「多面的で複雑な現代の女性たちが、この世界の中でどのように自分自身を取り戻していくかという、よりパーソナルな視点を表現した」。そう語るサラ・バートン(Sarah Burton)にとって3度目のショーとなる「ジバンシィ(GIVENCHY)」の2026-27年秋冬コレクションは、就任以来メゾンの原点として探求してきたシルエットやカッティングという基盤を生かしながら、より豊かな表現への発展を見せた。それは、「ジバンシィ」が今を生きる女性たちが求めるエレガンスをけん引する存在へと完全に返り咲いたことを印象付けるものだった。
ショーは、女性が持つ多面性や多様な女性像を映し出すかのように、力強く精緻なテーラリングと官能的でフェミニンなスタイルが行き来するように進んでいく。サラ自身の強みでもあり、これまでも注力してきたスーツをはじめとするテーラリングは、提案の幅を拡大。ラペルやカラーを反転させるようにアレンジしたジャケットやシャツにバレルシルエットのトラウザーを合わせたファーストルックに始まり、厳格なムードが漂うダブルブレストのスーツとチェスターコート、片方だけオフショルダーでセンシュアルにまとうシングルブレストのチェスターコート、生地を折り畳むことで絞ったウエストからペプラム状の裾が広がるアワーグラスジャケットやピーコートなどが登場した。
そんなテーラリングをできる限り軽く仕上げることにこの数シーズン取り組んできたという彼女は、「私が好きなのは、柔らかさと構築性のバランス。パターンは全てウィメンズウエアのアトリエで手掛け、それをメンズウエアの仕立ての手法で構築している。そうすることで、ジャケットは女性的なシルエットになり、体に優しく沿いつつも締めつけることはない。ただメンズのアトリエで制作しているので、メンズウエアのように芯地があり、とてもシャープなラインを描くことができる」とこだわりを明かす。
一方、女性の体を美しく見せるフェミニンなスタイルは、太ももまでスリットを入れたセンシュアルなロングドレスやスカートを筆頭に、ニットジャカードのフレアドレスやキャットスーツ、優雅なドレープが揺れるベルベットのホルターネックトップスやドレス、テーラリング同様の前後反転したようなネックラインを取り入れたアシンメトリーなデザイン、繊細なレースの上に立体的なコード刺しゅうを載せたミニドレスまで。サラのシグネチャーといえるボウ(結び目)のディテールと、黄色や青といった鮮やかな色がアクセントになる。また、目の粗いニットボディーにリボンを通して飾ったデザインや黄色と白のジャカード生地は、サラが長年共に働いてきたアレキサンダー・マックイーン(Alexande McQueen)による「ジバンシィ」時代のアーカイブから着想したものだという。
今季は、ルックにパーソナルなタッチを加えるアクセサリーも充実した。バッグでは、サラのビジョンを反映したハンドバッグ“ザ・スナッチ“のサイズ展開が広がったほか、マシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)時代に生まれた“ヴォワイユー“をハンドル付きの巾着型でアップデート。よりエレガントな印象に進化させている。シューズも、ウエアとリンクするポンポンやボウ付きのミュールから、メタルパーツをあしらったローファーやサイハイの“シャーク“ブーツまでをそろえる。また、一際目を引いたヘッドピースは帽子デザイナーのスティーブン・ジョーンズと共に手掛けたもので、実はTシャツの一部を留めて成形している。さらに切り落としたジャケットの袖が手首にたまる様子からヒントを得たバルーンパーツ付きのグローブや存在感のあるジュエリーもスタイルを完成させる上で大切な要素になっている。
そして、あふれんばかりのクリエイティビティーを示すかのように、中盤から終盤にかけてアトリエのテクニックを駆使した壮大なアイテムがいくつも登場する。例えば、創業者のクチュールアーカイブから着想したレオパード柄は、総ビーズ刺しゅうのドレスや粗い毛並みのファーライクなコートに。絵画のような色とりどりの花モチーフの刺しゅうは一部が糸のような長いフリンジになり、ドラマチックに揺れる。また、シルバーのレースリボンをあしらったベルベットドレスや端正なスーツスタイルには大きなボウを大胆に加えた。そのため息が出るほどの美しさと完成度の高さからは、そう遠くない未来のクチュール復活を期待せずにはいられない。