
昨今のメンズファッションは、画一的なビッグトレンドよりも、多様性やパーソナルな感性を重んじる流れが強まっている。ランウエイでもシャツやデニムといった日常着、ステイプル(定番)なワードローブを基軸としながら、レイヤリングやトップスとボトムスのバランスによって、いかに新しく、いかに自分らしく見せられるかがより重要になった。そうしたスタイリングにおいて、最後のさじ加減を担うのが小物であり、なかでも顔の印象を左右するアイウエアの存在感は増している。
パリ・メンズでその流れをけん引するのが「ルメール(LEMAIRE)」や「アミ パリス(AMI PARIS)」だが、両ブランドが惚れ込むアイウエアブランドが「ピーター アンド メイ(PETER AND MAY)」だ。ベーシックでありながら、わずかにひねりを効かせたデザインは、モデルの目元にノンシャランなエッセンスを添えるだけでなく、胸ポケットに引っ掛けてアクセントにするなど、ランウエイのスタイリングに確かな違いを与えていた。
「ピーター アンド メイ」は2012年、パリでローラ・ル・ビアン(Laura Le Bihan)とグザヴィエ・マトラン(Xavier Matrand)が構想を始め、2014年にブランドとして本格始動。アイウエア専門店よりも先に、コレット(COLETTE)やドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)といった高感度なファッションショップで取り扱われ、国際的なアイウエア見本市に出展する前に、フーズネクスト(WHO'S NEXT)などのファッション見本市に出展。まさにファッションの文脈から生まれたアイウエアブランドである。日本でも「セレクト バイ ベイクルーズ(SELECT BY BAYCREW'S)」や「コンティニュエ(CONTINUER)」「ブリンク(BLINC)」などファッションのセレクトショップや高感度なアイウエア専門店など約30店舗で取り扱いがある。
パリを拠点に、チタンフレームは日本の職人の手仕事に委ねるなど、ものづくりへの姿勢も独特な「ピーター アンド メイ」。両ディレクターに、デザインとものづくりの考え方、そしてスタイリングピースとしてのアイウエアがどうあるべきかを聞いた。
WWD:まず2人のバックグラウンドと、「ピーター アンド メイ」を立ち上げるまでの経緯を教えてほしい。
ローラ・ル・ビアン=「ピーター アンド メイ」共同創業者(以下、ローラ):私は祖父母の代からきょうだいに至るまで、常にアイウエアの専門家に囲まれて育ちました。家族全員がアイウエア業界に身を置き、それぞれがまったく異なる分野に携わっています。母は昔からファッションに情熱を注いでおり、自身のアイウエアショップである「マルク・ル・ビアン(MARC LE BIHAN)」を立ち上げました。
その中で、私はまずアイウエアの技術(オプティシャン)を学び、その後コーポレート・ファイナンスを修めました。(香港発の高級百貨店である)レーン クロフォード(LANE CRAWFORD)と協業していたファッションのバイイングオフィスに勤務し、ロンドンでラグジュアリー業界を経験した後、自分の原点であるアイウエアの世界に戻ることを決めて「マルク・ル・ビアン」に参画。10年間デジタル開発部門の責任者を務めました。
一方のグザヴィエは「マルク・ル・ビアン」のフラッグシップストアを10年間統括していました。私たちはそこで出会い、数多くのブランドや新しいプロジェクト、そして無数の顧客の期待に触れてきました。「品質において妥協がなく、あらゆる面で本物であるプロダクトを作ろう。共に仕事をするべき2人だ」と確信したのはこの時期でした。
WWD:2人の役割分担は? 1つのデザインはどのように形になっていくのか。
ローラ:グザヴィエは"才能ある手"です。真のクリエイティブな頭脳であると同時に、技術の百科事典でもある。彼はコレクションの次に来るもの、「ピーター アンド メイ」の顧客が期待していること、そして顧客がまだ期待していないことまでを見通しています。この後者が、思っている以上に重要なんです。トレンドを追いかけるのではなく、自分たちに正直であり続けること。同時に、人を驚かせることも不可欠です。ただしそれは、私たちのビジョンに忠実である限りにおいて。
スケッチは、2人ともが強く信じられるものでなければ次の段階に進みません。これはブランドのあらゆる側面に当てはまります。私たち2人がブランドのフィルターなのです。それが存在する意味と目的を持っていると2人が確信しない限り、何一つ前には進みません。
グザヴィエ・マトラン=「ピーター アンド メイ」共同創業者(以下、グザヴィエ):ローラはイメージを通じてコレクションに命を吹き込む役割です。クリエイティブ・ディレクションを担い、すべてのフレームが意図を持って提示され、それにふさわしい注目を集めるよう導いています。ブランドの守り手であり、開発におけるビジョンの指針であり、問題を解決する存在でもあります。
トレンドを追わず、自分たちに正直であること
WWD:ブランドが掲げる"アリュール(allure)"とは、どのようなもの?
ローラ&グザヴィエ:アリュールとは、力みのない、自然なパリジャンのエレガンス。"状況を自分でコントロールできている"と感じさせてくれるものです。
プロポーション、バランス――すべてに目的があります。効果を狙って施したものは何一つありません。日々の生活に寄り添い、その人のワードローブの中で長く定位置を占めるようになる。そんなアイウエアです。
WWD:コレクションを象徴するモデルを挙げるとしたら?
ローラ&グザヴィエ:すべてのモデルが私たちにとって大切で、それぞれ特別な位置を占めていますが、現在最もアイコニックなのは、おそらく"ヒーロー(HERO)""イッツ ア ガール(IT'S A GIRL)""ザ ウェイ(THE WAY)"の3型でしょう。
"ヒーロー"は、100%ユニセックスであることを前提に設計した最初のモデルです。とてもカジュアルな装いに合わせられる一方で、ドレスアップした外出時の装いを少し崩すためにも使えるフレームです。
対照的に"イッツアガール"は、コレクションの中でも数少ない、はっきりと女性的なスタイルの1つ。グザヴィエの娘の誕生にちなんで名付けられ、ロマンティックでありながらエッジの効いた美意識を体現しています。
"ザ ウェイ"は私たちにとって特別な存在です。何シーズンにもわたって「ルメール」のランウエイショーに帯同してきたモデルだからです。
アイウエアは、シルエットから切り離せない
WWD:「ルメール」とのコラボレーションはどのように始まったのか。
ローラ&グザヴィエ:「ルメール」は、それまでも複数のブランドの中から「ピーター アンド メイ」のフレームを選び、ランウエイショーに使用してくれていました。実際につながりが生まれた後、私たちの側から、アイコニックなスタイルの1つをそのシーズンの「ルメール」のカラーパレットに完璧に合うようパーソナライズすることを提案したのです。
このコラボレーションはあまりに自然で、「ルメール」のDNAとも深く合致していたため、以来4シーズンにわたって続いています。
WWD:「ルメール」以外にも、ファッションブランドとの協業をいくつか手掛けてきた。どう向き合ってきたのか。
ローラ&グザヴィエ:最初に組んだのは、アンダム(ANDAM)ファッションアワードを受賞した「ワンダ ナイロン(WANDA NYLON)」のような、非常にニッチでインディペンデントなブランドでした。その後、シモン・ポルト・ジャックムス(Simon Porte Jacquemus)とパートナーシップを結び、同ブランド初のアイウエアを手掛けています。このコラボレーションは5年間続きました。
現在はアレクサンドル・マテュッシ(Alexandre Mattiussi)とパートナーシップを組んでいます。「アミ パリス」のデザインは、あくまでアレクサンドルのデザインスタジオから生まれるもの。私たちは、デザイナーのDNAをアイウエアへと翻訳するために必要な専門性と職人技、そして技術的なイノベーションを提供する立場です。この協業では信頼が何よりも重要になります。アレクサンドルには非常に明確なビジョンがあり、私たちの役割はそれを完璧なプロポーションへと翻訳すること。ブランドのDNAに忠実でありながら、最高水準の品質と技術的な専門性を担保するフレームを作り上げることです。
WWD:アイウエアの作り手として、ファッションとの関係性はどうあるべきだと考えている?
ローラ&グザヴィエ:ファッションは当初から私たちのプロジェクトの一部でした。立ち上げ当初から、アイウエア専門店に並ぶより先にコレットやドーバー ストリート マーケットといった店舗で取り扱われ、国際的なアイウエア見本市に出展する前に、フーズネクストなどのファッション見本市に出展していました。
私たちはビジュアルイメージを、アイウエアブランドというよりもファッションメゾンのように構想しています。例えば2024-25年秋冬のキャンペーンは、シルエットやスタイリング、私たちが敬愛するファッションブランドを取り込んだランウエイショーの形式を取りました。アイウエアは全体のシルエットから切り離して考えることはできない、と信じているからです。
WWD:2026-27年秋冬シーズンの新作について教えてほしい。
ローラ&グザヴィエ:日本で完全ハンドメイドによって仕上げた、新しいチタンコレクションを打ち出します。再設計したテンプル、モノブロック構造のヒンジ、そして厚みを増したハーフリムのプロファイルを組み合わせた、新しいアーキテクチャーへと進化させました。柔らかなラインと、より丸みを帯びたプロポーションが新たなバランス感覚をもたらす一方で、コレクションを特徴づける軽さと精密さは保たれています。技術的な洗練とクラフツマンシップを、さらに前進させたコレクションです。
WWD:「ピーター アンド メイ」を通じて、最終的に届けたいものは何か。
ローラ&グザヴィエ:"いつでも頼れるブランド"であること。信頼=コンフィデンスこそ、私たちのプロダクトを通じてすべての人に感じてほしい感覚です。
ブランドがインディペンデントであることによって、偉大なメゾンと同じ水準の卓越性を追求しながら、創造の自由と自分たちのペースを守ることができていると自負しています。
リサーチとプロダクト開発へのアプローチも、独自のリズムを刻んできました。一つひとつのプロポーションを磨き上げ、品質と快適性の両方を高めるために必要な時間をかけている。即時性のために最終的な仕上がりを犠牲にすることは決してありません。
私たちは、丁寧に作られたものが持つ普遍的な価値を信じています。手に取ったすべてのフレームから、職人の技、精度、そして長く使われるプロダクトを生み出すために込められた忍耐を感じられるはずです。