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サステナビリティって何? 専門家が答えます。連載Vol.17 タンパク質で何でも作れる!? スパイバーの関山代表が語るその可能性

 サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――といわれる一方で、具体的に何をどうしたらいいのか分からないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞きその解決策を探った。今回は人工構造タンパク質素材を開発するバイオテックベンチャーとして世界から注目を集めるスパイバーの、関山和秀取締役兼代表執行役に聞く。

 スパイバーは、遺伝子工学を駆使して合成したタンパク質を微生物による発酵プロセスで製造した“ブリュード・プロテイン”を開発し、すでにナイロンのような長繊維やカシミヤ風の原毛、さらには自動車のドアパネルやクッションシート、人工毛髪やスケートボードの試作品を提案してきた。そして12月には、ゴールドウインと共同開発した“ムーンパーカ”を50着限定で販売。この人工構造タンパク質素材は山形県鶴岡市のパイロットプラントで生産されたもので量産には至っていないが、21年にはタイにプラントが完成して商業生産が可能になる。“ブリュード・プロテイン”はどれだけサステナブルなのか。

化石資源に頼らない
循環するモノ作り

WWD:なぜ人工構造タンパク質なのか?

関山和秀取締役兼代表執行役(以下、関山):当社が開発する人工構造タンパク質素材は、ニーズに応じて特長を分子レベルでデザインできるので、将来的にはナイロン調やポリエステル調のようなさまざまな素材が作れるようになる。原料を石油などの化石資源に頼らない新しい素材としてサステナブルな社会の実現に向けて貢献できると確信している。そして、人間の産業や社会も地球規模で見ると生態系の一部であり、物質が自然の生態系の中で循環していく仕組みを作るのが合理的。なので、地球上の生態系のバランスに即して循環できるサイクルのなかで、化石資源に頼らずモノ作りをすることは必然かつ必要なことだと考える。

そして、できるだけいいエネルギー効率やいい調達方法を考えるのが人類や社会全体のサステナビリティにつながる。サトウキビから採れる糖分などを原料として使い、タンパク質を微生物で精製することはエネルギー効率の面から見ると非常に優れていると考える。

地球の生態系のバランスは、重さでいうと82.5%が植物、17%が微生物、残りの0.5%が動物とされている。植物は太陽エネルギーを用いていろいろな有機物を作り、植物が作った有機物を微生物などが食べて自分の栄養にしている。なので、エネルギー効率が高いのはまず植物で、その次が微生物、動物は個体が増えるのも維持するのも効率が悪いということになる。つまり、タンパク質を動物から採取するのではなく、地球上により多く存在しエネルギー効率のよい微生物を使って生産することは生態系のバランスにも即し、非常に有効かつ合理的だ。

WWD:スパイバーが製造に成功した“ブリュード・プロテイン”は、遺伝子工学などを駆使して合成タンパク質を微生物の発酵プロセスで作ったものだそうだが。

関山:タンパク質は20種類あるアミノ酸の組み合わせでできており、当社はニーズに応じてその配列をデザインする技術を駆使し、ナイロンのような長繊維からカシミヤ風のソフトタッチの繊維、石油由来ではない樹脂(プラスチック)やフィルムなどを作ることができる。

WWD:既存の製品と環境負荷を比べると?

関山:例えばウールやカシミヤのセーター1枚作るために、羊やヤギの毛が3~4頭分程度必要。理論上“ブリュード・プロテイン”では、微生物発酵させた培養液が風呂おけ1杯分あれば、1時間程度でセーター1枚分に必要なタンパク質ができるので生産効率が非常に高いといえる。ヤギや羊を飼育するのには、土地と水が必要だし草なども食べる。メタンガスも出す。一頭一頭では少なく見えても、数百万頭というスケールになると実は温室効果ガスへのインパクトは非常に大きい。

「人工構造タンパク質の魅力は
多彩な素材や製品を
作ることが可能な点」

WWD:原材料の生産が製品の環境負荷全体の7割を占めるといわれているし、人口増加や気候変動で土地が足りなくなるという問題も出てくる。そうはいっても全ては置き換えられない。残すべき仕組みや素材は?

関山:われわれは糸までしか作らない。できるだけ既存のサプライチェーンの加工技術や生産技術を用いるに越したことはないからだ。設備を新設するのは環境負荷もかかるしもったいない。ポリエステルは使い勝手がいいし、安い。製造プロセスも超合理化されている。これを今からゼロにするのは非現実的だしその必要もない。肌着だってやっぱりコットンやシルクなどの天然素材がいい。問題はいろんな材料を混ぜて使うとリサイクルしにくくなること。同じタンパク質から多彩な素材や製品を作ることが可能な点も人工構造タンパク質の魅力だ。

「使い終わった後の再資源化も
中長期的には可能」

WWD:少し気が早いが、商品を使い終わった後のことについて教えてほしい。“ブリュード・プロテイン”製の製品はどのように捨てるのがベストか?また、ケミカルリサイクルなどで再資源化することは可能か?

関山:ブリュード・プロテイン自体は次の発酵プロセス用に再資源化することは中長期的にはできるようになると考えている。その場合、他の材料、特に石油系の合成繊維と混ぜると分離するのにコストがかかる。ゆくゆくは再資源化に向けた技術や仕組み、施設などの整備が不可欠になるだろう。

一方で、今、ようやくTシャツや“ムーンパーカ”になって少量が提供できるようになったが、誤差のような小さな規模感。たとえタイのプラントが完成してもそれは同じで、この規模感でリサイクル技術の開発に投資しても対費用効果が合わない。

WWD:自動車のドアパネルにも用いているものは複合素材だ。

関山:アパレルと自動車では考え方が違う。輸送機器として使われた後にどうリサイクルされるかよりも、車が走り続けるために必要なエネルギーの方がライフサイクルで考えると大きい。例えば、われわれの材料を少量変換することで自動車一台の何%かは軽量化できる。自動車が1%軽量化されると、1%燃費がよくなるといわれている。自動車のドアを鉄から繊維強化プラスチックに変えることができれば10~20%軽量化でき、これが実現すればかなりのインパクトになる。

今、全産業の温室効果ガス排出量をセクター別に見ると、輸送が3分の1以上で一番大きく、その大半が自動車。自動車は動かすにもエネルギーがたくさん必要だから、少しでも軽くできるとインパクトは大きい。トータルのCO2をどれだけ削減できるかの方が、再資源化や資源循環の課題よりも大きな効果をもたらす。

スパイバーの第2フェーズは
セルロース生産

WWD:以前、30年後に繊維の約15%(現在の1年間の生産量は約9000万t)をタンパク質に置き換えたいと言っていたが、その目標は現実的?

関山:確約はできないが、できるかもしれない。素材の重さベースで換算すると、1000万tの規模になる。ただこれを作るとなると、モノにもよるが発酵プロセスに必要な糖は人工構造タンパク質の約6倍量。そのため、1000万tでは6000万tの糖が必要となる。現在の世界の穀物生産量は25~26億tで、6000万tとなると約40分の1が必要。これを食糧でなくここに回すのは現実的ではない。今後は、食糧生産には向かない場所で、海水を用いてセルロース生産をすることも視野に入れていきたい。

コットンやリネン、ユーカリやパルプから作られているビスコースレーヨンはこういった環境で生産したセルロースに置き換える。セルロースだけでは対応できない材料は、セルロースを分解してグルコースにして、人工構造タンパク質の微生物の発酵プロセスの栄養源にする。

WWD:セルロースの基礎研究はいつから始めた?

関山:この3年だ。セルロースはやってみないとわからないし、スパイバーの研究を始めたときのような気持ちだが、人のレベルやリソース、ネットワークも当時と全然違う。ロケットスタートを切れるような準備はできているが、超長期的な30年くらいかかる研究テーマだと考えている。

われわれが人工構造タンパク質の研究を始めて15年くらいになるが、これから数千t、数万tの規模になるのには5~10年かかる。大規模で普及するには20~25年かかるだろう。

WWD:ゆくゆくはセルロースとタンパク質を“操る”と。

関山:最終的にはセルロースとタンパク質を一番効率よく作り上げて、メインはセルロースを使っていきたい。

WWD:50年後の世界は?

関山:今化学繊維が使われているところは、どんどんタンパク質に置き換わっていく。建物などにもだ。タンパク質と聞いて素材を思い浮かべる人は少ないけれど、30年後はナイロンやポリエステルのように、いろいろな場所に使われているものとしてタンパク質を思い浮かべるようになっているのでは?

WWD:大手からスタートアップまでが人工構造タンパク質に取り組んできたが、他は成功できていない。なぜ、スパイバーが成功できたのか。

関山:技術の成熟期だったことと、日本で始められたから。東レ、旭化成、帝人、クラレなどの繊維メーカーや発酵メーカーの味の素など、世界トップメーカーで開発に携わっていたOB20人近くにアドバイザーとしてお世話になっている。企業の発展を支えた第1世代の彼らが存命で、初期から助言をいただいている。これがアメリカだと第1世代が亡くなっている。

WWD:世界中から人がスパイバーに集まっている。

関山:ここ数年でこの分野ではトップレベルになり、地球規模で“人工構造タンパク質なら鶴岡だ!”というようになってきた。本質的に世の中の役に立つテーマだから、集まっているのだと思う。