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現代美術家・杉本博司が建築に取り組む理由 現代建築は“文化の後退現象だと感じた”

 寺田倉庫が運営する建築倉庫ミュージアムで、企画展「新素材研究所・ -新素材×旧素材-」が2019年1月14日まで開催されている。現代美術家の杉本博司が建築家の榊田倫之と共に2008年に設立した建築設計事務所「新素材研究所」の10年にわたる活動を、建築模型や写真と、新素材研究所が用いる特徴的な古材や道具をあわせて展示し振り返るものだ。杉本博司はなぜ建築に取り組むのか。20日に行われた内覧会で杉本博司と榊田倫之に話を聞いた。

WWD:新素材研究所では、「旧素材こそ最も新しい」という理念のもと、古代や中世、近代に用いられた素材や技法を現代にどう再編して受け継いでいくかに取り組んでいる。

杉本博司(以下、杉本):(新素材研究所という名前にしたのは)まずは会社のスケールがよくわからない名前にしようという考えがあった。企業系のファンドがやっているのか?というようにね。ところが実際は2人で始めたわけです。現代建築は、素材そのものが規格化されていて、それをカタログから選んで用いているが、ついこの間の昭和20~30年代までは、住宅なんかは町の大工が作っていた。(しかしハウスメーカーの台頭で)、大工さんの技術がどんどん消えていってしまった。(現在の)ほとんどの住宅は工場生産された資材をボルトで締めて1カ月でできてしまう――文化の後退現象だと感じていた。職人の技を残していきたいと思い、そのためにいい素材を用い古いやり方で手間暇かけて、コストは割高になるけれど、そういうものを残したいと考えた。

榊田倫之・新素材研究所取締役所長(以下、榊田):「カタログから素材を選ばない」というのは難しいテーマ。「現代に生きる建築家としてはこういう作り方になってしまう」と杉本さんに伝えると、「きみは50年くらいの(の想定で)話をしているが、私は5000年くらいのスケールで話をしている」と言われる。時間をどう捉えるか――杉本さんは、“時間”をテーマに活動をされていて、素材に対しても常に“時間”という概念を持っている。それが「新素材研究所」という名前につながってきている。

WWD:新素材研究所の建築物は“モダン”というよりも“タイムレス”な雰囲気だ。

杉本:坂倉準三(1901-1969:ル・コルビュジエに師事し、モダニズム建築を実践した日本の建築家)は職人技で“モダン”を成り立たせていた。彼を筆頭に和風(建築)でありながらモダニズム(建築)をやっていた人たちがいた。和風建築は時間と共に味が出てくる。例えば桂離宮や法隆寺もそう。しかし、いわゆる一般的な新素材で作るプレハブ建築は、どんどん汚くなってくる。

榊田:最初が一番きれいですぐに汚くなる。

杉本:現代の建築家が格好よく作っている、ひさしも出ていない壁だけの家は、みるみるうちに壁がしみになっていくでしょう?

榊田:私たちの手掛けている建築は、古材を取り入れて、時間と共に美しいと思える感性や感覚を確認するような作業に近い。

WWD:それを現代的な技術を用いて作っている。

杉本:そうそう。小田原の江之浦測候所の建築でも、清水寺の舞台でも用いられている手法である「かけ造り」(山間や湖畔などで、建物の一部分を斜面や水面に張り出して建てること)を用いているが、中にボルトを通して下の礎石に連結している。清水寺は置いているだけ。だから、台風が来て下から煽られたら吹っ飛んでいく可能性がある。昔はボルトで締めるということは考えられなかった。

榊田:現代は法的な条件があり、これがある種“足かせ”になることもある。そこをどうやってすり抜けていくか、ということになる(笑)。

杉本:法隆寺の五重塔は木造5階建てでしょう。これを今、申請すると耐震基準を満たしていないとして許可されない。でも一回も倒れずに1200年建っている。脈絡が逆になっているような気持ちになるし、いいものを作らせないようにしようという行政的な判断があるとさえ感じる。

榊田:合理化されて進化していると思ったら実は退化している。

WWD:コンクリートや鉄、ガラスは地球環境を考えると素材としては“悪”として捉えられている。そういった意味でも古材の使い方や、過去に用いられていた手法はヒントになっていく?

榊田:木材や石をリユースし、それが時間が経つことで美しくなっていくという感覚はサステイナブルなものも目指そうというきっかけにもなる。コンクリートを用いるのは20世紀的な作り方だが、われわれは21世紀に生きているから、古いものに対する美を考えることは大事だと考えている。

WWD:新素材研究所が手掛けた建築はどのくらい“もつ”という想定で作られているのか。

杉本:江之浦測候所は、「文明が滅びた後の廃墟として美しいか」を想定した。

榊田:設計しているときも遺跡を作るという感覚だった。

杉本:千年後にパンテオン(ローマ市内のマルス広場に建造された神殿)のように石造りだけ残り、屋根やガラスはなくなっているというイメージ。もしそこに人がいたら「なぜこんなものを作ったのだろうか、不思議だな」と思われるようなものを目指した。文明が何年もつかは別として。

WWD:千年後の世界……。

杉本:このまま人口が増え続けて拡大再生産の消費主義が続けば、どこかで破綻するだろうし、論理的には滅びるよね。

WWD:だからこそ、過去から学べることはあるのかと。

杉本:コンクリートは60年。でも60年経って建て替えるのはおかしいよねえ。超高層マンションを30歳の時に買って90歳の時には廃墟化するってこと。黒川紀章の(「中銀カプセルタワービル」(1972年に竣工したカプセル型集合住宅)が廃墟化して残っているのはなかなか風情があるよね。