
PROFILE: マイケル・アナスタシアデス/デザイナー
ミニマルでありながら詩的。デザイナーのマイケル・アナスタシアデス(Michael Anastassiades)の作品が、世界中のクリエイターやファンを魅了する理由は、その静かな存在感にある。イタリアを代表する照明ブランド「フロス(FLOS)」の名作「IC Lights」をはじめ、多くのプロダクトを手掛けてきた彼は、近年、家具や彫刻作品へと表現の領域を広げている。今回、「タカ・イシイギャラリー 京都」で7月4日まで開催中の個展「From Warm Yellow to Saturated Red」を機に来日。日本での個展開催は2017年以来2度目、「タカ・イシイギャラリー」では東京、香港に続く3度目の開催となる。光への飽くなき探求と、人と空間の関係を見つめ続ける創作哲学について聞いた。
光とインダストリアルデザインにおける創作プロセスについて
――デザイナーでありアーティストとしても活動されていますが、「ものをつくる行為」をどのように捉えていますか?
マイケル・アナスタシアデス(以下、アナスタシアデス):創作のプロセスは、ギャラリーのための作品であっても、企業やブランドのための工業製品であっても変わらないと思っています。ただ、発表の場によって作品の意味は変わります。ギャラリーで展示されている間は、それは“展示されるためのオブジェクト”として認識される。しかし同じ作品が別の場所に置かれれば、まったく違う文脈の中で存在することになる。興味深いのは、一つの作品にその両方の可能性が同時に備わっていることなんです。そしてその過程の中では、作品はまだ繊細で、未完成で、傷つきやすい状態にあります。しかし最終的に完成し、プロダクトとして定義された瞬間、それは別のものに生まれ変わる。今回展示している作品は、まさにその“プロセス”そのもの。特に、作品を発展させていく“初期段階”に焦点を当てたものなんです。
――デザイナーとしてのプロジェクトも、アーティストとしての創作も、同じ視点、姿勢で取り組まれているのですね。
アナスタシアデス:人は何かを理解するために、定義というものを必要としますよね。それは世界を理解し、分析するための自然な方法です。ただ、私自身はその定義に縛られていません。なぜなら、“自由な表現”がアートの中だけに存在するとは思わないからです。大切なのは作品をその作品としてだけ見つめ、固有の文脈の中で理解しようとすること。例えば、家を設計すれば私はデザイナーと呼ばれるでしょう。詩を書けばアーティストと呼ばれるかもしれません。人は肩書きによって他人を理解したがる。しかしそれは私の創作活動においては、何の影響も与えません。
――創作する際に、何からインスピレーションを得ることが多いですか?
アナスタシアデス:アナスタシアデス:出発点は一つではありません。必ずしも一つのアイデアから始まるわけでもないんです。ある感覚的なものから始まることもあるし、解決したいある問題から始まることもあるんですよ。何かを観察して、それを別の文脈へ移し替えられるのではないかと試みたこともあります。最初から作りたいもののイメージが見えて作り始める場合もあり、その場合は、完成形が当初のイメージにかなり近くなるんです。逆に、まったく形が見えていないことも。ただ感覚だけが存在していて、制作のプロセスを通じて少しずつその輪郭に近づいていくのです。着想源は常に違いますね。
――――手掛けた作品は機能的なプロダクトでありながら、同時に感覚や空間そのものに作用しているように感じます。デザインを考案する際に、最初にアプローチするのは「機能」「形態」「感覚」のどれでしょうか?
アナスタシアデス:興味深いのは、デザインについて語るとき、人はつい「機能」「形態」「感覚」を別々のものとして切り分けようとすることです。でも経験を積み、自信を持てるようになると、それらは自然と一体化していきます。実際には、どれが先に来るのか分からなくなっていくんです。もちろん、どの要素も全て重要です。何かを使ったときの感覚や体験をとても大切に考えています。ただ個人的には、“機能から始める”とか“形から始める”という風に分けて考えること自体が少し限定的だと思っています。全ては同時に存在していて、形は機能を高めることができるし、機能は体験を豊かにすることもできる。だから私は、デザインを“人が使うもの”と定義するなら、最初に問うべきは機能でも形でもなく、「これはどんなものなのか」「どんな感覚を呼び起こすのか」だと考えています。
――制作過程では、スケッチを繰り返し行うのでしょうか?
アナスタシアデス:そういう場合もありますね。スケッチから始めることもありますし、もっと具体的な図面を描くこともあります。ただ単に何かを探している段階のこともあります。インダストリアルデザインは、実在する物体を作る仕事です。だから1本の線が出発点になることもあります。この“何かを作り始める感覚”が大好きなんです。状況次第で、紙切れや金属片、あらゆるもので試作をすることもある。スケッチも制作プロセスの一部ですが、あくまでも数ある要素の一つです。
――照明を制作するようになったきっかけと、光に引かれる理由を教えてください。
アナスタシアデス:光を使ったものを作りたいと思ったのは、光が非常に詩的なメディアだと思うからです。同時に、人間は誰もが光に引かれるとも思っています。光にはどこか魔法のようなものがあり、人は本能的に引き寄せられます。最も古い文明の時代から、太陽を崇拝し、月を崇拝し、星を崇拝してきた。光が私たちを包み込む、そこには計り知れない美しさがあります。私にとって光を扱い、光を生み出すことは、その行為に参加することだと考えています。
1日の終わりを告げる15分間の光の変化から
着想を得たエキシビジョン
――確かに、ご自身の作品は単体で完結するというより、人や空間との関係によって成立する印象があります。「タカ・イシイギャラリー 京都」での展示において、空間との関係性をどのように考え、作品構成をしていきましたか?
アナスタシアデス:「タカ・イシイギャラリー 京都」の空間に引かれたのは、その親密さでした。伝統的な日本家屋には“人間的なスケール感”があります。西洋の空間に比べると明らかですよね。私自身の作品作りと共通するのは、人間の尺度を尊重する点です。一方で、デザイナーは自分の作品が最終的にどこに設置されるかを知ることはできません。だからこそ、作品はさまざまな環境の中で成立する必要があり、複数の側面を作品に持たせる必要がある。その多層性があるからこそ、どんな環境でも作品は力を失わないんです。人を威圧しないものを作ることを目指していますが、人がオブジェクトと自然と関係性を築け、親しみを持てるものであることを大切に考えています。
――本展では、夕暮れの光が暖かな黄から深い赤へと変化していく現象をモチーフにされています。このテーマを選んだ理由を教えてください。
アナスタシアデス:色彩の変化も重要ですが、興味を持っているのは、光の強度やダイナミックな変化でもあります。太陽が地平線に触れてから完全に沈むまでの15分ほどの時間は、自然界で最も劇的な変化は一つです。人々が夕日を見に行くのは、その瞬間に特別な何かがあるからでしょう。短い時間の中で起こる色彩の変化は本質的なもの。それに比べて、日中の光はかなり安定しています。しかし1日の終わりになると、まったく異なる状態になるのです。
――日本人的な感覚からすると夕日という言葉は、どこかノスタルジックな感覚を呼び起こさせます。
アナスタシアデス:私自身はそれをノスタルジーとは捉えていません。むしろ、時間や感情の凝縮という感覚です。1日の中で経験した気持ちや出来事が、その瞬間に集約されるように感じます。同時に、その日が終わり次の日へ移行していく経過でもあります。懐かしさというよりは、もっと瞑想的な状態だと思っています。
――日本の竹や木材、ブロンズなど異なる素材を用いた新作を発表されました。素材を選ぶ際に留意していることとは?
アナスタシアデス:竹に興味を持ったのは、完璧さという概念を見直す必要があるからです。竹は自然に、自発的に育っていきます。1本1本が異なる個体です。自然素材は工業製品のような精密さに、決して従いません。私はそこにどこか癒やしのようなものを感じるんです。創作において、ある素材を極めるためには、何年も技術を学ぶ必要があります。同時に、その素材の限界や特性を尊重しなければなりません。自然素材と向き合うとは、“独自の知性を持つ個”と向き合うことでもあるのです。
――本展を通して、何か新たに発見したことはありましたか?
アナスタシアデス:新しい作品を制作するたびに、いつも新たな発見がありますね。木材やブロンズのようなよく知っている素材は、結果もある程度予測できます。だからこそ、私は常に予測できない素材を探求したいと思っています。未知の素材は、こちらを大いに驚かせてくれるんです。
――今後、挑戦したいことがあれば教えてください。
アナスタシアデス:難しい質問ですね(笑)。とにかく創作活動を続け、新しい発見をしていきたいです。何かを完成させた瞬間、それは次の何かの始まりになりますし、一つのことを試せば、そこからまた新しい探求の道が開かれるんです。
――日本にはあなたの作品のファンがいます。あなたの作品の何が、私たちの共感を呼んでいると思いますか?
アナスタシアデス:日本に対して強く共感するのは、コミットメントの感覚です。物事をきちんとやろうとし、何かに深く向き合おうとする姿勢です。何かを成し遂げたいのならば、自分自身を完全にそこへ投じるべきだと思っています。そうでなければやる意味がない。それはデザインというより、生き方の哲学に近いのではないでしょうか。
◼️マイケル・アナスタシアデス「From Warm Yellow to Saturated Red」
会期:7月4日まで
会場:タカ・イシイギャラリー 京都
住所:京都府京都市下京区矢田町123
営業時間:木〜土 10:00〜17:30
定休日:日〜水・祝祭日