ファッション

“出る杭”をキャッチーに 若者を惹きつける新興メディア「ニュート」の力

 時代の変化と共に、ミレニアル世代がメディアに求めるものも変わってきている。そんな若者たちに密かに、しかし根強く支持されているのがウェブマガジン「ニュートマガジン(NEUT MAGAZINE)」だ。同メディアはニューヨークを拠点にユースカルチャーなどの情報を発信する「ヒープス(HEAPS.)」の姉妹媒体「ビーインスパイアード(Be inspired!)」としてスタートし、18年10月に「ニュート」にリニューアル。“Make Extreme Neutral(エクストリームをニュートラルに)”を掲げ、セックスや政治、人種などにおいて同メディアが“エクストリーム”だと考える人々を取り上げている。他メディアにはない新規性や、キャッチーさを持つコンテンツでファンを獲得し、コミュニティーを形成。18年10月にボーリング場の笹塚ボウルで行ったイベントでは、約500人が来場し、同会場最大規模のイベントとなったという。なぜ、「ニュート」は若者を惹きつけることができるのか?平山潤編集長によるリニューアルの経緯から編集方法、そして読者との関係性についての話からその理由を探った。

WWD:「ビーインスパイアード」から「ニュート」へとリニューアルした経緯は?

平山潤「ニュート」編集長(以下、平山):もともとは「ヒープス」のウェブ流入を増やすためにスタートした「ビーインスパイアード」ですが、徐々に編集体制が整い、「ヒープス」と少し毛色が違う媒体になってきました。「ヒープス」はサブカルチャーやカウンターカルチャー、海外のミレニアルズが題材。一方で、僕たちは社会情勢などを背景に、どうやって若い人たちがクリエイティブなアウトプットができているかを取り上げてきた。そこで自分たちがやっていることを体現できる媒体名にしたいと考え、ウェブサイトがリニューアルするタイミングで名称を変え、新たにスタートすることにしました。

WWD:「ニュート」という名前の由来は?

平山:新しさの“ニュー”と、何にも偏らないさまを示す“ニュートラル”の意味を込めています。媒体のシンボルは、名前と一文字違いの“NEWT(イモリ)”です。一風変わった仕事や環境、アイデンティティー、セクシャリティーなどのマイノリティーを排除しない視点を持ち、多様性を生むことを指針にしています。媒体の名前からイメージがつきやすいと、読者のバイアス(偏見)がかかってしまう、ニュートラルと大々的に打ち出すと政治的な要素が強まってしまう、などいろいろなことを考えた末に「ニュート」になりました。媒体のコンセプトを強く出し、ファンを付けやすくしつつも、いい塩梅に意味が分からない媒体名になったのかな、と思っています。

WWD:編集部の体制は?

平山:僕以外には現在、1991年生まれの女性、93年生まれの男性と女性の計3人が編集部にいますが、全員がいろいろな人たちの考えを踏まえて情報を発信していきたいと考えています。カルチャーっぽいけど、社会問題の文脈を踏まえていたり、自分なりに勉強していたり。ファッションやカルチャーに社会問題などを結び付けて情報を発信していくスタイルが自然と身についているんだと思います。そういった人たちがたまたま知人のつてでインターンで入り、自然と編集部のメンバーになっている。編集部に限らず、表層的なものよりも、もう少しアカデミックに語ったり、考えたりできる方がクールだという欧米では主流の価値観を持つ若い人たちが日本で増えている気がします。

WWD:他媒体では取り上げていないような人やトピックを取り上げている印象だが、取材対象はどのように決めている?

平山:基本的には人のつながりがメインです。有名無名は関係なく、自分たちの知り合いや、人づてに知り合った人がほとんど。そういった人たちと実際に会って話してみて、相手が「ニュート」の考え方に共感してくれた上で、僕らが取り上げられそうだな、ビジュアルを一緒に作れそうだなと感じた時に出てもらっています。意識的に人を探しているというよりは、この人面白いんじゃないか、「ニュート」に合うんじゃないかと周囲の人が紹介してくれることが多いですね。

WWD:実際に会うことを重視している理由は?

平山:実際に会ってみないと分からないことも多いと考えていて。例えば他媒体やSNSで見つけた情報をもとに、「この人面白そう」とすぐに取材しても、ネタ元の媒体以上の情報は引き出せないかもしれない。実際に会ってみて、本当に面白いのか、「ニュート」で取り上げる必要があるのかを判断したうえで編集会議の際に議題として上げてほしいとメンバーにも言っています。1記事を作るのに普通の2倍くらい時間がかかることもありますが、記事として面白くするためには必要なことだと思っています。

WWD:記事作りの際に心掛けていることは?

平山:全体的なことでいうと、読者がアイデンティティーを見つめ直すきっかけになれる記事ですね。記事では、取材対象者の方の背景や原体験を深めるように心がけています。「ニュート」では社会問題を取り上げることが多いんですけど、社会問題について考えてほしいというよりは、「こんなに面白い人がいる。じゃあ自分には何ができる?」という想像をしてもらいたくて。記事を読んで、自分のやりたいことが見つかり、何かアクションを起こせれば面白い。その手前のきっかけを作るのが「ニュート」の役割だと思っています。

WWD:記事で使われている、フィルムのような風合いの写真なども印象的だ。

平山:写真は全てフィルムで撮っています。カルチャーやファッションが好きな感度の高い人たちが、「写真がかっこいいから」と興味を持ってくれればいいなと思っています。単に編集部のメンバーが好きなだけかもしれませんが(笑)。文章も、だれでも読めるように平易な言葉遣いにし、難しい用語などがあれば説明文やキャプションは必ず入れています。取り扱う内容もサブカル過ぎず、専門的過ぎない。みんなのためのマガジンを作っていければと思っています。

WWD:1月からは特集を組み、関連したアート展などのイベントも行っている。

平山:特集を組んだのは、媒体としての色を出すためです。垣根なく情報を発信しているので、読者が「ニュート」は何をやっている媒体なのか、疑問に思ってしまう可能性もあったので。特集と絡めたイベントは、読者との会話を通じて、特集に対する反応を見てみたかったから。さらに、イベントでは僕たちがファンと出会うことはもちろん、ファン同士が繋がることも重視しています。出会えば気が合うかもしれないのに、会うきっかけがないのはもったいない。「ニュート」のスコープを通じて、いろいろな人たちを繋げていくことができれば、新しいムーブメントが起こせる。さらに、企業の方にとっても若い人たちの発掘になるはず。「ニュート」と企業、そして取り上げた人たち全員がフラットな関係になっていく。今後は媒体とクライアント、読者の関係性が変わっていくんじゃないかなと考えています。

WWD:イベントなどを行うようになってから、記事本数を絞った印象があるが、その目的は?

平山:今はファンと向き合うために、1本1本の記事をしっかりと作り、編集も記事以外にもいろいろと他のことを回すことにしています。例えば雑誌を買ったときに、全ページをしっかりと読み込む人ってそこまで多くないと思うんです。単に記事を増やすよりも、一つのコンセプトをもとに、最近始めたラジオや動画、イベントなど、アウトプットの方法を変えていった方がいいのかな、と考えています。今まではウェブマガジンとしての見せ方しかできていなかったので、イベントだったり、紙媒体だったりとさまざまな実績を作っていく必要性を感じています。記事自体にもグラフィックなど、写真以外のクリエイティブを見せていくつもりです。

WWD:今後は「ニュート」をどのように運営していくつもりか?

平山:今までの「ニュート」にはビジネスの感覚が欠けていたので、強化しなければいけないなと考えています。ただ、広告色が強すぎて読者に不親切になるようなことがないよう、クライアントとフラットな関係で記事やイベントを一緒に作っていきたい。媒体外でも、企業のニーズに合わせたサービスを作ったり、「ニュート」で培ってきたコミュニティーを使った企業向けのサービスを少しずつでも考えていきたいです。あとは購読システム。10代の読者も徐々に増えてきている中で、決済などが障壁にならないようなモデルを考えていく必要があります。

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