「フェティコ(FETICO)」の2026-27年秋冬コレクションをまとい、ランウエイを歩いたスナックのママがいる。JR高円寺駅から徒歩5分ほど、雑居ビルの5階にある「スナック シャンテ(以下、シャンテ)」のしほママだ。「自分自身が年を重ねるにつれて、成熟した女性にも着てほしくなった」という舟山瑛美デザイナーの思いを体現するように、初めてながら堂々と歩いてみせた。肌見せや極端なプロポーションを控えたコレクションは、同世代の女性にもリアルに映ったことだろう。
彼女は一体どのような人物なのか。なぜランウエイを歩くことになったのか。開店前に話を聞いた。
「あれもこれも全てお洋服のため」
PROFILE: しほ/「スナック シャンテ」ママ

しほママ:
元々歯科衛生士として働いていました。でも、歯科衛生士の仕事だけじゃ、好きなものを買えなくて。私、お洋服が大好きなんです。しかもデザイナーズブランドで、結構な値段になる。だから早い段階で水商売の道に入りました。東京には、当時惚れていたバンドマンと上京しました。六本木や吉祥寺、恵比寿のスナックやキャバクラで働きながら、歯科衛生士の仕事もして。多いときは5つの仕事を掛け持ちしていました。でもそれも苦じゃなかった。全部全部お洋服のためでした。
高円寺には唯一の大分出身の友だちが住んでいました。だから東京に来てから週に3回は遊びに来ていたかな。肌感で私に合う街だと思いました。
最初は高架下のお店で働いていました。ネズミも出るしゴキブリも出る。トイレは和式で、内装が70年変わっていないような小さなスナックでした。そこに当時の「シャンテ」ママがよく飲みに来ていた。プライベートだから愚痴も出る。「しほちゃんみたいな子がいたら良いのに」の言葉を本気にし、「シャンテ」に入ることにしました。もう4年前の話になります。その1年後、今から3年前にお店を買い取り、ママになりました。
WWD:相当お洋服がお好きなんですね。
しほママ:でも、ファッションセンスがあるかはまた別の話かも(笑)。
地元がド田舎なんです。最寄り駅は無人だし、そこを走る電車は1両しかないし。ローソンができたのは10年前だし、ファミレスは夜9時に閉まるし。そんなところで育ってきたから、おしゃれの仕方が分からなかった。イタさがあったと思います。「セックス・アンド・ザ・シティ(SEX AND THE CITY)」を見て、頭には鳥の羽のヘッドドレス、足元はピンヒールで「大分パルコ」(※2011年に閉店)の前を歩いてみたり、安室ちゃん(安室奈美恵)のコンサートに行った後にはミニスカートに厚底ブーツを合わせて出かけたり。コンサートやパーティーでする服を日常で着ていました。
しかも、まだそれが抜けていない(笑)。今も仕事ではもちろん、プライベートでもドレッシーなロングワンピースをよく着ます。
WWD:ご自宅には相当なコレクションがありそうですね。
しほママ:それが20代から着ているのは2着くらい。よく長く着られる服の特集を見かけるし、私自身とても素晴らしいことだと思うんですが、それができない(笑)。なぜかいつも思い描いた未来とは違うところにいるんですよね。たぶん10年後も想像できないことをしている。だから「長く着られるか」より「今着たいか」を大切にしています。着なくなった服は、シャンテガール(「シャンテ」の女性スタッフ)にあげたり、フリマに出したりしています。
WWD:特に好きなブランドを教えてください。
しほママ:やっぱり「フェティコ」かな。4年前に一目惚れして、少しずつ集めてきました。毎シーズン展示会へ足を運んで、夢中になって買っています。
「また『フェティコ』が好きになっちゃいました」
WWD:元々モデルのご経験はあったのでしょうか。
しほママ:今のアカウントとは違うのですが、前のアカウントには3万人ほどフォロワーがいました。だからインスタグラマーのようなお仕事をいただくことがありました。ブランドのモデルをしたり、雑誌に載せてもらったりしていました。
でも、これまでは私1人にライトが当たっていたけど、今回はほかのモデルと並ぶ必要があった。改めて、本物のモデルさんってすごいなと思いました。
WWD:オーディション当日のことを教えてください。
しほママ:展示会に行っているのでブランドスタッフとも面識があり、オーディションの3、4日前に連絡が来ました。
20人採用されることだけ頭に入れて会場に行ったら、モデルが100人くらいいて。「あ、落ちた」と思いました。みんな若いし、身長180cmくらいあるし。しかも当時の私は髪の毛をピンクに染めていて、ブランドイメージと離れていたし(笑)。でも、どうやら連絡した時点で採用は決まっていたみたいです。オーディションに呼んだのは(ほかのモデルとの)バランスを確かめたかったからだそう。
そんなことを知る由もなく、待機室で待っていました。そしたらモデルエージェンシーの方に「すみません。〇〇と〇〇を連れてきました」と話しかけられて。スタッフだと思ったんでしょうね(笑)。あまりに突然のことで「私もオーディション受けにきた」とは言えませんでした。そうしたら今度はモデルに「オーディションを受けに来ました」と声掛けられて。またスタッフだと思われている(笑)。その後、面識のあるキャスティングの方が助けてくれましたが、場違いなところに来てしまったなと思いました。
WWD:どのような準備をしましたか。
しほママ:それが、心配して準備したものが全て裏目に出たんです。
まず太りたくなくて、2週間くらい同伴をお断りしていました。けど、フィッテイングで、当日着るのは体型が分かりにくいシャツにロングスカートだと知り(笑)。肌管理もしましたね。肌にツヤを出そうとエステに通ったんですが、本番はまさかのマットメイク。「あ、ツヤは全部無くすのね」と(笑)。あと、ウォーキングレッスンに通い、家でも店でも練習しました。そうして迎えた当日、モデルに向けて「今回はリアルな感じを出したいから一般人も入れました。だからモデル歩きしないで」とまさかのアドバイス(笑)。
そのままで良いと言われているのに、手がかかる女だと思われたくなくて時間とお金をかけてしまった(笑)。これも勉強でした。
WWD:当日のことを教えてください。
しほママ:お姫さまになった気分でした。メイク直ししたばかりなのに、3歩進んだらまたメイク直し。常に誰かが私に触れている。それが安心感につながりました。さらに「すごいステキ」「キレイです」と絶えず声を掛けてくれる。だから「こんな私なんて……」ではなく「これが私です!」と胸を張って歩けました。本番まで「めちゃコミック」を読めるほどリラックスできました。
本当に本当に夢みたいでした。今まで感じたことのない、言葉にできない気持ちになりました。もっとこんな感情を味わいたい。もっと積極的に自分の知らない世界に行こうと思いました。そんなことを繰り返していくうちに、いつかこの気持ちを言葉にできるのかなって。
WWD:ランウエイを歩く前と後で「フェティコ」の印象は変化しましたか。
しほママ:また好きになっちゃいました。今まではお洋服が好きだったのが、えみさん(舟山瑛美「フェティコ」デザイナー)に惚れちゃった。歳を重ねても、えみさんの作った服を着るんだろうなと思いました。そんなことを思ったのは、初めてでした。もちろんこの2026-27年秋冬コレクションもかなりの量を買いました(笑)。
WWD:ママとしての気付きはありましたか。
しほママ:「ママじゃない姿を見て刺激を受けてくれる人がこんなにいるんだ」。「スナックのママとして一生懸命働くことが全てだと思っていたけど、必ずしもそうじゃないのかも」。「たまにはこんな仕事もいいかな」。なんて思いました。巡り巡って、ママとしての仕事に還元されるから。
今回も「俺たちのしほママがランウエイを歩いた!」と常連さんがシャンパンを入れてくれました。(通常時の)3倍の売り上げが3日間続きました。求人応募も増えましたね。1日に5人から申し込みがありました。あと、シャンテガールも心なしか尊敬の眼差しで見てくれている気がします。
WWD:今後「シャンテ」が目指す方向を教えてください。
しほママ:「スターバックス(STARBUCKS)」に行く人って、「コーヒーを飲みに行こう」ではなく、「スタバに行こう」と言いますよね。ディズニーランドも同じで、「遊園地に行きたい」ではなく、「ディズニーに行きたい」と言う。「シャンテ」もそれを目指したい。「スナックに行きたい」ではなく「『シャンテ』に行きたい」と来店してもらえるような。
元々スナックっぽくはないんですけどね。下ネタもプライベートで会うのも禁止だし、女の子に「お前」と言ったら帰ってもらうし。最初はお客さまから客を選びすぎだと言われました。でも(最近力を入れている)TikTokやYouTubeで発信していると、来て欲しいお客さまと出会える。見てくれた100人のうち2人にしか刺さらないかもしれないけど、その2人がお店と相性の良いお客さんだったりして。
とにかく「シャンテ」のお客さまは人が良い。だから他のお店でも人気なんです。そんな人に「やっぱり『シャンテ』だね」と選んでもらえるようになりたいな。