生産拠点を和歌山に持つ大阪のテキスタイルメーカー東紀繊維は2024年8月にGOTS認証を取得した。現在、自社の編立工場のアイガットと染色工場のフジボウテキスタイルとユニットを組み、染色工程まで認証所得が可能だ。染色工程まで含めたカットソーは国内初。東紀繊維の売上高は20億円(2025年1月期)。年によって変動があるものの海外売り上げが3~5割程度を占め、その9割が欧州のハイエンドブランド向けだ。
東紀繊維が認証取得に動き出したのは23年12月。安宅英宣社長は当時をこう振り返る。「私たちは創業当初から『環境に配慮したものづくり』を重視してきた。そうした理念のもと、すでにOCS認証は取得していたが、GOTS認証についての話をヨーロッパで耳にすることが多くなった。また、当時は日本でキバタから染色までの工程をカットソーでGOTS認証を取得している企業がなかったため取得に踏み切った。分業が進んでいる日本での単独取得には限界があるが、各工場と協力しながら認証を取得するのが当社の方針だ。また、会社としてのイメージアップ、つまりブランド価値を高めるために必要だと考えた」。
「これまでやってきたことを“正式に形にした”感覚」
取得に際して最も大変だったのは労働基準や環境方針、デューデリジェンスの整備だった。取得に向けて動いた大下智輝担当は「中小企業のため、明確化されておらず、GOTSの要求事項に習って改めて社内整備を行った。特にデューデリジェンスは取得に動き出したときに規定が変わり新たに追加された項目で、前例がなかった。内容を理解してゼロから取り組む必要があった」と振り返るが、実感としては「認証取得のために新しいことを始めたというよりも、これまでやってきたことを“正式に形にした”という感覚に近い」と加える。
「すでに取得していた『OCS(オーガニック・コンテンツ・スタンダード)』は『オーガニックコットンを使っているかどうか』を重視した認証で、GOTSはそれをもう少し厳しくした形だと想像していた。しかし、実際に準備して書類を整え、審査を受けてみると、オーガニックコットンを使っていることは大前提で、その上でより重視されたのは、会社としての社会的責任や環境・労働面への取り組み。つまり、『この会社は本当に健全な運営をしているか』という点が問われた。これまで私たちは暗黙の了解のように“まっとうに仕事をする”という姿勢を大切にしてきたが、認証を通してそれをきちんと文書として残し、ルールとして明文化したという印象だ」。
日本では、GOTSの認証薬剤リストにある編みや染色で使用する薬剤や機械油などの販売ルートがなく入手が難しい。「幸い協力いただいたフジボウテキスタイルさんの社員の方が、認証の要求事項や薬剤について熱心に調べて取り組んでいただき、大変助かった」。協力者の存在は大きかった。
GOTS認証を取得したことで国内の同業者や染工場などから意見を求められる機会が増え、プルミエールヴィジョンやミラノウニカといった海外の素材見本市ではGOTS認証を取得していることで初めて商談につながることもあるという。実際今年度はGOTS認証付き生地の注文が、ヨーロッパ中心に増加傾向にあるという。
「企業経営は“掛け算”のようなもの。付加価値のある商品をつくらないと生き残れない」
今後について安宅社長はこう語る。「“難しい業種”だと感じている。アパレルの国産比率が1.4%で非常に低い状況で、衣食住の“衣”という、人の生活に欠かせない分野ではあるが、産業全体が厳しく、低空飛行が続いているというのが現実。毎年人件費などのコストは上がり、人材の確保は難しくなってくる。特に中小企業は、大手以上に賃金を上げていかないと人が集まらない、厳しい状況にある。経営は、お金だけでなく“人”がいてこそ成り立つ。だからこそ、どうやって人を惹きつけるか、そのためにどんな商品を生み出すかを考え続ける必要がある。企業経営は“掛け算”のようなもの。限られた資源の中で付加価値のある商品をつくっていかないと生き残れない。言葉にすれば簡単だが、そこが一番難しい」。
安宅社長は近年の繊維産業で1社ではなく産地として動き出すところが出てきていることをどう見ているのだろうか。「皆が一つになって動けたら、それが一番強いと思う。でも、なかなか“横のつながり”や“縦のつながり”をつくるのが難しいし、いくつかの企業が縦にしっかり連携していくような仕組みがないと、横の連携だけでは続かない。生産背景や機械の環境も会社によって全く異なるため、生地を一つつくるにしても、風合いや仕上がりの方向性がまるで違う。だから僕は“縦のつながり”の方が重要だと考えている。今のユニットのような形――生産の各工程が有機的につながる体制の方が、結果的には強くなるのではないか。職人同士が技を持ち寄り、海外のトップレベルのものづくりとも肩を並べられるような関係を築いていくことが日本全体としても強くなれると考えている。まあ、この歳になってくると、どこまで正しい判断かはわかりませんけどね(笑)。でも、そういう方向に向かうべきだと考えている」。