ニューヨークのメトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art)のコスチューム・インスティチュート(The Costume Institute)は8月31日、2027年5月9日〜28年1月9日に開催予定だったファッションデザイナー、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)の回顧展「ジョン・ガリアーノ:ホライズンズ(John Galliano: Horizons)」を中止することを発表した。開催については、7月下旬に発表したばかりだった。
ガリアーノが自身の公式インスタグラムに声明を発表し、「熟考を重ね、メトロポリタン美術館および関係者全員と協議した結果、現時点では本展を開催しないことが最善であると、深い悲しみとともに決断した」と明かした。
この背景として開催の発表以来、物議を醸してきた自身の過去をめぐって議論が高まっていたことに言及し、「私をめぐる議論によってメトロポリタン美術館を困難な立場に置いたり、コスチューム・インスティテュートのすばらしい仕事から人々の関心をそらしたりすることは望んでいない」とつづった。さらに、「私の仕事をたたえる展覧会が、一部の人々に苦痛を与えることも認識し、尊重している。過去の私の発言がもたらした苦痛、特にユダヤ人およびアジア人コミュニティーを傷つけたことについて、私は今も全面的に責任を負っており、深く反省している。真の償いは、展覧会や公的機関からの評価、一度きりの公の行動によって成し遂げられるものではないと理解している。それは、耳を傾け、学び、時間をかけて行動によって示し続けていく責任だ」と記した。
メトロポリタン美術館のマックス・ホライン(Max Hollein)館長兼最高経営責任者は、「ジョン・ガリアーノとの慎重な協議を経て、私たちは共に、本展覧会を開催しないことを決定した」と短くコメント。また、来春の新たなコスチューム・インスティテュートの展覧会と、27年の「メットガラ(Met Gala)」については、後日詳細を発表するとしている。
展覧会では「クリスチャン ディオール」解雇の背景も予定していた
コスチューム・インスティテュートで存命中のファッションデザイナーの単独回顧展が開催されたのは、1983年のイヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)と17年の川久保玲(Rei Kawakubo)の2人のみ。ガリアーノ展が実現すれば、3人目となる予定だった。今回の展覧会では、「過去40年間で最も独創的かつ影響力のあるデザイナーの一人」として焦点を当てる内容を計画していた。
また中には、10〜11年のガリアーノによる反ユダヤ主義、人種差別、反アジア的な言動がもたらした“断絶”についても扱う予定だった。これらの言動により、ガリアーノは「クリスチャン ディオール(CHRISTIAN DIOR)」(当時)、そして自身の名を冠したブランド「ジョン・ガリアーノ(JOHN GALLIANO)」から解雇され、パリの裁判所から「人種、宗教、民族または出自に基づく公然侮辱」の罪で有罪判決を受けた。
美術館によると、展覧会ではその後、ガリアーノが薬物依存の治療を受け、自らの行為について公に認めるに至った経緯も取り上げる予定だった。
しかし、同展を中止するよう求める圧力は次第に強まり、ここ数日では「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」が、開催予定の展覧会をめぐり高まる反発について一面で報じた。そのきっかけの一つとなったのが、ニューヨーク市議会議長で、市政におけるユダヤ系の有力者の一人でもあるジュリー・メニン(Julie Menin)からの書簡。メニンは先週、ホライン館長やキュレーターのアンドリュー・ボルトン(Andrew Bolton)、コンデナストのアナ・ウィンター(Anna Wintour)=チーフ・コンテンツ・オフィサー宛てに書簡を送り、同展の開催計画を「重大な過ち」と批判した。美術館の多数の寄付者や支援者からも反対の声が上がっていた。
ガリアーノを長年支持してきたアナは声明で、「自身の仕事に焦点を当てた展覧会を現時点では開催すべきではないというジョンの決断は、非常に勇気あるものであり、彼がどのような人物であるかを示すものだ。この判断は正しいと考えており、彼と美術館の双方を全面的に支持する」と述べた。
ガリアーノの声明全文
メトロポリタン美術館、そして特にマックス・ホライン、アンドリュー・ボルトン、アナ・ウィンターに、私の仕事に焦点を当てた展覧会を企画してくださったという、この上ない栄誉に心から感謝しています。
生涯にわたって敬愛してきた機関に、私のクリエイティブの歩みを取り上げていただけることは、言葉では表せないほど深く心を動かされるものでした。このプロジェクトにマックス、アンドリュー、アナ、そしてメットのチーム全員が寄せてくださった信頼、配慮、そして専門的な知見に、これからもずっと感謝し続けます。
熟考を重ね、関係する全ての方々と話し合った結果、大変残念ではありますが、現時点では展覧会を開催しないことが最善だと判断しました。
過去の私の発言によってもたらした苦痛、特にユダヤ人およびアジア人コミュニティーを傷つけたことについて、私は今も全面的に責任を負っており、深く反省しています。真の償いは、展覧会や公的機関からの評価、あるいは一度きりの公の行動によって成し遂げられるものではないと理解しています。それは、耳を傾け、学び、時間をかけて自らの行動によって示し続けていく責任です。
私をめぐる議論によってメットを困難な立場に置いたり、コスチューム・インスティテュートのすばらしい仕事から人々の関心をそらしたりすることは望んでいません。また、私の仕事をたたえる展覧会が、一部の人々にとって苦痛となることも認識し、尊重しています。
この15年間、断酒を続け、アルコール依存症やその他の依存症から回復する中で、私を導き、支え、寄り添ってくださった全ての方々にも、心から感謝したいと思います。皆さんの知恵、忍耐、そして人間性が、言葉では到底表せないほど私を支えてくれました。皆さんが約束してくれた通り、私が夢見ることさえできなかったほど、すばらしい人生を与えてくださったことに、私は深い恩義を感じ続けています。
メット、マックス、アンドリュー、アナへの感謝は、今も深く、これからも変わりません。彼らの寛大さ、人間性、そしてファッションが芸術、文化、歴史として持つ重要性への信念、さらには人間の弱さと成長の可能性への理解を、私は生涯忘れることはありません。
ジョン・ガリアーノ