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川久保玲に選ばれた逸材 「ノワール ケイ ニノミヤ」の二宮啓

 「ノワール ケイ ニノミヤ(NOIR KEI NINOMIYA)」の二宮啓は「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」のパタンナーを経て、入社4年目の2012年、29歳のときに同社で最年少のデザイナーに抜擢された逸材だ。ブランド名に冠したノワール(黒)を主軸にしたコレクションを発表し、平面のパターンだけでない立体的な装飾や、特殊な加工や素材による独創的なアプローチで独特の存在感を示す。

 ブランドスタートから5年が経ち、2018年は飛躍の年になった。2月のモンクレール(MONCLER)とのコラボプロジェクト「モンクレール ジーニアス(MONCLER GENIUS)」の“6 モンクレール ノワール ケイ ニノミヤ”の披露をはじめ、3月にパリで開催した本格的なファッションショーには多くの著名な業界人の姿があった。ショーではフラワーアーティストの東信(あずままこと)によるヘッドピースと共に強い印象を残し、英「ヴォーグ(VOGUE)」のセプテンバー・イシュー(9月号)ではリアーナ(Rihanna)が着こなした。この1年でメディアでの露出が増え、ブランドの認知度も急上昇した。また今年、単独店を三越日本橋本店、西武渋谷店、岩田屋本店に開き、全5店舗体制になった。

 二宮に自身のルーツや、今後の目標などを聞いた。

WWD:この一年を振り返ってどうだったか?

二宮啓「ノワール ケイ ニノミヤ」デザイナー(以下、二宮):パリの大きな会場でコレクションを発表したことや、「モンクレール」との協業があって、新しいことをやるきっかけになった。ショーを行ったことで露出も増えて、ショーのイメージが広がったことがブランドにとってもお客さまにとってもよかったと思います。

WWD:まずルーツから知りたい。大分県出身だが、それが今に影響を与えていることはあるか?

二宮:意識的に影響を受けたものは特にはありませんが、「コム デ ギャルソン」に出合ったのが大分の高校に通っていた16〜17歳の頃でした。テニス部の部活を引退し大学受験に集中する時期には時間がたくさんあったので、学校の帰りに店に通った記憶があります。

WWD:当時の「コム デ ギャルソン」の印象は?

二宮:洋服の店じゃないような雰囲気でした。真っ白な空間に平然と服が並んでいるという印象。

WWD:大学ではなぜ仏文を学んだのか?

二宮:文学が好きだったんです。フランス文学でも特にシュルレアリスムに興味があり、文学だけでなくアートや戯曲的なものへの広がりについて勉強しました。そこで得たものといえば、少しフランス語を話せるようになったこと。今はフランス語を聞いて内容を把握できるくらいです。

WWD:アントワープ王立芸術学院で学んだが、中退した理由は?

二宮:大学を出てから留学したこともあり、時間の使い方について考えていました。パターンのモノ作りの仕事は、机上で勉強するのと実際に働くのとでは全く異なる。知人からのアドバイスもあり、1年でも2年でも可能性があれば早く働きたいと学校をやめることにしたんです。

WWD:帰国後、「コム デ ギャルソン」のパタンナーになったのはなぜ?

二宮:第一に「コム デ ギャルソン」で働きたいと考えていたからですが、この会社でものを作る枠はパタンナーしかありませんでした。

エネルギーを持って物作りに取り組まないと
相手がハッとするものは出来上がらない

WWD:「コム デ ギャルソン」のパタンナーの仕事は、線を引くことだけでなく、川久保玲デザイナーの発想を具現化する仕事?

二宮:そうですね。社長(川久保玲)の思いを形で表現する仕事。最終的にパターンに落として量産に流すのは大前提ですが、クリエイションへの制限は設けていませんでした。自分はパターンの技術がない代わりに、異なる手法で新しい表現を出して社長にぶつかっていくという仕事の仕方でした。

WWD:“ぶつかっていく”というコミュニケーション?

二宮:“ぶつかる”というのが正しいのかどうかはわからないですが、エネルギーを持ってモノ作りに取り組まないと、相手がハッとするものは出来上がらない。仕事に向き合う姿勢は受け身だけでは成り立たないと思います。

WWD:現在の二宮さんとパターンナーの関係は、「コム デ ギャルソン」での川久保さんとパタンナーとの関係と同じなのか?

二宮:今はもっと密かもしれません。距離感としては一緒のつもりですが、まだ自分を入れて6人の小さなチームなので、関わり方も異なっていると思います。チームメンバーとお互いに意見を出し合いながらモノ作りをしています。

WWD:最初にチームにメッセージを伝えるときは言葉で伝えるのか?

二宮:コレクションごとに異なりますね。形や素材から入ることも、抽象的なイメージから入ることもあります。

WWD:2019年春夏のモノ作りはどうスタートした?

二宮:春夏っぽいイメージでやりたいと思ったんですが、実際は素材や形から始まりました。ウエディングやイギリスのハットなどに使われるような銀のチュールが面白いと思ったんです。

WWD:黒をコンセプトにしているが?

二宮:黒は軸です。コレクションで使用する黒以外の色は、黒を際立たせるための手段であり、黒のイメージを伝えるための色。

WWD:ブランドを立ち上げる際に、黒以外に制約はあったのか?

二宮:黒は一つの枠組みです。社長と最初に話したのは“ゼロからスタートして成り立つブランドにする”ということで、“コム デ ギャルソンの傘の中にあっても、「ノワール ケイ ニノミヤ」というブランドの黒のイメージを確立する”ということ。もしこの先に違う展開があったとしても、このブランドのコンセプトが黒だということを変えるつもりはありません。

洋服は誰もが「着る、着ない」とジャッジできて
人の心にダイレクトに訴えるもの

WWD:文学を学び、表現方法は他にもあったはずだが、なぜファッションの道に進んだのか?

二宮:文才がなく、絵心がなく、歌う才能もなかったから(笑)。やっぱり洋服に興味があったのが大きかったと思います。人とコミットして感動を与えられるものを作りたいと思い、アートという選択肢はなかったです。洋服は人が入って完成するもので、人間であれば体感できるもの。奇抜な服を見たとしても、主観で判断できる。アートは「私は興味ない」と言う人もいますが、洋服は誰もが「着る、着ない」とジャッジができるもの。だから人の心にダイレクトに訴えることができます。

WWD:服作りをしていて楽しいと感じるのはどんなとき?

二宮:自分でもびっくりするものが出来上がったときや、作った服を着た人がさらに前に進めたり、それを着て気持ちが高ぶるようなことがあったと聞くとき、仕事をやっていてよかったなと思います。

WWD:コレクションを発表するとき、“完璧でない”と思うものもある?

二宮:よくあります。ベストを尽くすのは大前提なのですが、時間との戦いなので、“もっとこうしたほうがよかったな”というときは量産時に修正します。私も年を重ねていきますから、5年前の服と比べて今作っているものが良くなっていなければ意味がないと思います。

WWD:女性らしいデザインが多いが、女性らしさをどのように捉えている?

二宮:“女性らしさ”について考えたことなかったです。私は女性ではありませんが、女性には“凛として強くあってほしい”という思いがあります。でもそれが女性らしさを表現しているとは思いません。私が文学の道に進まなかった理由は、言葉はニュアンスが強すぎるから。だから物体で表現する方がよかったのかもしれません。

WWD:デザインは身の回りのものからヒントを得る?何を意識している?

二宮:自分の行動範囲は狭いので、その中で見たものは飽きてしまいます。新しいものを作りたいと思うと、自分を刺激してくれる体験や感動が必要ですが、トレースすることが仕事ではないので、物体的にそれが新しい形か、というと違うと思います。

WWD:旅をして着想源を求めるデザイナーも多いが?

二宮:旅する時間がないですね。仕事をしている方が落ち着くんです。仕事が目的の旅だったら違うと思いますが、仕事から離れると焦燥感に駆られます。

WWD:仕事は楽しい?

二宮:続いているから楽しいんだと思います。嫌だったら辞めていると思います。

WWD:花のモチーフが多く登場するが、なぜ?

二宮:水玉やチェックなどと同じくモチーフの一つです。でも、使っているということは好きなんだと思います。

WWD:レザーカットなどの加工をよく施しているが?

二宮:レザーカットは数ある中の一つ。方法論でしかありません。手で切れないモチーフを作ることができるというだけで、もし手で切れるならそれでよくて、ベストな選択肢として使っているというだけです。

モノ作りに集中するにはある程度の情報を
シャットアウトしなければならない

WWD:ビジネスへの関心は?

二宮:生産するということは、すなわちビジネスでお金を作っていかなければ回せないと思います。矛盾しますが、興味のない方に無闇に服を販売していきたいわけではありません。ブランドの価値観や物作りを理解し、感動してくださった方に着ていただくのが健全だと思います。

WWD:店の作り方や売り方なども川久保デザイナーから学ぶのか?

二宮:言葉で指導されるわけではないですが、社長が店を回って、立ち上げの作り方もこだわりを持っている姿勢を見て学んだりします。お客さまに届くまでがデザインであり仕事だと思いますね。

WWD:川久保デザイナーをはじめ、先輩デザイナーから直接アドバイスをもらうことはあるのか?

二宮:ないと言ったら嘘になりますが、それは言葉ではありません。先輩たちは自分より仕事をする方たちなので、仕事する姿でこうやってやるということを示してもらっていると思います。

WWD:SNSとはどう付き合っていく?

二宮:私個人はインスタグラムを使っていません。マーケットを理解するために知らなければいけないという認識もありますが、モノ作りに集中するにはある程度の情報をシャットアウトしなければなりません。SNSばかり気にしていると平均点を取るようなものしか作れなくなってしまうと思います。

WWD:「モンクレール」とのプロジェクトではどのようなことを学んだ?

二宮:展開の仕方はコム デ ギャルソンとは異なる切り口で、そのやり方もあるな、と勉強になりました。先方にはこちらのモノ作りを尊重していただき、こちらで作ったトワル、設計図を作って持っていくという仕事だったので、誤差や間違いなどはなく、大枠はいつもの仕事の進め方と同じでした。うちのモノ作りは特殊なものですが、それをダウンという素材で再現する際のクオリティーの高め方には驚きました。

WWD:今、二宮さんのミッションは何だと思う?

二宮:社内では一番若いデザイナーとしてブランドを任されているので、自分たちの新しい顧客に向けて、新しいやり方を社長たちと違う切り口で進めて行きたいと思っています。まだ自分はコレクションがメーンで、その先まで行き着いていないんですが、まずはモノ作りの土台を固めることが大事だと思っています。

WWD:今後の目標、将来のビジョンはあるか?

二宮:次のコレクションのビジョンもすらまだ固まっていないです(笑)。ただ、今は自分たちが憧れていたファッション産業の時代に比べて衰退しているのは事実です。自分たちが次世代につないで行く中で活気が出てほしいし、糸偏の産業が盛り上がってほしいという願いがあります。自分たちの活動がきっかけで何かの助けになったらいいのですが、誰かの心に深く響くモノ作りを続けて行く必要があると思います。