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NYジェンダーニュートラルサロンを運営する日本人美容師、細野まさみとは

 世界中でLGBTQについて関心が集まる今、ジェンダーニュートラルサロンとしてニューヨークに店を構えるのが「ベーカンシー プロジェクト(VACACY PROJECT)」だ。東京をはじめ、ニューヨーク、香港、アムステルダムに店舗を持つインターナショナルサロン「アソート(ASSORT)」のグループサロンとして2016年にオープンした。店長を務めるのは日本人の細野まさみ=クリエイティブ・ディレクター。自身もクイアであることを公言し、同世代のLGBTQのニューヨーカーからファッション・デザイナーのレイチェル・コーミー(Rachel Comey)など著名人までが利用するサロンとして注目を集めている。日本でのカルチャーやニューヨークで積んだ経験を通して考えてきた彼女ならではのジェンダーに対する視点と今後のビジョンについて聞いた。

WWD:ニューヨークで働こうと決めたきっかけは?

細野まさみ(以下、細野):美容師になる前からニューヨークやロンドンのパンキッシュなヘアスタイルが好きで興味があり、どちらにも行ってみてから働く都市を決めようと考えていました。当時日本ではやっていた、日本人が言う“外国人風ヘア”ってなんだろうと違和感を持っていたんですよね。渡米して自分たちが思っていた“外国人風ヘア”っていわゆる白人のヘアスタイルで、実際はさまざまな人種の人たちのヘアスタイルがあることを知り、想像を覆えされてより関心を持ちはじめました。

WWD:英語はもともと得意だった?

細野:全然(笑)。でもコミュニケーションがとれなければ何も始まらないので、まずは一切日本語を使わないようにしました。iPhoneやSNSの設定言語を英語に変えたり、日本人ではなく海外の友人をつくったりと英語を使わないといけない環境に身を置くことを徹底していました。

WWD:「ベーカンシー プロジェクト」のクリエイティブ・ディレクターになった経緯は?

細野:2012年ニューヨークに来て、1店舗を経て同店のオーナーサロン「アソート ニューヨーク」店の面接を受けました。オーナーの小林ケンさんにスタイリストとして育ててもらい、自信がついた頃自分のお店を持ちたいと思いました。彼に相談してみたら、「別ブランドサロンとして一緒に店を出してみようよ」と話をいただいたことがきっかけです。

WWD:今ニューヨークではやっているヘアスタイルは?

細野:はやりに関係なくその時の気分や自分を表現したい髪型を見つけてオーダーするお客さまが多いですね。ばっさりカットするお客さまもいれば、セルフカットして来るお客さまがいたりと、はやりにとらわれていないと思います。私自身のヘアカットの仕方もまずはその人のパーソナリティーを引き出してからカットをし始めます。

WWD:どうやってパーソナリティーを引き出す?

細野:その日着ている服や好みのファッションを重点にそのお客さまの個性や特徴を見つけますが、前髪のいじり方や表情の変化、お店の入り方も敏感に見るようにしています。切るまでに15分くらいじっくり話して、切り始めることも。お客さまがしたい髪型のニュアンスをきちんと理解した上でカットしたいです。カットし終わった後も自撮りしたくなるぐらい満足して喜んでほしいですね!

WWD:得意なヘアスタイルは?

細野:ショートヘア、カーリーヘア、ハイレイヤースタイルが自分のシグニチャーカットです。街中で「それまさみに切ってもらったの?」って話題になってくれるとうれしいですね。

WWD:お店のステッカーがレインボーカラーなのは何か理由がある?

細野:ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領がLGBTQについてネガティブな発言をしたことがきっかけでレインボーにしました。私自身がクイアであることもあり、美容師の自分にも何かサポートできることがあるんじゃないかと考え、お店のコンセプトを性別を問わないジェンダーニュートラルサロンにしました。

WWD:カット料金は、従来ならば男女別だが、「ベーカンシー」の場合は性別関係なく80ドル(約8500円)と統一で表記されている。それもこの理由?反響はあった?

細野:そもそも「“メンズカット”や“ウィメンズカット”ってなんだろう」と疑問に思え、男女で料金が違うのも不思議に感じました。ショートヘアは男性だけでなく女性もするし、ロングヘアの男性だっている。ヘアスタイルも男女関係なく自由でいいのではと思い、表記と料金も統一しました。統一したタイミングがトランプ政権が立ち上がった時だったので、「日本人の美容師が料金を統一した」ことに注目してもらい、米「ヴォーグ(VOGUE)」や「i-D ジャパン」などファッションメディアからも取材がありました。

 

WWD:モデルとしてショーにも出ていた経験もあるが。

細野:いろんなブランドがショーモデルに白人で痩せたモデルだけでなく、性別や年齢関係なくモデルに起用することで多様性を表現していると思います。その姿勢をクイアの自分もサポートしたいと思い、「ヘルムート・ラング(HELMUT LANG)」のSNSキャンペーンや「サンディー リアング(SANDY LIANG)」「エルアールエス ニューヨーク(LRS NEW YORK)」のショーでモデルの活動したことがあります。

WWD:今後どのような活動をしていきたい?また夢は?

細野:自分の周りにいるアーティストやクリエイターとの仕事を重ねて、ヘアのデザインはもちろん、若い美容師の人たちにも影響を与えられるようなアイコン的存在になりたいです。新しいヘアブックも作りたいですが、いずれは今の店舗を、トレンドが生まれつつあるチャイナタウンに移したいです。ブックストアやコーヒーショップ、ギャラリーなどを併設して「ベーカンシー プロジェクト」というブランドとしてもっと大きく展開していきたいですね。