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「ナンヅカ」が原宿から再び渋谷へ 南塚真史が語る田名網敬一と次の10年

現代美術ギャラリー「ナンヅカ(NANZUKA)」が、原宿から渋谷へ拠点を移し、新たなスタートを切った。「ナンヅカ」は2005年、ポップカルチャーと現代美術の接続を目指す実験的なギャラリー「ナンヅカ アンダーグラウンド(NANZUKA UNDERGROUND)」として渋谷で始動。その後、拠点を移しながら、田名網敬一や空山基、山口はるみら、既存のファインアートの枠組みでは十分に評価されてこなかった才能を現代美術の文脈から世界へと紹介してきた。

新たなギャラリーは、約200平方メートル、天井高約4メートルのホワイトキューブ。オープニングを飾るのは、24年に逝去した田名網敬一だ。南塚真史代表が生前の田名網に制作を依頼した反戦をテーマとする作品「DO NOT BOMB」を中心に据える。再び渋谷を選んだ理由とは。これから「ナンヅカ」はどこへ向かうのか。新しいギャラリーに掲げる“ソーシャルフレンドシップ“の思想から、若手ギャラリーとの関係、日本のアート市場が抱える構造的な課題、そして次の10年までを南塚代表に聞いた。

田名網敬一から始まる新たな10年

WWD:まず、新しいギャラリーはどのような場所になるのでしょうか?

南塚真史「ナンヅカ」代表(以下、南塚):渋谷駅前に戻るので、アクセスは確実に良くなります。ただ、きれいなオフィスビルの中に位置するので、通りがかりにふらっと入れる今の原宿とは少し違います。そこは悩みどころでした。

でも、とにかく空間がいい。天井高がフラットに約4メートルあって、ギャラリーとして約200平方メートルをスクエアに取れます。日本でこれだけのギャラリースペースはなかなかないと思います。「ナンヅカ」も20年以上やっているので、一度こういう場所に移るのもいいかなと。

WWD:移転を決めたきっかけは何だったのでしょうか?

南塚:場所に惚れたこともありますし、もともとギャラリーがあった場所に戻るという、帰巣本能のようなものもあります。

実は移転を決めたのは3年くらい前です。その頃は今よりアートマーケットもポジティブでしたが、この3年間で状況が変わりました。本当は景気が良ければ原宿もキープしたかった。でも、このご時世で2つのギャラリーを維持するのは体力的にも難しい。いろいろ考えて渋谷を選びましたが、一番のきっかけは元の場所に戻るということでした。

WWD:「ナンヅカ アンダーグラウンド」の立ち上げの頃と比べると、渋谷の街もかなり変わりましたよね。南塚さんは今の渋谷をどう見ていますか?

南塚:全然違いますね。当時は東急文化会館があって、渋谷駅の東側には雑居ビルもたくさんありました。駅前なのにまだカオスな感じがあった。今はもう、渋谷という街自体が観光地になったと思います。

ただ、ギャラリーを立ち上げたときから、デートスポットのような“観光地“になってほしいとは思っていました。ニューヨークのチェルシーのギャラリーにはそういう雰囲気があるじゃないですか。日本でもギャラリーがそれくらいポピュラーになれば、シーンも変わるだろうと。

それも“ソーシャルフレンドシップ“につながりますが、「誰でもアクセスしてください」ということです。日本のギャラリーは、まだどこか敷居が高い印象がある。それをどう変えていくかは、今も考えている最中です。

アートをできるだけ社会に接続する

WWD:テーマの “ソーシャルフレンドシップ“は、「ナンヅカ」がこれまで続けてきたことにもダイレクトにつながっているように感じます。

南塚:難しいですよね。“アンダーグラウンド“というステートメントを持ちながら、一方ではアートの精度を高めてメインストリームへ向かっていく。

アカデミックな視点から見れば、「ナンヅカ」のプログラムは大衆的・商業的という批判があることも分かっています。でも、その軸を突き進んできた背景には、アートをできるだけ社会に接続させようという思想があったから。そのバランスを常に考えながらやってきました。

「2G」も「ナンヅカ テイクン(NANZUKA TAKEN)」もそうです。ただ、僕は考えて行動に移すものの、その後どうなるかはあまり想定していません(笑)。実際にどうなるかは、開けてみてリアクションを見ないとわからない。新しいギャラリーは、かなりきれいでオーソドックスなホワイトキューブになるので、この印象に引っ張られ過ぎないように、どう作っていくかは考えたいです。

WWD:再開発で街が整備されていく一方で、「ナンヅカ」は“アンダーグラウンド“を掲げてきました。

南塚:きれいに整備されていく街の風景が当たり前になればなるほど、アンダーグラウンドなものが必要になると思います。僕が今バーをやっているのも、そのギャップを作りたいからです。秘密基地っぽいというか、ちょっと怪しい感じ。そういうコントラストは今後も持ち続けたいです。

余力が出てきたら、小さくてもいいから、怪しい秘密基地みたいな場所をもう1つ渋谷に作りたい。ギャラリー的なショップでも、バーのような隠れ家でもいい。それは夢として持っています。

WWD:新しい「ナンヅカ」のロゴは、田名網さんが生前に手掛けたものだそうですね。田名網さんが不在の中で新しいギャラリーをオープンすることについて、今どんな思いがありますか?

南塚:田名網が亡くなった後のギャラリー経営については考えていませんでした。僕の中では5年、10年後の未来を想定していたけど、それが突然来てしまった。でも、作品も残されている状況で、「続けてほしい」と田名網に言われているように感じました。田名網のためにまだ仕事をする、というメッセージのような気がしたんです。だから新しいギャラリースペースへの移転も、僕の中では半分以上、田名網のことを考えています。田名網がいなければ「ナンヅカ」はありませんし、「ナンヅカ」のコンテクストを作ったのも田名網だと思います。「ナンヅカ」と田名網は肉と骨というか、血と骨というか、そういう関係性です。

WWD:そう考えると、新しいギャラリーを田名網さんの展覧会から始めることにも意味がありますね。

南塚:最後に僕が田名網に頼んで描いてもらった「DO NOT BOMB」という作品を中心に、もう一度やります。それは田名網へのレクイエムでもあり、リスペクトと感謝でもあります。僕の中では原点回帰というか、田名網に戻って、もう一度田名網からリスタートする。

新しい場所は10年契約なので、「10年頑張ろう」という感じです。正式には未発表ですが、2028年にはヨーロッパの某美術館で田名網の展覧会も決まっています。2024年の国立新美術館での評価も含めて[真南1] 、まだまだやるべき仕事はたくさんあります。そういう意味でも、今回もう一度田名網で始めるのは必然の流れです。

1967年の「NO MORE WAR」から「DO NOT BOMB」へ

WWD:なぜ、反戦をテーマにした作品が最新作になったのでしょうか?

南塚:「反戦の作品を作ってください」と僕から頼みました。1967年の「NO MORE WAR」に接続する最新作を作ってほしいと。田名網が67年に作品を作った時と今で、世界の状況は全然変わっていません。本当に進化していないというか……。

田名網が生涯を通して描き続けた作品の根底には、反戦があると思います。自身の幼少期の戦争体験に基づくものを、いろいろな形で生涯にわたって表現し続けました。直接的な反戦作品は長らくやっていませんでしたが、今改めて田名網が何者で、どういうアーティストだったのかを伝えるためには、ここからスタートするのが一番望ましいと思いました。

WWD:今、この作品を新しい「ナンヅカ」の幕開けに掲げることには、どんな意味を託していますか?

南塚:ウクライナやガザ、そして中東情勢など、世界では今も戦争が続いています。そういう世の中の現状に対して、田名網が訴えた憂いは証言としてしっかり後世に残すべきだと思います。

個人的にも思い出深い作品です。これが僕と田名網が歩んできた理由というか、意味というか。そこに価値はあると思います。僕にとっても、田名網にとっても、世界にとっても重要な作品だと思っています。

WWD:田名網さんに続く次世代の若いアーティストをどのように見ていますか?

南塚:今は新しいギャラリーがいっぱいできて、若いアーティストと若いギャラリーが一緒にどんどん出てきています。僕らはある程度、アート・バーゼルのような大きなフェアへのアクセスを持っているので、アーティストのステージを早く上げることはできると思います。でも、若いギャラリーが一生懸命育ててきたアーティストをビッグギャラリーが引き抜くようなことは、あまり良くないと思うんです。

サッカーや野球なら移籍金のようなものが発生して、育てた側にもメリットが残ります。循環を生み出すエコシステムがある。でも、アートにはそういうものがない。若いギャラリーが若手アーティストを育てて、一緒に上がっていくというシステムが全然エコではなくなっています。

僕自身もそういうことを経験してきた側なので、今は若いアーティストを一生懸命探すというより、気持ちとしては若いギャラリーをサポートしたいと思っています。

WWD:若手ギャラリーと一緒にシーンを育てていく。

南塚:競争するつもりはないです。今は個別のアートの理論やテーマより、アート界やアートマーケット、現代美術や美術品の歴史といった構造的なものに興味があります。そもそも、それこそが、僕がギャラリーを始めたときの立ち位置でもありました。今、世界のアートが地域ごとに閉鎖的になっているように感じます。アメリカ、ヨーロッパ、アジアと、それぞれが保守的になっている。そのアート界に対する“アンチ“のようなものを、構造的な部分でやりたいと思っています。

WWD:その問題意識が、中国の若手アーティストを紹介する取り組みにもつながっているのでしょうか?

南塚:そうですね。実は8月末に神宮前で、中華圏の若手作家を集めたグループ展を開催しました。中華圏外に出てくるチャンスがなかなかないけれど、すごくいいアーティストがいます。彼らは自国だけのことを語っているわけではなく、人間や世界をテーマに非常にいい作品を作っています。

中華圏の若手を紹介することには、政治的というか、アート内部の構造的な問題に対するステートメントとしての意図があります。今後、中華圏の若手を数名紹介していこうと考えています。

WWD:「ナンヅカ」は2012年、Aisho Miura Artsと共同で香港に設立した「AISHONANZUKA(アイショウナンヅカ)」をはじめ、海外にも活動を広げてきました。その中で改めて東京、そして渋谷に拠点を構えることには、どんな意味がありますか?

南塚:新しいものが生まれているという雰囲気は、渋谷という街が持っている大きな文脈だと思います。それは原宿にも似たものがあります。

渋谷にいることは、僕の中では最優先です。天王洲でもないし、六本木でもないし、下町でもない。渋谷にいる意味は非常に大きいです。今回の場所はバーとも接続しやすい立地になったので、海外のコレクターを含めたアートファンへのアクセスという意味でも、渋谷という街と新しいギャラリーはプラスに働くと思っています。

WWD:これから10年、さらにその先を考えたとき、「ナンヅカ」をどんな存在にしていきたいですか?

南塚:できれば、ギャラリーを育てたいです。思想や哲学を共有、共感できる仲間は、アーティストだけではなくてギャラリーサイドにもいるんですよね。だから、若いギャラリーとの連携はもう少しやっていきたいと思っています。できれば10年後、誰かにうちを継いでほしいですけどね(笑)。後継者も育てないと。

そのための問題は山ほどあります。それこそ関税もそうですし、減価償却や相続もそう。特に美術を流通させる上での制度的な問題がたくさんあります。今の日本は、美術品を買う側に全ての責任と負担を押し付けています。例えばアメリカなら美術品を美術館に寄贈すれば、その分税金が控除されるような制度があります。日本にも似たような制度がありますが、現実的にはどの公的美術館も倉庫に空きがなく、まだ控除額にもキャップがあり、ほとんど活用することができません。結局、最後はコレクター側のリスク負担になってしまいます。これは僕1人でできる問題ではないので、現在理事を勤めているCADAN(現代美術画商協会)の活動を通して提言しながらやっていくしかないと思っています。

WWD:一方で、日本には漫画やアニメなど、世界的に強いカルチャーがあります。その状況と現代美術との間には、どんな問題があるのでしょうか?

南塚:日本は文化レベルが低いのではなくて、文化があって当たり前なんですよね。むしろ文化レベルが高過ぎる。漫画やアニメなどのIPコンテンツも一大産業で、放っておいても生まれますし、お金も生んでくれます。その中で、コンテンツビジネスとして巨大になったものと、ビジネス的に非常に厳しい環境に置かれている現代美術とのバランスがすごく悪い。

僕らが現代美術について言っていることは、どうしても意識が高い一部の人たちだけが共有できる世界になってしまい、なかなか広く社会に刺さりません。「アートは特別だ」と敷居を上げてしまう事のデメリットです。僕ができるだけIPとコラボレーションするのは、こうしたポジションへのカウンターです。とにかくアートの社会的な認知度を高めて、外に出ていくという活動をずっとしてきました。しかし、そうするとアカデミズムから批判される。そのバランスが難しいですね。

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