フォーカス

「建築の日本展」は建築ではなく“日本らしさ”を学べる場所だった?

 森美術館で4月25日、古代から現代までの幅広い日本の伝統建築を紹介する「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」がスタートしました。六本木ヒルズと森美術館の開業15周年にあわせて始まった同展では、世界有数の建築家国家でもある日本の建築にフォーカス。100のプロジェクトにまつわる約400もの模型・資料とともに9のカテゴリーにわけて紹介しています。

 同展を知った時に感じた疑問が、なぜ「日本の建築展」ではなくて「建築の日本展」なのか、ということでした。つまり、建築を紹介する展覧会なのに、フォーカスすべきは建築ではなくて、日本なのだという点です。実際に体験すればこの疑問が解けるのではないかと思い、プレス説明会に足を運びました。

 開催の経緯について南條史生・森美術館館長は、「日本には世界有数の建築家がたくさんいるが、その理由がなんなのか、昔から続くある種の遺伝子があるのかと考えて展示を作りました。100のプロジェクトを紹介する濃厚な展覧会となっているので、本を読むように見ていただきたい」と説明します。企画を担当した建築史家の倉片俊輔も、「江戸以前の日本では設計を手掛ける建築家という仕事がなかったにもかかわらず、150年で世界を代表する建築家が多く出てきた背景には、きっと何らかの遺伝子があるはずだという仮説から企画がスタートしました」と言います。

 たしかに日本は世界有数の建築家大国です。安藤忠雄さんや隈研吾さん、伊東豊雄さんなど、世界で活躍する建築家をあげればきりがありません。今回の展示はそんな彼らに共通するルーツを探すための展示だというわけです。展示内容は大きく9つのセクションに分かれており、「可能性としての木造」「超越する美学」「安らかなる屋根」「連なる空間」「共生する自然」など、いずれも日本建築に欠かせないキーワードばかりです。

 もちろんそれぞれが「昔から培われてきた木造建築」だったり「ミニマルな建築様式」といった具体的な建築的なニュアンスを含むのですが、これらのキーワードを俯瞰してみると、「日本の建築」ではなくて「建築から考える日本」が見えてきます。「安らかなる屋根」には機能的ながらも空間を包み込む「やわらかさ」があるし、「超越する美学」には無駄をそぎ落とす「わびさび」があるし、「連なる空間」「共生する自然」には内外の分け隔てなく人と自然をつなぐ「やさしさ」があるように思うのです。なるほど、建築を通して日本らしさを感じられるからこそ、きっと「建築の日本展」なのですね。僕は今回の展示で、初めて谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」を読んだ時のような気分を味わえた気がしました。

 冒頭のコメントにもありましたが、今回の企画展はまさに雑誌を読むように、自分が共感できる部分だけをかいつまんでも楽しい企画展だと思います。実際に本展を監修した建築家の藤森照信も、「20世紀以前の建築を学ぶには2つの国を訪れれば十分で、イタリアの石と日本の木を見ればいいんです。しかし、日本の現代建築はヨーロッパと相互に影響を与え合うカオスの中から生まれたもので、非常にわかりづらいところもある。今回の展示でも半分くらいわかったかな、ヨーロッパと日本は意外と似ているなという程度に楽しんでもらえれば」と話していました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックもあることですし、GWにでも建築を通して、改めて日本らしさを考えてみてはいかがでしょうか。

 ちなみに個人的に一番のオススメは、「連なる空間」セクションにあるブックラウンジです。ここでは“建築も家具も使われてなんぼ”という考えのもと、香川県庁舎にあるモダニズムの名作家具を借りてきて、実際に使える形で展示をしています。香川県庁舎といえば東京都庁も手掛けた丹下健三さんの名建築としても有名で、ここにある家具も丹下健三が手掛けたものが数多く存在します。同じセクションは香川県庁舎の模型や丹下健三自邸の模型など、丹下健三の世界観を味わえる空間になっているのです。実は、館内のいたるところに置いてある椅子も香川県庁舎のもので、坂倉準三建築研究所で学んだ長大作さんが作った「天童木工」のものだというこだわりっぷり。こうした細かい仕掛けもさすがだなと感じた展覧会でした。

■建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの
日程:2018年4月25日〜9月17日
時間:10:00~22:00(最終入館 21:30) ※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)
場所:森美術館
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
入場料:一般 1800円 / 学生(高校・大学生)1200円 / 子供(4歳~中学生)600円 / シニア(65歳以上)1500円