ファッション

パリ発「アクセップ」の洋服を飾る新感覚ジュエリー 「マルジェラ」「カルティエ」などで働いて磨いた自由な発想と誠実なモノづくり

PROFILE: アナ・クセニア・エネ・ピネスク/「アクセップ」設立者

アナ・クセニア・エネ・ピネスク/「アクセップ」設立者
PROFILE: ギリシャとルーマニアにルーツを持ち、8歳からフランス在住。フランス・モード研究所でプレタポルテのデザインを学び、「フセイン チャラヤン」でキャリアをスタート。その後、名だたるメゾンでレザーグッズやアクセサリーのデザイナーとして経験を積んだ。2022年に自身の名前の頭文字を冠した「アクセップ」を設立。1歳半の息子を持つ母でもある

素肌にまとうのではなく、“洋服を飾るジュエリー”というユニークなコンセプトを掲げるパリ発「アクセップ(AXEP)」は、アナ・クセニア・エネ・ピネスク(Ana Xenia Ene Pienescu)が立ち上げたブランドだ。衣服の何気ない要素をジュエリーで再解釈し、新しい着飾る楽しみを提案する。例えば、商品タグをかたどったシルバーのスターリングジュエリーをアウターの袖口にさりげなくぶら下げたり、ボタンやシャツの袖口といったディテールをレザーやシルバーを用いてボタンホールやベルトループ、アイウエアのテンプルなどを彩るチャームにしたり。昨シーズンからはレザーグッズにも挑んでいる。

建築家の両親のもとで育ったピネスクはプレタポルテを学んだ後、「フセイン チャラヤン(HUSSEIN CHALAYAN)」や「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」「カルティエ(CARTIER)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」「ロエベ(LOEWE)」などでキャリアを積んだ。2022年に自身のブランドを立ち上げ、日本のセールスエージェントとの出会いを機に翌年独立。「ロンハーマン(Ron Herman)」での取り扱いを皮切りに、日本国内の有力セレクトショップへと販路を広げ、現在は欧米市場にも進出している。独自の視点でのファッションアクセサリーの可能性を広げるピネスクに、ブランドの歩みやクリエイションの舞台裏、今後の展望を聞いた。

WWD:“洋服を飾るジュエリー”というコンセプトはどのように生まれた?
アナ・クセニア・エネ・ピネスク「アクセップ」設立者(以下、ピネスク):ブランドを始めた時から、大きな声で注目を集めようとするアイテムは作りたくないと考えていた。細部にこだわったデザインは、すぐには気づいてもらえないかもしれない。でも、私はそういうアイテムが好き。ファッションの仕事をしていると、つい人の服装を一瞬でスキャンするように見てしまう。私は、そんな視線の流れにちょっとした違和感を生み出したかった。例えば、「あれ? この人、服のタグを取り忘れているのかな?」と思わせるような。小さな驚きが会話のきっかけにもなるし、見慣れたアイテムを違う視点から捉え直せるところが面白いと思う。

WWD:そもそも、デザインに興味を持ったきっかけは?
ピネスク:両親が建築家だったので、幼い頃からデザインは身近な存在だった。友人の家に遊びに行くと、帰宅してからカタログを広げて、その家のインテリアを勝手にデザインし直していたの。最初は建築やインテリアに興味があったけれど、次第にもっと身体に近い領域でデザインしたいと考えるようになり、プレタポルテを学んだ。でも洋服は、時に強いメッセージを発する。私はもっと自由なアプローチで、誰もが身に着けられる形で身体と向き合いたいと思い、ジュエリーに辿り着いた。ただ、今でも服をデザインしているような感覚はある。椅子に服を着せたり、テーブルに布をまとわせたりするのも、私にとっては同じクリエイション。レザーグッズも衣服の一部分を切り取ったようなデザインにしている。表現の形は変わっても、根底にある関心はずっと変わらないのかもしれない。

ラグジュアリーとは、
“移動の自由”

WWD:建築から衣服、ジュエリーへとスケールは変わっても、一貫したテーマがある?
ピネスク:そうね。以前、「あなたにとってラグジュアリーとは何か?」と聞かれたことがある。私はいつも、ありふれた日用品と、特別な価値を持つ品との境界について考えている。何を貴重と感じるのか、その価値は誰が決めるのか、と。そんな問いを重ねるうちに、私にとってのラグジュアリーとは“移動の自由”なのだと気づいた。ジュエリーは身体の上で自由に位置を変えられる。さらに広く捉えれば、自分の意思で好きな場所へ行ける自由こそ、ラグジュアリーなのではないかと思う。幼い頃から惹かれてきた建築も、衣服もジュエリーも、私の中では身体と空間、自由というテーマでつながっている。

WWD:ジュエリーの専門的な技術は、どのように学んだ?
ピネスク:実は、ジュエリー制作を専門的に学んだわけではないの。プレタポルテを学んだ後、「フセイン チャラヤン」のスタジオで1年間働いた。小さなチームだったので、リサーチから制作まで、あらゆる工程に携われた。そこで実物大のモックアップを沢山作った経験が、今の仕事にも生きている。私はまず、自分の手で模型を作る。服なら布を身体に当ててドレーピングするし、バッグなら素材を切ってホチキスで留める場合もある。自分のアパートを改装した時には、家具の全てを実物大の段ボールで再現したりもした。実際に形にすると、空間やバランスを理解しやすいから。頭の中には何千ものアイデアが浮かんでいるので、最初から完成度を追求するより、まずは直感的に形にしたい。その後、職人と一緒に細部を詰めていくの。

職人との仕事は、
ダンスに似ている

WWD:職人との関係もクリエイションにおいて重要?
ピネスク:もちろん。私の模型を実際のジュエリーへと仕上げてくれるのは職人。だからこそ、直接会って、お互いを理解する姿勢を大切にしている。職人との仕事は、ダンスに似ている。時には激しく、時にはゆっくりと。でも、お互いの動きや感覚を理解し合う姿勢が欠かせない。現在はポルトガル・ポルトのアトリエを中心に制作している。ファインジュエリーにも対応できる高い技術を持つ工房。エナメルはフランスのリモージュ、石を使ったパーツはイタリアで作っている。ブランドが成長し、生産体制も変わったけれど、人と人との関係を大切にしたいという気持ちは変わらない。

WWD:日本はブランドにとって最大の市場だが、日本文化との親和性についてはどう感じている?
ピネスク:日本からスタートできたのは、本当に幸運だったと思う。日本文化は、私の性格や仕事への向き合い方と、とても相性がいいから。私は何事にも100%の情熱を注ぐタイプ。例えばパッケージを作る時も、テープを真っ直ぐ貼り、端をきれいにカットする。時間はかかるけれど、細部まで丁寧に仕上げたい。日本の取引先の梱包にも同じ丁寧さが感じられて、とても感動した。細部に込めた思いを理解し、同じように大切にしてくれる人達がいるのは大きな喜び。だから私も、もっと良いものを届けたいと思える。
ショールームを開く時も、空間のインスタレーションまで丁寧に作り込む。私にとっては当然の姿勢。自宅に友人を招いて食事を振る舞う時、段ボールのお皿で料理を出したりはしないでしょう?(笑)。制作でも、お客さまを迎える場でも、隅々まで敬意を払いたいと思っている。

WWD:「頭の中に何千ものアイデアがある」と話していたが、インスピレーションが尽きる心配はない?
ピネスク:本当に、頭が休まる暇がないの。最近はデザイン学校で学生達に教えているのだけれど、彼らのプロジェクトを聞いていると、次々とアイデアが浮かんでしまう。「一つじゃなくて10個くらいやってみたら?」って。でも、あくまで学生自身のプロジェクトだから、口を出し過ぎないように気をつけている(笑)。
以前は思いついたアイデアを全て形にしようとしていたけれど、今はブランドを運営する立場として、優先順位をつける大切さも感じている。新しい発想が浮かんだら、まずは模型にするなど、目に見える形で残しておく。すぐに実現する必要はないし、今シーズン中に完成させなくてもいい。作品にも時間を与え、世の中でどう受け止められるかを見守りながら、少しずつ完成度を高めていきたいの。

感情の浮き沈みも
ブランドを育てる醍醐味

WWD:ブランドが成長するにつれて、クリエイションとビジネスの両立ではどんな課題に直面した?
ピネスク:最初はエクセルが本当に苦手だった(笑)。どうしてこんな面倒な作業をしなければいけないんだろうって。でもある時、「エクセルも一つの言語だと思えばいいんだ」と気づいた。私は外国語を学ぶのが好きなので、そう考えたら気持ちが楽になったの。
今でも、初めての挑戦には不安がつきまとう。でも「今は自分のコンフォートゾーンの外にいる。それは良い兆候だ」と考えるようにしている。もちろん、時には「もう無理!」と泣いてしまう日だってある。でも翌日には「よし、やろう。きっと上手くいく」と思えるの。そんな感情の浮き沈みも含めて、ブランドを育てる醍醐味なのだと思う。

WWD:今後、ブランドをどう発展させていきたい?
ピネスク:まずは、今一緒に働いている仲間達との関係をもっと深めたい。必ずしもチームの人数を増やす必要はなく、それぞれの専門分野でクリエイティブな発想ができる人達と、長く仕事を続けられたらと思う。異なる専門性や視点が交われば、ブランドにも新しい可能性が生まれるはずだから。
それから、ジュエリーを起点に、ブランドの世界観をもっと空間へと広げる構想もある。私は幼い頃から建築やインテリアに興味があったし、これまでも身体と空間の関係を探求してきた。今後はジュエリーにとどまらず、私達が日々過ごす空間にもアプローチできたら面白いと思う。まだ具体的な形を模索している段階だけれど、商品カテゴリーを増やすのではなく、「アクセップ」ならではの視点で暮らしに新しい発見や楽しさをもたらすのが理想。ジュエリーからレザーグッズ、そして空間へ。一見異なる分野に見えても、私の中では全てつながっている。身体と空間の関係を軸に、これからどんな表現が生まれるのか、私自身も楽しみ。

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