ファッション

美術の世界で新たな時代を創造する担い手を発掘する「TARO賞」展をリポート

「第29回岡本太郎現代芸術賞(以降、TARO賞)」展が川崎市岡本太郎美術館で3月29日まで開催されている。同展は年に1度、岡本太郎の意志を受け継ぐ作家たちが一堂に会すし、600を超える応募の中から21組の作家が選ばれた。ゲスト審査員に現代美術家の福田美蘭を迎え、厳正な審査のもと、美術のアカデミズムから距離を置き、有名・無名を問わず選出される。大賞の岡本太郎賞には200万円が、岡本敏子賞には100万円が贈呈された。明日の美術史を彩るニューフェイスと会場の様子をリポートする。

当日の授賞式の会場は異様な緊張に包まれていた。それもそのはず、600点を超える応募作品の中から、この日岡本太郎賞(1点)や岡本敏子賞(1点)、特別賞が選ばれるのだから。この第29回のTARO賞のあと、3年間の工事に伴い一時、会場である美術館が閉鎖される。一同が固唾を飲んで見守る中、審査員による講評が行われ、特別賞は6組選ばれた。

講評を行う審査員の一人、和多利浩一ワタリウム美術館キュレーター

3.11から今日までを1コマずつ描いた作品が大賞を受賞

今回、高田哲男の「FUKUSHIMA5000」が岡本太郎賞を受賞した。東日本大震災から15年の日数(5440日)を、同じ枚数のイラストで表現した圧倒的な作品だ。

審査員の椹木野衣は、「震災から15年という言葉を打ち破って、巨大な力になって私たちに警鐘を鳴らし続ける」と評した。365日×15年という計算では5475日になるが、高田が描いたのは5440枚。その差35日は、震災当日から展覧会開幕日までを正確に数えた結果だ。「日々の一日一日の出来事の積み重ね」を可視化したこの作品は、抽象的な「15年」という時間を、圧倒的な物量として提示する。

高田自身は福島出身ではない。震災直後、宮城県石巻にボランティアとして通っていたが、立入禁止区域だった双葉町や双葉郡には足を踏み入れていなかった。2018年、たまたま浜通りを経由して宮城県へ向かおうとした際、人の気配がない街の現状を目の当たりにし、「自分は何も知らなかった」と痛感したという。23年、立入禁止区域が解除された後に再訪すると、5年前と変わらぬ風景が広がっていた。その時、「自分なりの福島との向き合い方がある」と確信した。

「流し目でもいいから、断片を見て欲しい」

地元の復興担当者や双葉町役場の職員にこの構想を話すと、真剣に耳を傾けてくれた。「復興」「廃炉」「住民の避難」「国としての電力供給」—これらを一つにまとめて分かりやすく表現するのではなく、細分化し、文字ではなくイラストで表すことで俯瞰できるのではないか、と高田は考えた。「流し目でもいいから、断片でもいいから見てほしい」。一枚一枚は小さくとも、積み重なることで福島の現状と希望が見えてくる。

受賞については「僕個人がいただいたのではなく、双葉町や双葉郡で生活している方、復興に従事している方、廃炉作業をされている方々の思いも含めていただいた」と語る。この作品は、福島の人々の協力と理解なしには実現しなかった。日々を積み重ねる営みの尊さを、5440枚のイラストが静かに、しかし力強く物語っている。

岡本敏子賞には自身の鬱の体験から蘇った強烈な作品に軍配が

岡本敏子賞を受賞した馬場敬一は、自身の鬱体験から得た死生観をベースに、「描き、破壊し、再構築する」プロセスを映像と作品で表現した。

ゲスト審査員の福田美蘭が「最も強烈なインパクト」と評した通り、負のエネルギーを正へと転じさせるその執念は、観る者の魂を揺さぶる。圧倒的な作品の熱量はぜひ、会場で体験してみてほしい。

自身のルーツと仏教感を世に問い直す

入選作家にも魅力的な展示が多い。筆者が気になったのは、自身が浄土真宗のお寺の後継ぎであるという宿命と、ロンドンで学んだ現代美術の感性を衝突させた、德本道修の「New Western Paradise」だ。

作家として今回が初のトライとなるが、応募の契機について「ロンドンで学んだことを詰め込んだこの作品を、日本の批評家たちがどう捉えるのか見てみたかった」と德本は語る。従来の伝統的な仏教声楽である声明(しょうみょう)を組み替え、再編成して作曲された音楽と映像。男性僧侶ではなく、家父長制的世界に生きる坊守(お寺に嫁いだ女性たち)による唱和から感じられる異形の慈悲の気持ちは、德本にとって作品の核心的なエッセンスだ。仏教という自身のルーツと向き合いながら、現代美術として問い直す試み。その誠実な姿勢が、会場に静かな緊張感を生み出していた。

そのほかにも作家が作り上げた作品群は、それぞれの必然性と業に向き合うような力強いものばかり。そのどれもが徳本さんと同様に、それぞれの人生の生き様を投影した作品ばかり。惜しくも特別賞や入選止まりとなった人の中にも日本美術史に名を残してきた作家が何人もいる。

福田は審査について、「美術のアカデミズムからどれだけ距離を置けるか、どのように踏み外すかという面白さ」を重視したと語る。今回の展示に共通するのは、作品に残る強烈な身体性だ。「今の時代はデジタルな情報に頼らざるを得ないが、美術を作る上で身体性は重要。ただし、それが最初に見えてきてはいけない。身体性を突き飛ばすことによって、作家のものの見方や考え方がドーンとこちらに来なければならない」。

高田が15年の歳月を可視化したように、あるいは馬場が絶望の中から再生を試みたように。今回のTARO賞に共通していたのは、「一度壊れた場所から、いかに新しい現実を積み上げ直すか」という、切実なまでの“生”のエネルギーだった。

岡本太郎はかつて「芸術は爆発だ」と説いたが、それは単なる破壊ではない。破壊のあとに残る更地に、自らの手で最初の一歩を記す勇気のことだ。まさに混沌とする時代。2026年の今、私たちはこの会場に集まった「ベラボーな」熱量の中に、明日を生き抜くための確かな手触りを見出すことができるだろう。

■「第29回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)」展
会期:1月31日〜3月29日
時間:9:30〜17:00(入館16:30まで)
場所:川崎市岡本太郎美術館、公益財団法人岡本太郎記念現代芸術振興財団
住所:神奈川県川崎市多摩区枡形7-1-5
入場料:一般700円※詳細は公式サイトで要確認
公式サイト>>

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

yutori  カリスマ率いる「若者帝国」が描く、「王道の成長曲線」

「WWDJAPAN」2月16日号は、「yutori特集」です。yutoriと聞くと、どういった印象を思い浮かべるでしょうか。創業者である片石貴展(たかのり)社長による異様とも言える情報発信力、Z世代を中心としたカルチャー感度の鋭い層への浸透、SNSでの圧倒的な存在感、そして“若さを武器にしたブランド集団“――そんなイメージが真っ先に浮かぶ人も少なくないはずです。しかし、yutoriの躍進は単なる流…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。