲良くなったんです。また唐津に来るときは、時間があったら会えたらいいね、なんて話をしました。本当にフレンドリーな方々が多くて、素敵な場所だなと思いました。普段なかなかそういう経験をすることがないので、すごく良い時間でしたね。
——劇中には日本から釜山に向かうフェリーも登場しますが、実際にフェリーで移動したんですか?
黒川:そうですね。フェリーで移動しながら、船内でも撮影をしていました。釜山に着くときも、これから韓国での撮影が始まるんだという自分自身の気持ちと、タツヒコの不安な気持ちが重なって。僕自身も旅をしているような気持ちになりました。
——釜山での撮影はいかがでしたか。
黒川:釜山は映画祭で2回行ったことがあったんですけど、そのときはあまりゆっくり過ごす時間がなかったんです。今回は休みの日にショッピングモールに行ったり、ジアンさんにもいろいろなところに連れていってもらったりして、すごく嬉しかったです。ユッケを食べたりもしました。
——食べ物といえば劇中、釜山で食べた冷麺の味はいかがでしたか。
黒川:めっちゃ美味しかったです。「チンチャ マシッソヨ!(韓国語で本当に美味しいです)」でした。この映画を観て、本場の冷麺を食べたくなってくれたら嬉しいですね。
——日本と韓国では撮影現場の働き方も違うと聞きますが、そうした違いは感じましたか?
黒川:感じましたね。今回参加した韓国での撮影では、テストをしなかったんです。日本ではテストを重ねながらお芝居を固めていくことが結構あると思うんですけど、段取りを確認したら、すぐ本番に移るような感じでした。
それから、日本ではお弁当の文化が強い印象があります。移動しながらご飯を食べることもありますし。でも、韓国では、一度撮影を止めて、みんなでご飯を食べに行くことが多かったです。
——温かい食事をみんなで囲むことで、現場の雰囲気も変わりそうですね。
黒川:そうなんです。めちゃくちゃ嬉しかったです。普段あまり話す機会のない照明スタッフの方ともお話しできたりして。温かいご飯を一緒に食べることで、みんなとの距離が3ミリ縮まったような感じがしました(笑)。
チョン監督の演出
——チョン監督はこれまでにも日韓を題材に作品を撮られてきました。今回、監督から作品が生まれた経緯などを聞く機会はありましたか?
黒川:そうですね。監督ご自身の経験が作品に深く関わっているそうで、ご家族のお話や、この作品が生まれた経緯についても伺いました。監督のお話を聞いて、一本の映画が完成し、観客の方々に見ていただけるということは、本当に奇跡のようなことなんだなと改めて感じました。
——撮影現場では、どのような演出をされる監督でしたか?
黒川:言葉やシナリオにとらわれず、自分が感じたことを大切にしていいよと言ってくださったんです。なので、すごくやりやすかったですし、僕自身も映画作りに参加できたような気持ちになれたんです。それが嬉しかったですね。それから、僕自身が緊張しているときも、「その感情もタツヒコと重なっているよ」と声をかけてくださって。すごく安心できました。
——黒川さんはこれまで是枝裕和監督や李相日監督などさまざまな監督とご一緒されていますが、チョン監督は比較的年齢も近く接し方も違ったのではないかと思います。現場で印象に残っていることはありますか?
黒川:劇中で僕が海に飛び込むシーンがあるじゃないですか。撮影が終わってホテルに戻ったとき、海の目の前にあるホテルだったので、ふと海を見たら、チョン監督が一人で海に飛び込んでいたんです。「何をやっているんですか?」と聞いたら、「ちょっとイメージしていて」と言っていて。そのシーンの撮影が終わった後も、なぜかまた海に飛び込んでいたんです。本当に面白くて、不思議な方だなと思いました。
また、すごく優しい方でもあって。ご自身のいろいろな経験も話してくださるんです。そういうお話を聞けるのが嬉しかったですし、今まで出会ったことのない大人だなと思いました。
——黒川さんご自身が、特にこだわった場面はありますか。
黒川:フェリーで叫ぶシーンですね。あれは本当に移動しながら撮影していたので、時間に余裕がなかったんです。焦りながら撮影していたので、どうしてもそのことばかり考えてしまって、お芝居に集中できなかったんです。もう片付け始めていたんですけど、もう一度挑戦したいと思って、相談しました。
——完成した作品をご自身でご覧になって、いかがでしたか。
黒川:やはり恥ずかしいですよね。
——ご自身が出演された作品は、よくご覧になるんですか。
黒川:「怪物」は、もう恥ずかしくて見られないんですけど、「国宝」は結構何回か見ました。友達とみんなで一列に並んで見たりして。5回くらい見た気がします。「3ミリの恋」も2回くらい見ました。一回はみんなで試写を見て、その後、取材があったので、オンライン試写でもう一回見ました。
俳優の面白さは?
——「怪物」をきっかけに演技の面白さを知ったとお話しされていましたが、さまざまな作品を経験した今、俳優という仕事のどんなところに一番面白さを感じていますか?
黒川:自分の知らなかった感情に出会えることですね。日常生活ではなかなか経験できないことだと思うんですけど、「自分って、こういう行動ができるんだ」とか、そういうことを演技を通して知ることが多くて。僕は実生活では、人と話すのがあまり得意じゃないんです。人と話すのは好きなんですけど、あまりうまく話せなくて。だからこそ、演技に助けられているというか、演技が好きなのかなと最近思うんです。
それから、自分が生きている世界と、役として生きている世界の境界が、よくわからなくなるような感覚も好きで。もちろん、自分と役は違うということはちゃんとわかっているんですけど、自分が今感じていることが役の感情になったり、役の感情が自分のものになったり。それが面白いんです。どこまでが自分で、どこまでが役なのかという感覚ですね。
——話すのが得意ではないとおっしゃいましたが、俳優として舞台挨拶などで人前に立つ機会も多いですよね。
黒川:本当に緊張します。最初は特に緊張していたんですが、「怪物」でご一緒した安藤サクラさんが、「ここで逆立ちしてもいいんだよ」と言ってくださったんです。その言葉がすごく自分の中に残っていて。人前で話すときも「あ、僕は今ここで逆立ちしてもいいんだな」と思いながら話しています(笑)。
——最後に、今後挑戦してみたい役柄はありますか?
黒川:そうですね。やりたいことはあるけれどないというか。一つひとつ仕事をしていく中で、自分のやりたいことが見つかってくる気がしているんです。ただ、今回韓国でお仕事をしてみて、もっと海外でお芝居をしてみたいとは思いました。韓国だけじゃなくて、もっと遠いところで、遠くにいる人たちとお芝居をしてみたいですね。
PHOTOS:MIKAKO KOZAI(L MANAGEMENT)
STYLING:KOJI OYAMADA
HAIR & MAKEUP:MOEKA KANEHARA
トップス、シューズ/共にラングラー(エドウイン・カスタマーサービス)
映画「3ミリの恋」
◾️映画「3ミリの恋」
11月6日から全国公開
出演:黒川想矢 キム・ジアン/
荒木飛羽 早瀬憩 ソウジ・アライ/
パク・ジファン チャン・へジン チェ・ドクムン/
MEGUMI 一ノ瀬ワタル 大谷亮平
監督・脚本:全辰隆(チョン・ジニュン)
音楽:ノ・ヨンシム
製作:吉村文雄 金子保之
企画・プロデュース:小杉宝
プロデューサー:吉原裕幸 野田あかり 田口雄介 パク・ジュンホ
制作プロダクション:東映東京撮影所
共同制作:ADRENALINE PICTURES プロダクション協力:ダブ
配給:東映 東映ビデオ
韓国配給:BY4M
2026年/104分/カラー/シネスコ/5.1ch
©2026「3ミリの恋」製作委員会
映画「3ミリの恋」公式サイト







