
鮮やかな花々を、服や家具、壁、プロダクトに直接描く。そんな手仕事を軸に活動の幅を広げているのが、アーティストで自身のブランド「トライト(TOLIGHT)」を手掛ける青山明生デザイナーだ。ブランド名は“TRY(挑戦)”と“LIGHT(光輝)”に由来し、「絵を描くように自由に」をコンセプトに、自身のドローイングを起点としたコレクションを発表している。近年は「ジャーナル スタンダード ファニチャー(JOURNAL STANDARD FURNITURE)」をはじめ、「シテン(CITEN)」や「サムシング(SOMETHING)」などとのコラボレーションを次々と発表。9月後半には、虎ノ門ヒルズの「セレクト バイ ベイクルーズ」での展開も予定している。ファッションの枠を超えて注目を集めるアーティストの一人だ。
独創性がファッションの華やかさを拡張
「トライト」の大きな特徴の一つが、一点物のハンドペイントアイテムだ。ビンテージ生地や古着、ビンテージクロスのドレスというだけでなく、青山デザイナー自身が一点一点ペイントを施しているため、既製品にはない独特の表情を生む。7月に発表した新たなアートワーク“EXPANDING FLOWERS ― 拡張する花 ―”では、これまでの「服に花を描く」というアプローチをさらに押し広げ、ユーズドやデッドストックのピローカバー、テーブルクロスを解体したウエアや、ビンテージクロスのドレス、ネクタイ、メンズジャケットなどに手描きで花を加えたほか、バックペーパーや人の身体にもペイントした。服そのものをキャンバスとして捉えることで、大胆な独創性と、花が“拡張”していく表現を提示する。アイテムの価格帯は、シャツが4万4000〜6万円、ジャケットが4万4000〜7万2000円、パンツが4万〜4万9000円。
家具からデニム、柔軟剤まで、広がるコラボレーション
「トライト」デザイナーという肩書きだけでなく、花の絵描きを意味する“ブルーム ペインター”としても掲げ、服だけでなく家具やショップウインドーから、ビジュアル制作、空間演出、時には住宅の壁一面まで、表現領域を拡大している。彼女の表現は、企業とのコラボレーションとも相性がよく、「ジャーナル スタンダード ファニチャー」とは継続的にタッグを組み、家具やインテリア雑貨へ直接花を描いてきた。26年には「シテン」とも協業。同ブランドのために花のグラフィックを描き下ろし、Tシャツやパンツ、トートバッグ、ポーチ、バンダナなどに落とし込んだ。さらに同年秋冬シーズンの「サムシング」とのコラボレーションでは、“TOKYO SOME GIRLS”の5人をイメージした5種類の花を描き、青山デザイナーが一点一点ハンドペイントした限定アイテムも発売している。ファッション以外にも、ライオンの柔軟剤「ソフラン アロマリッチ」とコラボし、5つの香りから着想した花のグラフィックを描き、話題を呼んだ。
コロナ禍で見つけた「花を描く」という表現
青山デザイナーは1992年東京都生まれ。子どもの頃からペンと紙があれば毎日スケッチをするほど、絵を描くことが好きだった。高校でデザイン科に進んだのち、パリコレに憧れて文化服装学院アパレルデザイン科に進学。卒業後は「ミュベール(MUVEIL)」に加わり、プリントや刺しゅうなどの企画・デザインに携わった。16年には第90回「装苑賞」でrooms賞を受賞。18年春夏から前身となるブランドで活動を始め、21年春夏から「トライト」を本格始動した。
アーティスト活動の転機となったのはコロナ禍だった。自宅で制作できるものを模索する中、スーパーで買った花を生けていた空のワインボトルに絵を描いたことをきっかけに、衣服だけでなくプロダクトにも花を描くようになった。「何気なく描いたワインボトルの絵がインスタグラムですごく反響があった。自分の描いた花が、人とアートのひとつのつながりになると感じ、人生をかけた活動にしたいと決めた」。
プライベートでは、一児の母となったばかり。産休中には、家にあるベビーミルク缶や哺乳瓶にも花を描くようになり、お菓子や缶ビール、マヨネーズなど、身の回りのグッズにも表現を広げた。「描くことで、日常のアイテムが華やかになる。そんな付加価値を与え続けていきたい」。大量生産とは対極にある、一点一点に手を加えるモノづくりと、日常にささやかな彩りを添える花の表現。青山デザイナーは、その両軸でファッションとアートの境界を広げている。