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ロンドンの注目ショップをリポート 次世代の才能が集う複合店や絶品中国料理店など

 9月に開催された2020年春夏シーズンのロンドン・ファッション・ウイーク(LONDON FASHION WEEK以下、LFW)に参加してきました。16年に実施された、イギリスの欧州連合離脱の是非を問う国民投票でEU離脱が決まって以来、明るいニュースに乏しいロンドンですが、街は相変わらず活気に溢れています!トレンドに敏感なロンドンは、行くたびに新たな発見をもたらしてくれる街。取材の合間に足を運んだファッションやビューティ、フード関連のお店をご紹介します。

ファッション編
異業種が集合した“小さな村”

 ロンドンの中心地ベルグレヴィア地区に昨年春にオープンした「50m」は、新たな形態のコンセプトストアです。ブランドは月額賃貸料を支払うことでショップ内に独自のスペースをレンタルでき、自分で商品を選んで陳列し、委託販売で売り上げに基づいた手数料を「50m」に支払う仕組みです。コワーキングスペースも併設されており、アトリエも設けられます。敷地内にはレストラン、美容室、ヨガスタジオなども構えており、まるで小さな村のようです。なかには洋服とコスメの販売スペースと美容院が一体になった面白いショップも。仕掛け人は、コミュニティースペースの「メーカーバーシティー(Makerversity)」、フード業界人のための共有ワークショップスペースの「ミッション キッチン(Mission Kitchen)」など、数々の話題スポットをロンドンで生み出してきた集団、サムシング アンド サン(Something & Son)です。

 「50m」は現在「べサニー ウィリアムズ(BETHANY WILLIAMS)」「ライアン ロー(RYAN LO)」などメンズ、ウィメンズのファッションブランドのほかにジュエリーや陶芸、キャンドルなどアート作品を含め約50ブランドが出店しています。若手デザイナーの才能を育むことを主な目的に掲げており、頻繁にイベントを開催してデザイナーと顧客の交流にも力を入れています。コワーキングスペースにはクリエイターだけでなく弁護士や会計士も多く、交流会を通じてブランド成長に必要なビジネスの知識も共有しているのです。英新聞「ザ・ガーディアン(The Guardian)」の取材にサムシング アンド サンの共同創始者ポール・スマイス(Paul Smyth)は、「小規模なブランドが小売店を開けない大きな要因の一つは急騰する家賃。ロンドンの賃貸料は、ショップを持つという夢を手の届かないものにしてしまう。『50m』は若手デザイナーが売り上げに対する圧力を感じることなく、創造性とビジネスの両面で成長できる一つのプラットフォームだ」と説明しています。「バーバリー(BURBERRY)」が世界各国の一部店舗を閉鎖するなど、ビッグメゾンでさえ実店舗で利益を得るのに苦労している時代に、共同ファッションスペースは新たな才能を育む先駆的なコンセプトストアとして、大きな可能性を秘めていると感じました。

ビューティ編
心身をサポートする
アロマやハーブティー

 ロンドンに行くと必ず立ち寄るのがウエルネスブティックの「アナトミー(Anatome)」です。心身両面の健康をサポートするウエルネスアイテムを展開するブランドで、常駐する栄養士さんが悩みに合わせた商品を提案してくれます。ビタミンやプロテインなどのサプリメントのほか、アロマやエッセンシャルオイル、ハーブティーなどオリジナル商品がそろいます。私は月経前症候群に効果的なホルモンバランスを整えるサプリメントとエッセンシャルオイル、ハーブティーを試しました。特に効果を感じたエッセンシャルオイルは、香りと心理の関係を研究する専門家たちが開発したもの。癒し効果の高い“療養+保護”“バランス+安定”や気分を上げてくれる“表現+自信”、集中力をアップする“フォーカス+集中”など8種類あります。私は安眠に特化した“睡眠+回復”を愛用中です。世界的に健康ブームで、ヘルス関係のショップはロンドンや私が暮らすパリにも増えていますが、特にメンタル面をサポートするアイテムを販売し、かつオシャレなブティックというのが意外にありませんでした。ここ数年でインナービューティの分野が成長しているため、今後も新たな広がりを見せそうな予感です!

レストラン編1
プリプリ海老の
“チョンファン”が絶品

 ロンドンを訪れるとき、最も気を配るのはレストラン選びです。以前、フードライターの方に「イギリスにはかつて食事にこだわるのは下品という考え方があり、特権階級の人々が食を軽視していたために食文化が発展しなかった」と聞きました。しかしそれも昔の話。1990年代以降に海外のレストランで腕を磨いたシェフがイギリスで活躍し始め、それから食が格段に進歩し、現在では美味しい料理を楽しむことができます。ちゃんと事前にリサーチして狙ったレストランに行けば失敗が少ないと、私も身をもって学びました。

 ロンドンに行くと必ず立ち寄るのが、飲茶を中心とした中国料理店「ヤウアチャ(Yauatcha)」です。ロンドンでは中国料理店として初めてミシュランの星を獲得した「ハッカサン(Hakkasan)」をはじめ、世界各国で数々の有名店のプロデュースを手掛けるアラン・ヤウ(Alan Yau)によるレストランです。2004年に開業した「ヤウアチャ」も、翌年にミシュラン一つ星を獲得しました(ヤウ氏は08年に同レストランを売却)。34種類の飲茶とお肉料理で、海鮮料理、麺類、ご飯類、スープ類とメニューも豊富です。LWF最終日のディナーに、「WWDジャパン」の大杉記者と私の腹ペコ女子2人はまず、定番の海老と湯葉の“チョンファン”と野菜の蒸し餃子、ホタテ貝の蒸し焼売ときのこのスープをオーダー。私はこの“チョンファン”が大好物で、ロンドンに来る一つの楽しみでもあります。大ぶりの海老を揚げた湯葉とチョンファン(米粉麺)で巻いており、蒸した状態でテーブルに運ばれてくるとウエイターが醤油ベースのソースをかけてくれます。シルクのように滑らかでプルっとしたチョンファンにクリスピーな揚げ湯葉、そしてプリプリの海老の食感のバランスは文句のつけようがありません!“チョンファン”自体にあまりなじみがなかった私は、これを食べてとりこになりました。ホタテ貝の蒸し焼売は貝柱がそのままゴロンと入ったぜいたくな感じで、野菜の蒸し餃子は野菜とキノコの出汁がしっかり効いていて、どちらも美味しかったです。スープはサンラータンのような甘酸っぱい味。まだお腹に余裕があるということで、締めにクリスピーダックとチャーハンを追加オーダーしました。さすがに注文し過ぎましたが、どのメニューも美味しくて大満足!ちなみに、ヤウ氏が手掛ける日本初出店の点心専門店「ヤウメイ(Yaumay)」が東京・丸の内の二重橋スクエアに昨年オープンし、海老と湯葉の“チョンファン”が提供されているのでぜひご賞味あれ。

レストラン編2
ペロリと完食した
ラザニアフリッター

 ロンドンには10年にモルトビー・ストリート・マーケット(Maltby Street Market)、16年にフラット・アイアン・スクエア(Flat Iron Square)、今年春にヴィネガー・ヤード(Vinegar Yard)などのストリートフードやバー、ビンテージマーケットが一体となった複合施設が続々と誕生しています。レストランの料金が高いロンドンで、安い早い美味いのストリートフードはグルメなロンドナーの間でブームなのです。

 中でも、昨年春にオープンした「ブライト(Bright)」が友人のオススメということで行ってみましたが、このチョイスが大正解でした!丁寧に作られた料理とワインバーが一体となった“バーラヴァン(Bar a Vin)”という形態のレストランで、パリでは数年前からこの手のレストランが一気に増えています。同店は自然派ワインのセレクションと、イギリス料理とフランス料理をミックスしたようなモダンブリティッシュを提供しています。絶品だったのは前菜メニューのラザニアフリッター。「揚げたラザニアが前菜って、結構重たいかも」と思いましたが、ほとんど塩こしょうだけのシンプルな味付けで、お肉の味を引き出したラザニアがザクザクとした衣に包まれており、ペロリと食べられました。メインは、カレイのグリルに野菜の付け合わせをオーダー。カレイは焼き加減があまり好みではなかったのですが、付け合わせはナスをピューレしたタプナード風で、野菜の自然な甘みがとても美味しかったです。旬の食材を使った日替わりメニューを提供しているため、私の「また訪れたいお気に入りレストランリスト」に追加しました。

ベーカリー編
女性を応援するベーカリー

 大杉記者のリサーチによると、世界的に強まっているフェミニズムの流れでロンドンには女性エンパワーメントがコンセプトになったお店が増えているとのこと。そこで私は「ルミナリー ベーカリー(Luminary Bakery)」へ行ってみました。同店は貧困やホームレス、性的搾取を目的とした人身売買や家庭内暴力と闘った経験のある女性たちを積極的に雇用し、刑務所で服役中の女性たちにお菓子作りを教える社会活動に取り組んでいます。14年にケータリングサービス専門店としてスタートし、17年にロンドン東部ハックニーにカフェをオープン。今年10月にはカムデン地区に2店舗目を開きました。また、今年8月4日のメーガン・マークル(Meghan Markle)=サセックス公爵夫人のバースデーケーキとして、同店の特製キャロットケーキが選ばれたことがイギリスで話題になったようです。店内は白が基調の清潔感のあるかわいい雰囲気。平日午前9時ごろに行ってイートインしていると、子どもを学校へ送る途中らしき親子がひっきりなしに訪れます。住宅街ということもあって周辺は穏やかで、心をホッと落ち着かせることができるカフェです。一番人気だというシナモンロールは無糖コーヒーがないと食べられないくらい甘かったのですが、おかげで血糖値が上がり、その後の仕事にしっかり集中できました(笑)。パリでも女性エンパワーメントがコンセプトのお店の話題を耳にすることが多いので、また別の機会にご紹介したいと思います。

 今回の滞在中、現地に暮らす人々と話す機会がたくさんありました。EU離脱問題については交渉が長引き複雑化し過ぎているため、国民はもはやそのニュースにあまり関心がないような印象を受けました。EU離脱が正しい決断か否かは結果論でしか分からないことで、もがいても仕方がない、受け入れるしかないといった感じでしょうか。私が出会った人たちは決して未来を悲観しているわけではなく、むしろ気持ちに区切りをつけて前を向いている“良い諦め”のように感じられました。結果がどう転ぼうとも、ロンドンの街はこれからも進化を続けるはずです。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける