フランス国立モード芸術開発協会が主催する2025年「ANDAMファッション・アワード(ANDAM Fashion Award以下、ANDAM賞)」のグランプリに、メリル・ロッゲ(Meryll Rogge)が手掛ける「メリル ロッゲ(MERYLL ROGGE)」が輝いた。また、準優勝に位置付ける特別賞には、アラン・ポール(Alain Paul)による「アランポール(ALAINPAUL)」を選出した。
グランプリのロッゲには賞金30万ユーロ(約4320万円)、特別賞のポールには同10万ユーロ(約1440万円)が授与される。また、二人には、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)のベルナール・アルノー(Bernard Arnault)会長兼最高経営責任者の相談役で、今年度の審査員長となったシドニー・トレダノ(Sidney Toledano)による1年間のメンターシップを受ける権利が贈られる。トレダノ相談役は、ANDAMの創設メンバーの一人であり、フランス・モード研究所(Institut Francais de la Mode)のプレジデントを務めている。メンターシップはクリエイティブとビジネスの両方について学べる内容を予定している。
また同10万ユーロ(約1440万円)を獲得するピエール・ベルジェ(Pierre Berge)賞は、ブルク・アクヨル(Burc Akyol)によるジェンダーレスブランドの「ブルク アクヨル(BURC AKYOL)」が受賞した。13年にグランプリに輝いた「アミ(AMI)」のアレクサンドル・マテュッシ(Alexandre Mattiussi)=創設者兼クリエイティブ・ディレクターのメンターシップを受ける予定だ。
アクセサリー賞は、ベルギー出身のサラ・レヴィ(Sarah Levy)による自身のブランド「サラレヴィ(SARAHLEVY)」が獲得。レヴィは「パトゥ(PATOU)」のレザーグッズも手掛けている。賞金10万ユーロ(約1440万円)と「ロンシャン(LONGCHAMP)」のソフィ・ドゥラフォンテーヌ(Sophie Delafontaine)=クリエイティブ・ディレクターによるメンターシップを受ける。
イノベーション賞は、フランス・ネール市を拠点とするファッションテック企業のロザンジュ(Losanje)が5月に受賞。同社は、ブランドの循環型テキスタイル活用の推進を支援している。
上位2ブランドは賞金で念願のD2Cに注力
グランプリ受賞のロッゲはベルギーのヘント出身。幼少期にイラストレーターの夢を持っていた彼女は、アントワープ王立美術アカデミーのファインアート科に進学し、2008年に卒業。ニューヨークに移住後、ファッションの道を志した。「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」ではリードデザイナーを務め、7年間のキャリアを積んだ。14年にアントワープに戻り、「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」でウィメンズデザインの責任者を務めた後、20年に独立。21年以降は、プレゼンテーション形式でコレクションを発表していたが、25-26年秋冬シーズンの今年3月に初めてショー形式で披露した。ロッゲ自身、「最も完成度の高いコレクション」と語り、今回の審査にもその一部を提出した。
「ANDAM賞」では昨年ファイナリストに選出され、24年度のベルギー・ファッション・アワード(Belgian Fashion Awards)では、女性として初めて「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。さらに、25年度のインターナショナル・ウールマーク・プライズ(INTERNATIONAL WOOLMARK PRIZE)でもファイナリストに選ばれている。また、いくつかの作品が「モードミュージアム・アントワープ(MoMu Antwerp)」やブリュッセルにある「ファッションとレースのミュージアム(Fashion & Lace Museum)」に収蔵された。デュア・リパ(Dua Lipa)やクロエ・セヴィニー(Chloe Sevigny)、リアーナ(Rihanna)らセレブリティーも着用し、その実力は広く認めれている。
ロッゲは「正直なところ、昨年から大きく変えたところはない。ただ、昨年に比べると進化し、成長したと感じている。私たちは毎年ステップアップしている。きっとこれから大きな飛躍につながるだろう」とコメントした。賞金の使い道については、「すでに決まっている」と念願だったECの立ち上げについて話した。「ウェブサイトへの閲覧数やDMの数は多くあったが、対応しきれていなかった。大きなチャンスになる」。さらに、同じアントワープ王立美術アカデミー出身の坂部三樹郎ディレクターによるシューズブランド「グラウンズ(GROUNDS)」とのコラボレーションも控えているとし、アクセサリーの開拓も進めている。
特別賞を受賞したポールも消費者と直接つながるD2Cへの開拓を考える。「ヴェトモン(VETEMENTS)」や「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」で10年間キャリアを積んだ経験を経て、23年に夫のルイス・フィリップ(Luis Philippe)と自身のブランドを設立した。フィリップは、「(ECでのフィードバックがあれば)顧客が求めるコレクションに計画的にフォーカスすることができる」とし、資金難のため保留となっていたEC事業に9月にも着手したいと話した。ポールはLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)による25年度「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE以下、LVMHプライズ)」のファイナリスト8組にも選出されている一人で、9月のグランプリ発表にも注目が集まる。
授賞式に登壇したアクヨルは、ピエール・ベルジェ賞の受賞に驚きを隠せない。「予想外だった。審査時に、職人技の重要性について話したことが響いたようだ。いまの業界では、“プロダクト(製品)”について忘れがちで、その言葉を使用することを醜いと考える人もいるが、私は違う。“プロダクト”は私たちの仕事の核心だから、その思いで勝てたことをとてもうれしく思う。今回、メンターを受ける『アミ』はビジネスで成功したブランドであり、“プロダクト”のための場所があるという事例をつくってくれたブランドだ」。
LVMHで長年にわたってさまざまな要職を務めてきたトレダノ相談役は、グループブランドの「マーク ジェイコブス」で働いていたロッゲや、「パトゥ」に携わるレヴィの活躍ぶりを見ていたと話す。一方で、「LVMHプライズ」を通じて、昨年度のファイナリストに選ばれたアクヨルと今年度のファイナリストのポールについて知ったという。「今回受賞した4つのブランドは、すでに一定の規模に達しているものの、私たちの支援を必要としている。これまで自分たちの力で成長してきたが、さらなるステップアップを考えている。その力添えになれるだろう」。