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中野皓「フラクション」デザイナーを形成する思考とキャリア 【学生リポーターが行く!】

PROFILE: 中野皓/「フラクション(FRACTION)」デザイナー

中野皓/「フラクション(FRACTION)」デザイナー
PROFILE: (なかの・こう)1990年生まれ。上智大学文学部在学中から「リック・オウエンス」でリテールを経験後、2019年に独立。「トウキョウサンダル」のデザイン、靴製作、三原康裕率いるソスウの海外セールスやビジュアル撮影などに携わる。24年に「フラクション」を立ち上げた

連載【学生リポーターが行く!】では、ファッション&ビューティ業界の気になるヒト、モノ、コトに学生が突撃し、リポーターとしてインタビューを行う。今回はブランド「フラクション(FRACTION)の」中野皓デザイナーを、現在大学2年生の片岡悠さんが訪問。中野さんが日頃訪れるという、西荻窪のカフェ&バー「ジャッジメント・レコード・ラウンジ」で取材を行った。

PROFILE: 片岡悠/大学2年生

片岡悠/大学2年生
PROFILE: (かたおか・こころ)北千住のセレクトショップ「アマノジャク」で「フラクション」を知り、以来ブランドとデザイナーのファンに

「リック・オウエンス」「メゾン ミハラ ヤスヒロ」等の
経験を経て独学で「フラクション」を立ち上げ

中野皓「フラクション」デザイナー

片岡悠(以下、片岡):「アマノジャク」で25年春夏の受注会をしていた時にブランドのことを知り、その後店舗に行って試着するうちにどんどん興味が湧いて。あまり他にはないストイックな世界観に引かれて、毎シーズン見ては買うようになりました。少し難解なシーズンテーマや、中野さんご自身の人間性が反映されているのがかっこいいなと思います。

そこでお聞きしたいのが、どのようにデザインやパターンメイキングを習得したのかなのですが独学でしょうか?

中野皓「フラクション」デザイナー(以下、中野):それまでの仕事で服作りを見てきたのも大きいのですが、基本的には独学です。時代それぞれのスタイルは、ヨーロッパの服装史について本を読むことで学びました。歴史の中で現代のテーラードジャケットの形に至るまでどのような変容をしてきたのかについては、僕がデザインをやる上でかなり大事な部分です。

実作業としては、まずは洋服をバラすことから始めました。クラシックな文脈の服がどのように作られて成り得ているのかは、表面上だけではわかりません。例えば、服の骨組みとなる芯地(しんじ)は解体しなければ見えないので、まずは服をバラさなければならなかったのです。「表地に対してどのような芯地なのか」「どんな厚さにしたいのか」など、いろいろな服を解体する中で生まれるさまざまな疑問について掘り下げていくことが必要でした。紳士服の一番の基本はテーラードジャケットで、クラシックなものでもいろいろな仕立て方があります。僕がメーンで使っているのは毛芯という天然素材の芯地で、畠山さんという方に本当にお世話になり、現在に至るまでさまざまなことを教えてもらっています。パターンに関してはパタンナーと協業していき、相談をしながら形にしています。

とはいえ、デザインや立体を考える上では、「トウキョウサンダル(TOKYO SANDAL)」 「ローリング ダブトリオ(ROLLING DUB TRIO)」のデザイナーである徳永さんから教わった靴作りがベースとなっていますね。デザイナーとしての私の師のような存在です。

片岡:最近では効率的な接着芯を使用する企業が多いですが、それでも昔ながらの技術である毛芯を使うのには何か理由があるのですか?

中野:毛芯を使う理由は、美的観点と持続性ですね。接着芯も素晴らしいものだと思っていて、「フラクション」でも毛芯では対応できない部分に関しては接着芯を使用しています。

毛芯を使うのは、僕が描いている立体を作る上では、毛芯を使った方が絶対的に美しくなることと、接着芯は劣化が早いからという理由です。数十年前はカジュアルジャケットでも毛芯や、コットンで作られたシーチングという生地を使っていて、そういったものは持続性が高く美しい。サステナビリティーがどうとか、そういうことではなく、個人的に僕は服を長く着る方なので、持続性は大事なことの1つです。

片岡:プロダクト制作は楽しいですか? 一番作るのに苦労するアイテムについても知りたいです。

中野:楽しいですよ。「フラクション」では現在、実際の商品に使用する生地では仮縫いはせず、シーチングでトワレを作ってからテストを行い、最終的にサンプルを作ります。だからいくら想像していても「サンプルができるまでは、どんなものになるか分からない」という楽しさがありますね。

テーラードジャケットでも、シャツでも、袖を作るのが一番大変です。また、楽しいことについても袖ですね。同じ袖でも、多くの人が腕を通したときにきれいに見えることが大事です。テーラードジャケットのクラシックな考え方で言えば、袖に変なシワが入るのはあまり良くないとされていて、どこまで自分の形を追求できるか、どこまでクラシックであり得るか、そのバランスを取るのは難しいことだと思います。

中野デザイナーの思考を反映した
コレクションテーマ

片岡:デビューコレクションである25年春夏では、体の輪郭や左右差、骨格といった関心に対し、画家のエゴン・シーレ(Egon Schiele)を接続し構想したと過去のインタビュー記事で拝見しました。「フラクション」において、「理想の身体」「適当な身体」とはどんなものなのでしょうか?

中野:身体には多様性があって、生活そのものが反映されますよね。もちろん洋服を着る上で「こういう身体が適当だ」ということはありますが、そうやって個々人の生活が反映された身体は、どれも礼賛するべきだと思います。

フェティシズムとしての考え方に関しては、例えば細長く鎖骨が伸びていたり、巻き肩であったり、いくつかの好みがあります。巻き肩の人がジャケットを着た時に出る肩や袖の歪みは、自分の好きなものの1つです。世の中には僕が想像していたものとは全然違う美しい運動体というものがたくさんあって、そういうものを見つけられたときはすごくいいなと思います。

片岡:26-27年秋冬コレクションでは明確なシーズンテーマは設けず、芥正彦氏による「風神雷神図」の観劇体験や過去の記憶がコレクションの起点になっていました。テーマを明示するか、しないかで、服の見せ方やアプローチの仕方は変わりますか?

中野:テーマを明示するシーズン、しないシーズン、それぞれ明確な理由があります。また、僕自身の中ではいつもテーマを持っていますが、見せ方のアプローチについてはあまり意識をしていないです。ビジュアルの情報やロジックの情報は、時にどちらかが邪魔になることがあると思うので、そのバランスによって違う見え方になることはあります。そういう意味では、表面上では違うように見えるかもしれませんが、僕としては特に見せ方を変えているつもりはありません。

片岡:ブランドとして取り扱いたくない、もしくは触れたくないテーマやモチーフはありますか?

中野:すごくいい質問ですね。個人としても法人としても、ですが、「社会的にネガティブな何かをそのままネガティブに表現する」というようなことはやりたいと思わないですね。例えば今世界で起きている戦争を、ネガティブに彷ふつとさせるような形で表現しようとは思いません。問題提起を感じさせるものは素晴らしいけど、当事者ではない自分たちが勝手に問題を解釈して、それをネガティブに想起させるようなものを作って売るのは、果たしてどうなんだろうと思います。今だけではなく、一生そういうものはやらないです。

ショー展開や旗艦店オープン予定は?
「フラクション」のビジネス展開

片岡:現在「フラクション」に不足していると思うものはありますか?

中野:基本的には、すべて不足しているんですよね。その都度必要なことは変わってくるし、置かれている特定の立場において引き出すべきではない能力もあります。自分たちが置かれた状況が変わるのは想定内で、必要となったときに必要なものを補っていくという感じです。

片岡:現在はセレクトショップやポップアップストアを中心に販売しています。オフィシャルサイトでの販売は行っていませんが、何か意図があるのでしょうか?

中野:単純に需要と供給を合わせているのと、フィジカルでお客さんに会いたいというのもあります。どんなお客さんが「フラクション」に興味を持っているのかを見ることができるのは、すごくうれしいことです。

片岡:セレクトショップとの関係性は重視していますか?

中野:そうですね。全く価値観が共有できないのは良くないですし、長く付き合っていきたいと思っています。少しずつ一緒にブランドを成長させられるようなパートナーとやっていくのが大事なことですし、人としてもその方が気持ち良いですよね。インスタントな関係というのは全く認めていないです。

片岡:将来的に、旗艦店を持つことも検討していますか?

中野:ブランドにとって、旗艦店が必要になるような成長期を迎えたら出店するべきだとは思っていますが、いつになるかは分かりません。もし出店するなら、空間で言えば立地や内装、環境は、自分が影響を受けてきた文化に密接である方がいいなとは思います。僕は白井晟一(せいいち)という建築家がすごく好きなので、彼の作品のような穴倉的な雰囲気の建物には憧れますね。

片岡:いつかランウエイで発表することも計画していますか?

中野:旗艦店と同じで、然るべきタイミングがあれば行います。やる必要がなさそうだったらやらないですね。でも今後必ず考えなければならないことの1つだと思います。「アレキサンダー・マックイーン(ALEXIANDER MCQUEEN)」2006-07年秋冬のショーにホログラムのケイト・モス(Kate Moss)が登場したんですが、そのときのテーマや使う楽曲など演出1つ1つに衝撃を受けました。あとは女性のダンサーたちをモデルに起用した「リック・オウエンス(RICK OWENS)」2014年春夏のショーにも、すごく強いメッセージ性を感じましたね。全員「アディダス(ADIDAS)」との最初のコラボスニーカーを履いていたのも、単なるコラボレーションではなく意味のある見せ方をしていたと感じます。ファッションショーは、何も考えずにやることではありません。やるのであれば、意味のあるものをやらなければいけないと思っています。また、ランウエイに固執するのではなく、インスタレーションのような形でブランドを表現するのもありだと思っています。

中野皓「フラクション」デザイナー

片岡:将来的なブランドのポジショニングについては、どのように考えていますか?

中野:具体的に何か相対的なポジショニングを考えるということではなくて、どういう価値をちゃんと打ち出していけるのかということが大事だと思っています。とはいえ取引先の店舗で「リック・オウエンス」や「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」など、僕自身が影響を受けたブランドの隣に「フラクション」が置かれていると、やはりうれしい気持ちになりますね。

片岡:今挑戦していること、したいことはありますか?

中野:たくさんありますが、例えば「四分一(しぶいち)」という、日本古来の技術を使ったボタンの鋳造業務を現在行っています。学生時代に影響を受けた松岡正剛氏の著書に「日本という方法 おもかげ・うつろいの文化」という本があり、「日本とは本質的に何なのか」というものを編集的な観点で追求しているのですが、その本の中で松岡さんがおっしゃられていたことから、生活に馴染む日本的な何かを作っていきたいと思っています。歴史は人間が残してきた物語であって、100%客観的な事実として正しい歴史は存在しません。ただ、事実としてあり得るのは、物質的なものです。僕の会社をきっかけに、とは言いませんが、忘れられてしまった技術やものを思い出してもらえるようになったら、それはすごく意味があることだなと思うんです。そういう意味で、「四分一」というものがずっとあり続ける。そういうものを残していきたいなと思います。

「社長としての姿をまざまざと見せてくれた」
三原康裕デザイナーとの思い出

片岡:三原康裕デザイナーとは、どのように出会ったんですか?

中野:「ネハン ミハラ ヤスヒロ(NEHANNE MIHARA YASUHIRO)」のショーに出演した際に、打ち上げに呼んでいただいたことが最初の出会いです。その時に三原さんと連絡先を交換して、もう10年くらいの付き合いになります。それからパリでもフィッティングモデルをやったり、展示会に行ったりして、三原さんの仕事を近くで見るようになりました。「すごいな」って思いましたね。「メゾン ミハラ ヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」というビッグネームのブランドでも、こんなにも努力をしているんだっていうのを目の当たりにしました。

片岡:三原デザイナーとの思い出話があればお聞きしたいです。

中野:真っ先に思い起こす思い出の1つは、パリでショーを終えた後、三原さんと僕の友だちと食事に行った後、コンスタンティン・ブランクーシ(Constantin Brancusi)の展示を見に行った時のことです。搭乗予定の飛行機ギリギリまで見て、僕と三原さんはウーバーで空港まで向かうのですが、その車内で聞いた三原さんの話は心に残っていますね。どうして三原さんが靴や洋服を作るのか、ブランドを始めた頃の時代背景やアートが置かれていた状況、アーティストの話など、いろいろ教えてくれました。三原さんとは、アートや映画、音楽の話をすることがすごく多いですね。その他はここではお話できません(笑)。

片岡:三原デザイナーからの一番の学びとは?

中野:僕は三原さんからデザインを教えてもらったわけではないので、師弟関係というわけではありません。今では仕事ではなく人間としての関係で、先輩という感じです。若い人を応援したい気持ちがすごく強くて、社長としての姿も素晴らしい。ああいう人が、みんながついていきたいと思える社長なんだろうなと思いますね。社員のことをよく考えていて、面倒見が良くて、ちゃんと人を育てる。そういうのをまざまざと見せてくれた、初めての人だと思います。

三原さんを見ると、歴史を感じます。九州の人が東京に来て世界で1つの時代を作っていますよね。日本のファッションシーンをグローバルに一番盛り上げているうちの1人は三原さんなんじゃないかって、僕は思っていますね。

昨今のファッションについてどう考える?
中野デザイナーの生活と思考

片岡:中野さんご自身は、どんな生活を送られているのでしょうか?

中野:基本的にはルーティーンです。まず正午に近い朝に起きて、バナナとヨーグルトとチョコレートを食べる生活をほぼ毎日、十数年間続けています。2月に17歳で旅立った、愛犬で大親友のぴーちゃんがいた頃は、朝食の前にお話しすることから始まりました。今ではまずお線香をあげて、朝食をとります。そのあとはレコードに針を落とし、掃除機をかけて、14時くらいに新宿のアトリエに行って仕事をして、忙しくない時期なら20時頃に帰宅します。

ここ数年は、帰宅後に自炊をするようになりました。カレーやパスタ、鍋、中華料理などを作ったりしますね。その後はお風呂に入って、0時頃に飲み始めて、そこからデザインの仕事をしたり、読書をします。寝るのは4時頃ですね。愛猫のおくれちゃんと一緒に寝ています。あとは美術館が好きで、早稲田大学會津八一記念博物館には毎シーズン行きます。他にはレコードバーやオーディオショップに行ったりしていますね。

片岡:中野さんにとって、最近の若者のファッションはどのように映っていますか?

中野:僕自身、行く街が限られているので偏りはあると思いますが、新宿や池袋を歩いていると、僕が10代だった頃に見たような感じの服を着ている人が結構いるんですよね。ギャル男ファッションや細身でダークなファッションが特に印象に残ってます。今では「ダークウエア」と呼ばれているんですかね。そういうのを見ていると、単純に時代は回るんだなと思います。テクノロジーが進化したり、クワイエットラグジュアリーやビンテージというブームがある中で、そういう服装をしている子たちを見るとすごくいいなと思います。あの時代にあった1つのスタイルが、当時のものだけではなくてまた回ってきて、新しい形で存在するというのは、すごく喜ばしいことだと思います。

一方で、それは僕自身がそういうものをリアルに感じられる世代になったということでもあると思うんです。別に「それってリバイバルだよね」とか言うつもりじゃなくて、僕らが20代の時って自分たちが流行の当事者だったので「あれ懐かしいな」っていう感覚がありませんでした。30代中盤になって、ようやく若い人たちの服装で懐かしさを感じたり、「いいな」って感じられるようになったんだと思います。

片岡:ファストファッションのように、早いサイクルで服が消費されることはどう思いますか?

中野:僕自身はファストファッションのビジネスを担っていないので、そこに対して何か意見を持つような立場でもないですし、今「ファストファッション」と言われているようなブランドのアイテムって、正直10年、20年余裕で着られるくらいしっかり作られたものが多いと思うんです。「ファストファッション」と銘打たれたブランドは多いけど、実際にはトレンドに関係なく、長く着られるものも多いですよね。手頃で、若いうちからいろいろな皮膚感覚に触れられるのは1つの魅力ではないでしょうか。そういったブランドも素晴らしいことをやっていると思います。

中野皓「フラクション」デザイナーと片岡悠さん

片岡:中野さんご自身が、学生時代の自分にアドバイスを送るとしたら?

中野:「何者にもなれないということは、この社会で生きる上では不可能」だと言いたいですね。学生時代もそれは分かっていたけど、実際にやってみたら本当に無理です。とはいえ、当時の自分にそんなアドバイスをしたとしても、聞く耳を持たなかったんだろうと思います。

僕、学生時代は就職するつもりがなかったんです。当時、家庭教師のアルバイトをしながら学校にも行かずにジャズ喫茶に行って、難しい本を読んだりして「マルクスがこんなことを言っているけど、どういうことなんだろう」とか、そんな学生だったんですよ。劇作家の寺山修司氏に憧れていて、社会外存在みたいなものにもすごく興味がありました。無理なことなんですけど、「社会に属したくない」と思っていたんです。つまり、「何者でもない人になりたい」。例えば先生やデザイナーなど、仕事をすればいろいろな肩書きが生まれますが、そうやってラベリングされないような人間になりたかったんですよね。

あともう1つ言うとしたら、マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)というフランスのアーティストが残した言葉ですが、「死ぬのはいつも他者」ということです。要するに、自分は自分の死を認識できない。死を認識するのは、他人が死んだときだけなんですね。当たり前ですが大事なアドバイスだと思います。

PHOTOS:KIZEN(W)

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