「ディオール(DIOR)」のPRディレクターのマチルド・ファヴィエ(Mathilde Favier)が8月17日午後、交通事故でこの世を去った。57歳だった。同交通事故では同乗していた恋人で仏映画プロデューサーのニコラ・アルトマイヤー(Nicolas Altmayer)も同時に死去した。
ファヴィエは1969年フランスのパリ生まれ。「ディオール」のジュエリー部門クリエイティブディレクターのヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌ(Victoire de Castellane)の異母妹で、10代の頃からファッション界に身を置いていた。ファッション業界へのきっかけは、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)と共に「シャネル」で働いていた叔父のジル・デュフール(Gilles Dufour)が「シャネル」のインターンシップの機会を提供したことだ。
通称“リューベック”として知られる名門学院に通い、デザイナーのヴァネッサ・スワード(Vanessa Seward)やカミーユ・ミチェリ(Camille Miceli)、スタイリストのエマニュエル・アルト(Emmanuelle Alt)らと共に学んだ。同氏は学業を中断して「グラマー」誌に入社し、その後「プラダ」の広報部門を経て「ディオール」に移り、15年間にわたり数人のクリエイティブ・ディレクターの下で勤務した。2024年に大型写真集“リビング ビューティフリー イン パリ(Living Beautifully in Paris)”を出版した。このヒットでさらに世間で名を成し、幅広い人脈を築いた。
2025年にファヴィエはオンラインオークションを開催した。同オークションでは、ファヴィエのプライベートコレクションから洋服、ジュエリー、デザイン雑貨を出品したほか、テリー・ド・ガンズバーグ(Terry de Gunzburg)ら友人たちからも品々を寄贈した。同氏はシンプルで洗練されたものや上質なもの、美に囲まれることを生き方と捉えていた。以前、米「WWD」に「人生は誰をも容赦しないから、悲しいことや醜いことから逃れる方法だ」と語った。
「ディオール」を照らした太陽のような存在
ファヴィエは14年にわたり「ディオール」のPRディレクターとして世界中から訪れる著名人を迎え、衣装を用意した。同ブランドは「彼女はコミュニケーションの喜び、才能、そして誠実さにおいて模範となるような傑出した女性です」と称えた。
同氏はVIP対応を統括し、リアーナ(Rihanna)やジェニファー・ローレンス(Jennifer Lawrence)、BLACKPINKのジス(JISSO)らと親密な関係を築いた。ジスは「『ディオール』での活動を始めた当初から、ファヴィエは私をとても温かく、親切に迎え入れてくれました。長年にわたり、私たちは数多くの特別な時間を共に過ごしてきました。その間、彼女が私に注いでくれた心遣いや愛情、そしてサポートに、心から感謝しています」とコメントした。
追悼する業界人らの声
LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンのベルナール・アルノー(Bernard Arnault)会長兼CEOは「長年にわたり、その情熱とエネルギー、そして才能を『ディオール』というメゾンに捧げてきたファヴィエの悲劇的かつ突然の訃報に接し、深い悲しみを覚えています。ご家族や愛する方々に、心よりお悔やみ申し上げます」と述べた。
クリスチャン・ディオール・クチュールのデルフィーヌ・アルノー(Delphine Arnault)会長兼CEOは「ファヴィエは人生を情熱的に愛していました。『ディオール』は素晴らしいプロフェッショナルを失い、私は誠実な友人を失いました。彼女の楽観的な姿勢と勇気は、多くの人々の称賛を集めるものでした。彼女の笑顔と才能が失われたことは、何にも代えがたい喪失です。彼女のお子さんたち、お母様、姉妹、ご家族、多くの友人、そして彼女がこよなく愛したチームの皆さんに心から思いを寄せています」とコメントを残した。
デザイナーのJ.J マーティン(J.J Martin)は「彼女は、今も、そしてこれからもずっと、この業界における先駆者であり続けるでしょう。彼女はファッションの最前線に求められるシックさや洗練されたスタイル、センス、そしてエレガンスをすべて備えながらも、そこに伴う冷ややかな作為とは無縁の人物でした」とコメントした。
ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)「ディオール」アーティスティック・ディレクターは「私たちは皆、彼女の仕事と献身に多大な恩恵を受けています。彼女は温かさとエネルギーをもたらし、私がこれまでに会った中で最も前向きで、周囲を元気づけてくれる人でした。彼女はエレガンスを体現する存在であり、多くの意味でクチュールの精神そのものでした」と深い悲しみを表明した。