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「ノア」創業者ブレンドンインタビュー後編 「かっこよく見せるのは簡単だけど、難しいのはクールに見えて責任ある行動を取ること」

 東京の裏原宿に「ノア クラブ ハウス(NOAH CLUB HOUSE)」がオープンしたのが2017年9月。それから1年数カ月を経て、「ノア(NOAH)」が東京では初めて、2019-20年秋冬コレクションを関係者向けに披露した。創業者であるブレンドン・バベンジン(Brendon Babenzien)の“元「シュプリーム(SUPREME)」クリエイティブ・ディレクター”という経歴が、否応にもブランドの注目度を高めるきっかけになったが、最近の「ノア」の動向を追うと、環境問題や社会情勢といった、スケートボードカルチャーにとどまらないモノ作りの姿勢に注目が集まっているように感じる。あらためて、「ノア」とは何か?「『シュプリーム』のことを聞かれるのには飽きたよ」と笑う来日中のブレンドンが「ノア クラブ ハウス」で話してくれた。今回は、その後編。(前編はこちら

WWD:オフィスのスタッフは今何人?NYのショップはソーホーから少し離れた場所(マンハッタンのマルベリーストリートとケンマレストリートの間)ですよね。そこに出店しようと思った理由は?

ブレンドン:12人ぐらいかな。オフィスはスプリングストリートにあって、ショップのすぐ近く。ショップをそこに出そうと思ったのはそのエリアが好きだからだよ。ソーホーのウェスト・ブロードウエイには大型店がたくさんあって、今はすっかり商業的な地域になってしまったけど、昔からあのあたりでよく過ごしていたからノスタルジックな思い入れがあってね。まだエネルギッシュなエリアだと思うし、いいレストランも多いし、友だちも多くいる。だから空きが出たときに、これはいいなと思って出店したんだ。僕はティーンエージャーの頃からあの近所で働いたり、高校生のときも彼女とあのあたりでデートをしたり……だから、あの場所に出店するのは自然な感じがした。実は、日本での出店の際にもほかの選択肢はあったんだ。青山、代官山、渋谷とかね。でも、ここ(裏原宿)にはユースカルチャーの歴史がある。「ノア」が若者向けではないことを考えると、(裏原宿は)面白いチョイスかなと思ったんだ。若い頃に裏原宿に通っていた人たちが「ノア」に来たかったら、しばらく来ていない原宿に戻ってくる必要があるから。例えば50歳ぐらいの人が「ノア」に来ることで原宿に戻ってきて、自分が若かった頃のことを思い出すというのもいいなと思った。

WWD:ニューヨーク、東京に旗艦店。ロンドンとロサンゼルスはドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)に入っていますね。次の店舗を出すとしたらどこですか?

ブレンドン:うわあ、それは難しいな(笑)。みんなどこかに出店してほしいと言うけれど……、またLAかな?でも何か大きな計画があるわけじゃなくて、成り行きなんだ。店舗は増やしていくと思うけど、いつかは分からない。でもLAには友だちがたくさんいるから、LAにオープンするのは自然な感じがするな。スケートボードとサーフィンのカルチャーがあるし。あと、僕はロンドンが大好きだから、いつかロンドンに旗艦店をオープンしたいと思っている。僕に大きな影響を与えた音楽が生まれた場所だしね。全体的に若者たちも世界中で一番クールだと思う。理由はわからないけど、そういう感じがするんだ。ユースカルチャーやサブカルチャーを考えたとき、アメリカにはサーフィンとスケートボードがあって、ニューヨークに行けばパンクやヒップホップがある。そしてイギリスには、音楽だとニューウェーブやパンクがある。なんかこうスタイルがあるというか。最近は少しニューヨークの影響を受けすぎているけどね。まあ、どこにするか決まったらまたすぐに知らせるよ(笑)。6カ月以内には、どこかにオープンすると思う。

WWD:最近面白いと感じるものはなんですか?

ブレンドン:最近、ペルシア系の若者たちが面白いよ。彼らは他者からの影響を受けないし、他人を気にしない。いつでもペルシア人なんだ。本当に尊敬するよ。

WWD:ニューヨークにペルシア系の大きなコミュニティーがありますね。

ブレンドン:そうそう。あとフランス人の子どもも、すごくフランス的だよね。15歳ぐらいでも、40歳みたいな格好をしていたりする。タバコを吸って赤ワインを飲んで、みたいな。しっかりと(フランス的な)スタイルを持っている。僕はブランドが……たとえそれが「ノア」であっても、他国の人に影響を与えてしまうのを少し懸念しているんだ。だからそのままマネするのではなくて、自分のものとして取り入れてほしい。ブランドが個人のスタイルにあまりに影響を与えてしまっているのを見ると、少しがっかりする。着る人が、自ら解釈してほしいんだ。特に、カルチャーが全く違う国だと余計にそう思うな。日本とニューヨークのカルチャーは全く違うわけだから、僕らの服を全く違う風に着こなしてほしいなと思う。ニューヨークのうちの店にいる若者たちと同じような格好をするんじゃなくてね。日本には他国の文化を取り入れてマネしてきた長い歴史があるから、難しいのかも知れないけれど。もちろん、すごくうまく取り入れているとは思うんだけどね。僕が初めて日本に来た20~25年前ごろなんかは、違う惑星に来たのかと思うほどだった。ほかのどの国とも違う、見たこともないスタイルがあって、ニューヨークで見たようなスタイルを見かけたりはしなかった。とにかく独自のスタイルだったんだ。あ、これはアメリカのTシャツだな、というように構成要素としてはあるんだけど、アメリカのスタイルを丸ごとコピーしてはいなかった。でも今はスケートショップなんかに行くと、そこにいる若者はネオンカラーのシャツやショーツに「バンズ(VANS)」とか、もうユニホームみたいにみんな同じ服装をしている。サンフランシスコあたりの若者と全く同じなんだ。そうじゃなくて、日本のユースカルチャーがまた独自の進化を遂げるのをとても楽しみにしているよ。もっともSNSがある限り、世界中のキッズが同じものを見るわけだから難しいかも知れないけどね。同じ情報を見ているから、まるでユニホームみたいな格好になってしまう。

WWD:SNSについてはどう思いますか?現代ではもう不可欠なものになっていますし、特にブランドにとっては必要なものですよね。

ブレンドン:僕は今、インスタグラムと距離を置いているんだ。個人のアカウントはもともと持ってなくて、ビジネス用のものだけだけど、6週間前から1回も見ていない。ビジネスとしては使っているけれど、僕個人はインスタグラムを見て時間を過ごしたりはしない。これは歴史を見てもそうだと思うけど、人類は素晴らしいアイデアを思いついても、それを破壊してしまう傾向にある。素晴らしいテクノロジーが生まれても、人類はそれをぐちゃぐちゃにしてしまうんだ。プラスチックも便利で素晴らしい発明だったのに、使い過ぎのせいで、今や地球を破壊してしまいそうになっている。SNSもそれと同じだと思う。さまざまな理由で素晴らしいプラットフォームだと思うけど、今やテロリズムに使われたりする。そうして何かいいものをダメにしてしまうのは、もはや人間の性なんじゃないかと思うぐらいだよ。僕はSNSがあまり好きじゃない。なんていうか、あまりにも情報がたくさんありすぎて逆に退屈してしまう。そしてSNSから受け取る情報は、少し“偽物”だと思うんだ。今は何かについて、全てを知ることができてしまう。「『バンズ』がリリースしたものを全部知ってる!」なんてことも出来てしまう。今や、誰もが情報を仕入れすぎて何かの“専門家”みたいになっている。バンドでも、ヒップホップのアクトでも、スニーカーのリリースでもいいんだけど、僕は時間の無駄だと感じるんだ。何かについて勉強するようにして知識を増やしているけれど、実際に“体験”はしていないから。映画「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」は見たことある?主人公2人がベンチに座っているシーンがあるんだけど、その一人を演じるロビン・ウィリアムズ(Robin Williams)が、「君は何でも知っているけれど、そこに行ったことはないだろ?」と言うんだ。「戦争についての詩を諳(そら)んじることはできても、実際に死にゆく友を見守ったことはないだろう?」というようなことをね。それがひどく心に響いた。僕が現代社会に感じていることそのものだから。誰もがあらゆることを知っているけれど、誰も本当にそれを体験したことがないという……。“コレクター・カルチャー”なんだろうね。

WWD:なるほど。ブランドとしての今後の目標を教えてください。

ブレンドン:いろんなタイプの目標があるけど、ビジネスを育てて成功させたいというのがゴールかな。僕は、ただ服と金銭を交換しているだけじゃないと思っているから、消費者と学び合える、より誠実な関係になりたいと考えている。クールで楽しくありたいし、高品質なものや情報を提供したいし、いいカスタマーサービスを提供したいというのを全て叶えたい。20数年前に台頭したユースカルチャーやストリートウエアは、アートや音楽、文学、ファッションに触れることがなかった多くの人たちにそれを理解する手助けをした。現代では、ごく平均的な人がショップで何かを買って、身に着けるだけである程度クールに見える。だから、かっこよく見せることはそれほど難しくなくなった。昔はそれがゴールだったけど、もはや、クールに見えるようにするのは簡単だから、難しいのは、クールに見せつつ責任ある行動を取ること。思慮深く、他者を思いやり、それでいて楽しくあることは難しいけど、そういったブランドであるべく「ノア」はチャレンジしている。それが次の20年の目標だね。