PROFILE: 黒島結菜/俳優
作家・湊かなえの同名小説を映画化した「未来」が5月8日に全国公開された。子どもの貧困、虐待、そして連鎖する悲劇という過酷な現実を突きつける本作で、主人公の教師・篠宮真唯子(しのみや・まいこ)を演じたのが黒島結菜だ。彼女は複雑な家庭環境で育った少女の絶望と希望を描くミステリー作品をどう受け止め、そしてスクリーンに刻んだのか。撮影の裏側から、自身の支えとなっている言葉、自身が想像する「未来」までを深く聞いた。
原作の苦しみの先に見た
わずかな「光」
——湊かなえさんの原作を読まれた際、どのような感想を抱きましたか?
黒島結菜(以下、黒島):正直、胸を締め付けられるような描写が多く、最後まで読み切れるだろうかと葛藤しながらページをめくりました。でも、読み終えたとき、ラストに少しだけ「未来」という名の希望が見えた気がしたんです。この物語を映画化するにあたっては、原作の持つその光を、大切に届けなければいけないと強く感じました。
——黒島さんが演じた真唯子は、原作者である湊さん自身の思いを体現しているような役どころです。真唯子という人間をどう捉えて演じられましたか?
黒島:今の社会は、どうしても人との関わりが希薄になりがちですよね。でも真唯子は、そこを一歩踏み込んで、誰かを気にかけようとする。それは彼女自身が過酷な境遇を経験し、誰かに寄り添ってもらえた過去があるからこそできることだと思うんです。自分の境遇を否定せず、それを糧にして章子(山﨑七海)や文乃さん(北川景子)に寄り添う。そのバランスを大切にしたいと考えていました。
——真唯子は壊れそうな脆さと、つらいことを乗り越えて教師になった強さが共存しているキャラクターでした。演じ分けについては意識されましたか?
黒島:意識的に演じ分けたというより、現場の空気感に突き動かされた部分が大きいです。目の前に、今にも壊れてしまいそうな章子と文乃さんがいて。彼女たちを見ていると「何かしてあげなきゃ」と私自身の心が動くんです。
あとは、松坂桃李さん演じる良太さんとの病院のシーンがあるのですが、そこで交わした会話が、役を作る上での軸になりました。「子どもの未来は、大人がちゃんと守るんだ」という覚悟。大袈裟かもしれませんが、その思いを抱き続けることが、真唯子としての強さに繋がったと感じています。
——瀬々敬久監督作品への出演は「ストレイヤーズ・クロニクル」以来、2作目ですが、今回はどのようなことをお話しされましたか?
黒島:私の役は、原作では複数の教師が登場するエピソードを一つに集約した役割でもあったので、どう表現すべきか事前に監督と相談しました。中でも真唯子という人物はこの物語の軸になる役なので、私はかなり原作のニュアンスを意識して挑みました。
——監督とのやりとりで、現場で印象に残っていることはありますか?
黒島:正直、必死すぎてあまり覚えていないんです(笑)。細かくカットを割って何度もテイクを重ねる現場だったので、集中力を切らさないように取り組むだけで一生懸命でした。
ニュースの「裏側」にある背景を想像する
——現実として日本は「7人に1人の子どもが貧困状態にある」といわれています。作品を経て、ニュースの見方は変わりましたか?
黒島:悲惨なニュースを目にしたとき、その背景まで考えるようになりました。ニュースは事実を速報として伝えますが、その裏には決して報道されない家族の問題や、誰にも気づかれない叫びがきっとたくさんある。それに、ニュースにすらなっていない、まだ発見されていない事件も現実には起きている。そう思うと、周囲にどれだけ気づける大人がいるかが重要で、それこそが救いのきっかけになると痛感しました。
——黒島さんの故郷・沖縄には「ゆいまーる(助け合い)」の文化がありますが、コミュニティー全体で子どもと関わる重要性を感じたエピソードはありますか?
黒島:地元のコミュニティーはやはり人同士の距離感が近く、地域全体で子育てをしている印象が強いです。地元で子育てをしている友人も多いですが、本当にみんなで助け合っていますね。小さな頃からの顔見知りという地縁もありますが、病院への送迎を代わったりと、ごく自然にコミュニケーションが取れているんです。東京でも、そういう温かい距離感が実現できたらいいなと思います。
また、地元の友人に小学校の先生がいるのですが、不登校の子の私生活まで親身に相談に乗っている話を聞くこともあって。今回の教師役を演じる上でも、彼女との日常会話はすごく生きてきました。
——黒島さんご自身が、家族や身近な人からもらった言葉で大切にしているものはありますか?
黒島:仕事がつらかったとき、沖縄の両親が「いつでも帰っておいで」と言ってくれたことは、今でもずっと心に残っています。今は東京で仕事をして子育てをしていますが、「何かあったら帰れる場所がある、待ってくれている存在がいる」というのは、何物にも代えがたい支えになっています。
母となり変化した「未来」への眼差し
——子どもを救おうとする役を演じるにあたり、ご自身も子育てをする身として重なる部分はありましたか?
黒島:私の子はまだ小さいので、手をかけないと生きていけない時期。でも、劇中の子どもたちのように小学生くらいになると、接し方がまた難しくなりますよね。親がいくら気持ちを伝えても、どう受け止めるかは子ども次第。成長とともに付き合い方も変わっていくのだと、改めて感じました。
——親になると、「虐待など子どもが犠牲になるようなニュースがつらくて見られなくなる」という声もよく聞きます。
黒島:私は逆に、意識的に見るかもしれません。目を背けたくなるような現実ですが、なぜそうなってしまったのか、その背景を知ることも大切だと思うからです。
まず、いかなる理由があっても、子どもが犠牲になることは決して許されることではありません。でも、例えば親になることで日々の生活に余裕を失い、社会から孤立して追い詰められてしまう経験は、実は誰の身にも起こり得ることではないでしょうか。
子どもを守ることは第一ですが、親もまた、逃げ場がなくて苦しんでいたり、劇中の文乃さんのようにつらい思いを抱えていたりすることもある。そうした親たちのSOSも拾い、親と子をセットで救っていくような視点を持たなければ、本当の意味で「良い未来」には繋がらないのだと、この作品を通して強く感じました。
「見られている」という意識が大人を律する
——これからの子どもたちの未来のために、私たち大人が意識すべきことは何だと思われますか?
黒島:子どもって、本当に大人のことをよく見ているんですよ。うちの子どももそうですし、私自身も幼少期や10代の頃は、大人の振る舞いを敏感に察知していた気がします。だから大人がもう少し「子どもに見られている」という自覚を持つ必要があると思うんです。映画で共演した章子役の山﨑さんが私を見る目は、本当に射抜くように鋭かった。「あぁ、私は見られているんだ、ちゃんとしなきゃ」と思わされました。子どもと向き合って言葉をかけてあげることも大事ですが、大人がどう生きているか、その背中を意識するだけで伝わるものがある気がします。
——本作は「20年後のわたし」から手紙が届く物語。20年後の自分から、今の自分に手紙が届くとしたら、何と書いてあってほしいですか?
黒島:「もう大丈夫だよ」ですね。「自分を信じてやっていれば大丈夫」と言ってもらえたらうれしいです。
——黒島さんにとって「未来」という言葉は明るく響くものですか?
黒島:そうだとうれしいですが、最近は自分自身の未来というものが想像しにくくなってきました。こうなりたいという理想はあるけれど、「未来」という言葉のイメージは、自分よりも子どもたちの世代のことを考えるようになってきています。これからを生きていく子どもたちが、より良く過ごせる未来をちゃんと作っていきたい、というのが今の思いです。
——最後に、この作品を観る方へメッセージをお願いします。
黒島:私自身、社会を良くしたいという大きな志はもちろんありますが、まずは自分のそばにいる人に優しくすること、そして自分自身が健康でハッピーでいること。それが周囲に伝わっていくことで、その連鎖が世界を良くしていくと信じています。自分たちは誰かを救える存在であると同時に、誰かに助けられている存在でもある。この映画が、誰かの支えになったり、隣の人に声をかけたりする小さなきっかけになればうれしいです。
PHOTOS:TAKUROH TOYAMA
STYLING:SHOGO ITO(sitor)
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映画「未来」
◾️映画「未来」
5月8日から全国公開中
出演:黒島結菜
山﨑七海 坂東龍汰 細田佳央太 近藤華
松坂桃李 北川景子
原作:湊かなえ「未来」(双葉文庫)
監督:瀬々敬久
脚本:加藤良太
製作幹事:東京テアトル U-NEXT
配給:東京テアトル
企画・制作プロダクション:松竹撮影所
PG-12
Ⓒ2026 映画「未来」製作委員会 Ⓒ湊かなえ/双葉社
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