ファッション

「マックスマーラ」が捧げたベルリンへのオマージュ

  「マックスマーラ(MAX MARA)」は6月3日、ドイツの首都ベルリンで2020年リゾートコレクションを発表した。今回のショーはベルリンの壁崩壊から30年を記念したもの。第二次世界大戦によって壊滅し約60年間放置された後にデイヴィッド・チッパーフィールド(David Chipperfield)が修復を手掛けた新博物館(NEUES MUSEUM)を舞台に、歴史や建築、芸術で知られる街へのオマージュを捧げた。また前日夜には、ドイツ出身の歌手兼女優であるウテ・レンパー(Ute Lemper)を迎え、歴史あるクレアヒェンズ・ボールハウスでキャバレー・ナイトを開催。世界から集まった観客を魅了した。

イメージはドイツを代表する
スターの装い

 2020年リゾートコレクションのベースになったのは、ベルリンで生まれ育ったドイツを代表する女優のマレーネ・ディートリッヒ(Marlene Dietrich)と、かつてこの街に暮らしていたデヴィッド・ボウイ(David Bowie)を想起させるスタイル。マスキュリンなテーラードジャケットやしなやかなワイドパンツをはじめ、トレンチコートやラップコート、プリーツスカート、リブニット、ジャンプスーツ、イブニングドレスなどをそろえた。そこにアクセントを加えるのは、1710年に創業したドイツの名窯「マイセン(MEISSEN)」の磁器をほうふつとさせる花の立体的な刺しゅう。新博物館の展示品からヒントを得たプリミティブなフリンジやきらめくラメもデザインに取り入れた。スタイリングは、「マックスマーラ」が得意とする、ベージュや白、赤、グレーなどのワントーン・コーディネートが中心。中でもイアン・グリフィス(Ian Griffiths)=クリエイティブ・ディレクターが“ベルリン・ルック”と呼ぶオールホワイトのラストルックが、コレクションを象徴している。

 また、今シーズンはブランド初の試みとして、ジュエリーデザイナーのリーマ・パチャーチ(Reema Pachachi)とのコラボレーションにより本格的なジュエリーを制作。新博物館に展示されている「ベルリン・ゴールド・ハット」など青銅器時代のコレクションから着想し、彫刻的なネックレスやブレスレット、イヤリングを提案した。

圧倒的な表現力に
魅せられた夜

 ショー前夜にウテ・レンパーが披露したのは、彼女が敬愛するマレーネ・ディートリッヒとの3時間の会話から生まれたモノローグ「マレーネとのランデブー」。ディートリッヒをイメージした白のタキシードとシャンパンゴールドのドレスをまとい、時にささやくように優しく、時に力強い歌声で魅せた。「彼女と電話で話したのは1988年のこと。その華やかでありながらも悲しい複雑な人生を、彼女の素晴らしい音楽を交えて忠実に表現するには、長い時間が必要だった。私自身も成熟しなければならず、最後に私自身のストーリーをつなげることで作品が完成した」とレンパーは振り返る。また、「ベルリンは信じられないような歴史を重ねた街。20年代には芸術的な表現において自由で先進的だったにもかかわらず、ナチスによって全てを閉ざされた。そして壁によって分断され、崩壊後も多くの問題を抱えてきた。今は政治の中心で、ヨーロッパの中でも重要な場所になったけれどね。そんなベルリンは、芸術やアイデンティティにおいてドイツの中で独立した存在」と街への思いを語る。

世界から多彩なゲストが集結

 会場には、ドイツ国内やヨーロッパだけでなくアメリカ、アジア、オセアニアなどから、女優や文化人、モデル、スポーツ選手、インフルエンサーなどを含む約200人が駆けつけた。日本からは、海外にも活躍の場を広げるモデルの森星が来場。「マックスマーラ」2019年プレ・フォール・コレクションの鮮やかな赤でまとめたスタイルを着こなし、ひときわ存在感を放った。

ディレクターが語る
ベルリンを選んだ理由

“学生の頃からずっとベルリンが好き そんな街をたたえたかった”
 今回ベルリンを選んだ理由について、イアン・グリフィスは「まだ学生だった1980年代からずっとベルリンが好き。この街にはバウハウスがあり、デヴィッド・ボウイが一時期を過ごし、私のミューズであるマレーネ・ディートリッヒが20年代にキャリアをスタートした場所でもある。そんなクリエイティブなエネルギーに溢れ、建築的な価値を兼ね備えた街を常にたたえたいと思っていた。ベルリンの壁崩壊から30年という節目は、完璧なタイミングだった」と明かす。そして、「今やプレ・コレクションであっても、メイン同様のクリエイティビティーとストーリー性が必要」とし、街に関連する要素をコレクションに取り入れた。「文脈を見出し、ブランドの哲学やアイデンティティの一部分に光を当てることが、クリエイションのベースになっている」。

 同ブランドで働き始めて32年になる彼はもともと建築を学んでいたこともあり、建築に通じる考え方を大切にしている。「良いデザインというのは、特定のシーズンを越えて愛されるもの。私たちは、家や車を設計するのと同じようにコートをデザインしている。単なる服というよりも生活の一部という感覚だ。また、良いデザインとは感情を喚起するものでもある。着る人にとって頼りがいのある生涯の“相棒”になるような服を生み出したい」。(イアン・グリフィス=「マックスマーラ」クリエイティブ・ディレクター)

“重要なのは、商品を売るだけでなく適切なメッセージを伝えること”
 創業家の3代目であるマリア・ジュリア・プレツィオーゾ・マラモッティ(Maria Giulia Prezioso Maramotti)は、ファミリービジネスの魅力について、「必ずしも売り上げには直結しない決断をでき、ブランドのDNAや自分たちのあるべき姿に従うことができる。夢ではなく現実に結びついたビジネスではあるけれど、結局のところ、商品を売るだけでなく適切なメッセージを伝えることが堅実な成長につながる」と語る。そしてこれからを担う世代として、「DNAに忠実なシンプルでクリアなメッセージを顧客に理解してもらうこと、そして服の背景にあるものを見せることで顧客との対話を生み出すことに取り組みたい。『マックスマーラ』は、世代を超えるブランド。ミレニアルズにも、より成熟した女性にも、それぞれに合った方法でメッセージを発信していくことが重要」と先を見据える。

 また度々訪れているベルリンは、彼女にとって「アイデアやプロジェクトにおけるインクルーシブで前衛的な姿勢が印象的な街」だという。新博物館についても「まず歴史的な背景に引かれた。その“傷跡”を生かしたチッパーフィールドによる修復も興味深い。そのコントラストは、『マックスマーラ』のデザインにも通じる過去と現在の対話を感じさせる」と話す。(マリア・ジュリア・プレツィオーゾ・マラモッティ=マックスマーラ北米リテールヴァイスプレジデント兼グローバルブランドアンバサダー)

問い合わせ先
マックスマーラ ジャパン
0120-030-535